12時5分前。 (20.11.2011)

ギリシャの財政赤字に端を発したユーロ危機が、ユーロ圏の弱点、加盟国政府の見解が一致せず、議論で時間を無駄にして、対策がいつも手遅れになってから決まる、の為、ここ1~2ヶ月のうちに急速に状況が悪化、ユーロ崩壊の5分前というこれまでない危険な状況に発展している。休暇中に日本の新聞を読んで日本における報道の仕方を追ってみたが、記事を書いている人の肩書き、○○経済研究所、○○大学経済教授とは裏腹に、見事に問題の核心を外していた。日本に住んでいると欧州の状況がよくわからないので、推測で物を書く。これを読む側も本当の事情がわからないから、これを頭から信じる事により、現実とは全く異なる神話が日本では栄える事になる。そのいい証拠に日本政府への危なっかしいEFSFへの融資意思の表明だ。個人が間違った見解を抱えるのは本人の不幸だが、政府が欧州の状況を理解していないのは、国の破産を招きかねないゆゆしき事態である。そこで今回はユーロ危機が悪化しているその理由、現在までの経過、そしてユーロ存在の鍵を握る人物を紹介してみたい。

2011年6月にここで「ギリシャは事実上破産しているので、借金の(一部)放棄しか救う方法はない。」と指摘したが、メルケル首相はこれまでギリシャへ行ってきた財政援助の返済期限を「先に延ばす。」という政策で、時間を稼ごうとした。メルケル首相も「借金の放棄」しか方法がないとうっすらと悟っていたが、これを自ら提唱すると国内で非難を浴びて支持率が下がるため、政治家には珍しい才能、「言いたいことを黙秘する。」を発揮、時期が熟するを待つことにした。まるで徳川家康のようなメルケル首相の目録は見事に成就、ドイツ国内では「底なしの樽(ギリシャ)にこれ以上財政援助をするよりは、借金の軽減の方がまだいい。」という意見が国内で熟してきた。これを見て、メルケル首相は欧州諸国の首脳陣、及び金融業界の代表者と会談、ギリシャの国債の21%を「損失」として計上する旨、ギリシャの国債を保有している金融機関と合意に達した。

これほど合意に時間がかかって、あっと言う間に役立たずとなる政府間の取り決めも珍しい。自力では呼吸できないギリシャを人造的に生存させる為に21%の借金軽減をしたのだが、遅々として進まない(進めない)国有企業の民営化、大不況により減少を続ける税収入が手伝って、財政赤字の減少には繋がらず、これではただの現状維持にしかならなかった。その現状維持に今後も欧州政府は膨大な財政支援を強いられるのでは、意味がない。ギリシャがいつの日か国家財政を立て直して、その国債に信用が回復するには、もっと大幅な借金の軽減が必要な事がわかってきた。同時に去年、欧州各国政府がそれぞれ会費を払って作り上げた通称、"Euro-Rettungsschirm"(ユーロの雨傘)に穴が空いてつぎはぎになったので、大雨に備えて新しい傘を新調する事にした。

これに大反対をしたのが、「ギリシャ救済の為、保有しているギリシャの短期国債を長期の国債に書き換えてくれ。」と政治からの要求を飲み、さらにはその後21%の借金の軽減を強いられたばかりの銀行や保険会社だ。今度は60%の借金の軽減を要求されると、金融機関は「40%が限度だ。」とこれをつっぱね、交渉は朝の4時まで続いた。早朝4時半にメルケル首相とフランスの首相は記者会見を開き、「50%の借金の軽減で同意に達した。」と、疲労を隠せないながらも、合意に達した安堵感で朗らかな様子で合意の内容を述べた。さらにはユーロの雨傘はEFSF、"European Financial Stability Facility"(欧州金融安定機構)と名前を変え、その資金を4400億ユーロから1兆ユーロに拡大するとした。
          
