喉元過ぎれば熱さ忘れる。 (28.10.2010)

西欧の思想では、刑務所は罪を償う場所ではなく、再び社会に復帰する準備をする場所だそうだ。現実はちょっと違う気がするが、この建前には便利な面もある。刑務所が罪を償う場合なら、罪を犯す(そして捕まる)度に、何度でも送り込まれ、何度でも釈放される事になる。しかし社会復帰を準備する場所なら、何度も犯罪をおかした(そして何度も捕まった)者に対して、「更正の見込みなし。」として、死ぬまで刑務所に収容する事が可能になる。これが理由で、ドイツを初めとして西欧諸国は、こうした建前を擁護しているのかもしれない。

実例を見てみよう。米国では州により、3度捕まると、無期懲役となる。アメリカらしい極端な法律だが、こうした法規にも関わらず、居住地、あるいは犯罪を犯す場所を変えないで、同じ州で3回も捕まる犯罪者がいるのは立派なもの。よく死刑擁護者が、「重罰は犯罪予防になる。」と言っているが、それが本当なら、同じ州で3度も捕まるような犯罪者は居ない(あるいはその数は極端に少ない)筈。実際にはそうでないことが、「重刑 は犯罪を抑止する」が間違っていることを証明している。さて、ドイツでは米国、日本に比べて罰則が軽いことで有名で、厳しい判決、無期懲役が下る事は滅多にない。政治家、銀行家を殺害したドイツ赤軍のメンバー、それも「俺は何も後悔していない。」と殺害を正当化している人物が、「恩赦」で釈放されるくらいだから、実際上、無期懲役はドイツには存在しない。しかし、例外もある。

ドイツでは、暴力(性)犯罪を度々犯すと(そして捕まると)、時々、無期懲役が課される。ただし、無期懲役の判決を出すと(遅くても)20年後に恩赦にする事が決められているので、無期懲役ではなく、懲役刑+保護収容(Sicherungsverwahrung)という判決を出す。つまり刑務所で刑期を勤め上げた後も、引き続き刑務所にて(あるいは精神療養所にて)収容され続けるわけである。こうして一向に更正できない(する気のない)犯罪者が 、また社会に出て、犯罪を犯すのを未然に防ぐわけである。これはなかなか効果的な措置の為、ドイツの法廷は犯罪者が刑期を勤めている期間中の言動を見て、「全く反省していない。」と判断された場合、"Du kommst nicht raus.!"(釈放しないぞ!。)として、刑期終了後、保護収容を付け加えていた。というのもドイツの法律は甘いので、公判の際に「後悔しています。」と言えば、かなり減刑になり、この保護収容を避ける事が容易 すかった。しかしいざ刑務所に送り込まれると、後悔の跡などみじんもなく、早々に刑務所を出て、また犯罪を犯すケースが後を絶たなかった。こうした教訓から、刑期服務中の態度を見て、保護収容を課すことにしたわけである。

これに、「ちょっと待った!」をした犯罪者が居た。これまで度々強盗を犯して、刑務所と自宅を往復する生活を繰り返していたReinhardである。ラインハルトがまた強盗 、及び今度は殺害未遂で捕まったが、「ごめんなさい。」をした為、たった5年間の刑務所送りになっただけ。 何と言う犯罪者に甘い国だろう。おまけに保護収容なし(後悔しているので。)。ところが刑務所で、態度をころりと変えて後悔の跡などみじんもなく、釈放後、犯罪を犯すのが誰の目にも明らかだった。この為、検察は ラインハルトの保護収容を申請、裁判所もこれを認めた為、哀れなラインハルトは一生、刑務所で人生を送る羽目となったから我慢できない。多分、いい弁護士が居たのだろう、ラインハルトは欧州裁判所に、「保護収容を後から付け加えるなんて、フェアーじゃない。」と訴えた。犯罪者ほど 、自分の権利を主張することに暇がない。

ドイツ政府の困った事に、欧州最高裁は、「判決後、新たに刑期(保護収容)を付け加えるのは人権侵害。」と判決、ラインハルトの釈放と、違法に収容された慰謝料として5万ユーロの支払いをドイツ政府に命じた。こうしてラインハルトは、ドイツの犯罪者間の大ヒーローとなった。なにしろドイツ全土には70人を超える犯罪者が保護収容を付け加えられ、(違法に)別荘暮らしを余儀なくされていたし、この判決がなければ、この数はもっと増えていただろうからだ。この判決のお陰でドイツ政府は、服役中の、再犯の危険のある、犯罪者を慰謝料を払って釈放する必要に迫られたから、見事に面子を失った。こうして今、ドイツ政府は新しい保護収容に関する法規を思案中であるが、犯罪者には最適の仕事環境が整なうこととなった。

この欧州最高裁の判決は、ドイツで収容されている他の犯罪者、もとい、社会更生中の市民を元気づけた。度重なる家宅不法侵入、家財破損及び窃盗で捕まり、懲役刑 、及び(当初から)保護収容判決を受けていた市民が欧州裁判所に、「俺は誰にも暴力を振るっていないのに、保護収容なんてひどすぎる。」と訴えた。この市民の訴えによると、「保護収容は暴力(性)犯罪だけに適用されるべきであり、(たかが)窃盗で保護収容とは罪が重すぎる。」との論理だった。緊張して見守られていた判決(この判決の如何で、ドイツの刑務所に収容されているその他多数の市民の将来が決まる。)だが、裁判官は「繰り返し窃盗を犯す窃盗犯に 、保護収容を適用するのは 合法。」と判決。こうしてこの窃盗犯は引き続き保護収容される事になったわけだが、その一方で、赤軍のテロリストを恩赦するドイツの法体系は日本人にはよく理解できない。


あと少しの辛抱、、。
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