資金枠を拡大するとは言っても、1兆ユーロもの資金を何処からもってくるのか?4400億ユーロのユーロの救済基金の設立で、「なんで負債国家の為に、俺達が金を払う必要がある。」とさんざん抵抗をしたドイツ国民。その同じ国民が、その倍の「義援金」の支払いに同意する筈がない。そこで政治家はEFSFが一種の国債を発行、これを外貨を貯め過ぎてその使い道に困っている「中国やブラジルに買ってもらおう!」という事にした。しかし声をかけられた中国政府は、「リスクが高すぎる。」「その見返りに何が期待できるのか。」と、共産主義国家とは思えない巧みな交渉の妙技を発揮した。この危なっかしい国債を、「買う用意がある。」と、条件もつけないで意思を表明したのは、欧州事情に厭い日本政府だけであった。この危なっかしいEFSFは「20%の資本金保障。」があるのみ。つまり投資した金の80%が無くなる可能性があるのに、日本政府はせめて元金保証を交渉する事もなく、融資を表明した。日本では欧州事情が全く見通せていないいい証拠である。

これほど合意に時間がかかり、その寿命が薄かった政府間の取り決めも珍しい。欧州各国政府が知恵を絞り、ようやくギリシャの救済体制が整い、株価も上昇を見せたその途端、「欧州政府の救済案を受け入れるかどうか、国民投票を行う。」と、ギリシャの首相が言い出した。もし国民が反対投票をすれば、ギリシャは即時に破綻である。単に政府への反発から、国民が深く結果を考えないでこれに反対する可能性は高い。そうなるとついこの前、50%の借金軽減に同意した金融機関が保有している国債は、100%の損失である。さらには欧州政府がこれまでギリシャに払った財政支援は、一夜にして消えてしまう。ギリシャの国債を大量に抱えているフランスの銀行は言うまでもなく、フランス自体をゆるがせない事態である。アイルランドが経営案に陥った銀行に政府が肩入れして財政破綻した事を考えれば、全く同じことがフランスに起こりかねない。寝耳に水で国民投票案を聞かされた欧州政府は、「国民投票の結果が出るまで、ギリシャへの財政支援金の支払いは凍結する。」と発表した。明日、倒産するかもしれない国に投資する理由はないから、ごく当たり前の反応だった。しかしギリシャは11月に次回の支援金が届かないと、支払い不能になる。それなのに国民投票は早くても12月、あるいは1月に行うという。一体、パパドレオ首相は、何を考えてこの自殺案を思いついたのだろう。ギリシャ国内でも、「ギリシャの救済案が決定される前に、国民投票を行うべきだった。」と首相の決定を疑問にする声が高くなった。メルケル首相はこのパパドレオ首相の決定に憤慨、「我々のユーロを破壊する事は許されない。」と、外交問題スレスレの厳しいコメントを出した。

その後、しばらくユーロ崩壊前夜の危険な状況が続いたが、パパドレオ首相は「国会にて信任投票を行うが、国民投票は行わない。」と、少し意見を修正した。こうしてユーロ崩壊は免れる事になったが、「国民投票案」は首相の命取りとなった。ギリシャの財政赤字を引き起こした張本人である野党が、国会での協力の見返りにパパドレオ首相の辞任を要求してきた。今後、国会にて公務員の解雇、国営企業の民営化、そして2012年の国家予算案承認などで野党の協力が必要な首相は、これを受け入れるしかなかった。こうしてパパドレオ首相は辞任、欧州中央銀行の副総裁だったパパデモス氏が首相に任命され、欧州政府が決めた救済案を実行に移す重責を負う事となった。

「これで一安心。」という淡い期待とは裏腹に、ギリシャの火種はとっくにイタリアに飛び火していた。イタリアはベルコーニ政権の下、賄賂と汚職にまみれた政治を17年も行い、国家財政はとっくに規律を失い借金が借金を生み、欧州ではギリシャに次ぐ2番目の負債国家で、その負債額は国内総生産の120%に達していた。(日本の180~190%と比べると、まだまだ。)日本と異なり、イタリア人はイタリアの国債を買わない。イタリア政府は借金の返済、公務員の給料、年金を支払うには、国債を外国の投資家に買ってもらう必要がある。しかしギリシャの国債が50%もの価値を無くしたのを見て、投資家は欧州国家の国債を売り始めた。今売ればまだ投資額を回収できるが、1年後には紙屑になっているかもしれないからだ。こうしてイタリアの10年物の国債の利率は4%から5%に上昇した。ベルコーニ首相は、「年金需給年齢を60歳から67歳に引き上げ、金持ち税も導入して、財政赤字に取り組む。」と発表したが、翌週にはこれを取り下げるという離れ業を披露、投資家は、「イタリアは財政赤字と真面目に取り組む意思はない。」と(多分)正しく判断、イタリアの国債の処理を続けた。こうしてイタリアの国債の利率は6%にまで上昇した。アイルランドやポルトガルの国債の利率が7%を突破して、政府が国家財政を国債で支えることができなくなり、ユーロの雨傘の下に逃避した事を考えば、この6%は" No Mans Zone."だ。

ところがベルスコーニ首相は「まだ時間は十分にある。」と判断、年金改革案撤回を撤回(つまり実施)、さらにはIWFから監視官を派遣してもらいイタリアの財政赤字を監督させると発表した。こうした口約束で投資家の信頼を回復できるとベルスコーニ首相は思っていたが、ギリシャの国債で煮え湯を飲まされていた投資家は、「石橋を叩いて渡らず。」と、イタリアの国債には近寄らなかった。こうしてついにイタリアの国債の利率は"Todeszone"(死の領域)、7%に突入した。この時点でユーロは、ギリシャの国民投票案が発表された時と同じく、まさに崖っぷちに立っていた。欧州中央銀行が大量にイタリアの国債を購入、利率を6%まで下げてユーロの崩壊を避けたが、このまま1年も2年も国債を買い続けるわけにはいかない。というのもイタリアの負債額は、新品の雨傘、EFESがカバーする1兆ユーロを超えている(1.76兆ユーロ。日本は、驚くなかれなんと20兆ユーロ。)。つまりイタリア、フランスなどのユーロの基幹(Kern)になっている国は、"Too big to bail."で、救済案は存在しない。こうしてユーロの運命は、よりによってイタリアのピエロ、ベルスコーニの手中に収まる事となった。
          
日本の政治家なら最初のスキャンダルで辞職しただろが、ベルスコーニはこれまで数々のスキャンダルにも関わらず、17年もの長き渡って政権の座に収まる事ができた。その理由は3つある。イタリア人のマッチョ思想、ベルスコーニの豊富な資金源で政治家を好きなだけ買うことができた事(同時にイタリアの政治家が簡単に金で買える事)、そして連立政権でベルスコーニをいつも後ろから支えていた右翼政党、北イタリア同盟のボッシ党首の姿があった。北イタリアの独立を唱えるこの党は、過半数を獲得する事、つまり政権を獲得する事はできないが、同じように過半数を取れない他の党と連立政権を組んで、国政に影響を与えることができる。さらには首相にだらしないピエロを就ける事により、事実上、イタリアの政治を操ることが可能になる。こうしてベルスコーニとボッシのコンビは17年もの長きに渡って、イタリアの政治を支配する事ができた。ところがユーロ危機が悪化、ユーロ崩壊の寸前になると、ボッシの態度が変わってきた。北イタリアはドイツ同様の重要な工業地帯。ここで生産する工業製品が世界市場で売れることが至上課題である。ところがユーロ危機でイタリアの工業生産物への需要が減り、ボッシはかけがえのない票田を失いかねない状況になった。この事態を見たボッシが、ベルスコーニに辞任を要求するという、わずか数ヶ月前までは想像もできない事態が起きた。
          
ベルスコーニは現実を受け入れることを拒否、「辞任はしない。」と頑張ったが、これまで背後で操ってきたボッシの後ろ盾なくては、ただのピエロでしかなく、結局は辞任に追い込まれた。ここでイタリアは底力を見せる。臨時政府の首相には元EU委員で欧州金融事情に詳しく、さらには経済教授であるMario Monti氏が就任、その他のメンバーもすべて専門家ばかりで職業政治家は一人も居ないという異例の内閣を作り、"Mission Impossible"、イタリア語で言えば、"Missione Impossibile"に着手する事になった。果たしてモンテイ氏はイタリアを、そしてユーロを救うことができるだろうか。焦点は、モンテイ氏の政策が効果を発揮するに必要な時間が稼げるかどうかにあるだろう。イタリア新政府が樹立した際、イタリアの国債の利率は下がるどころかさらに上昇、欧州中央銀行がまたもや介入した。さらにはスペインの国債は7%を突破、ベルギー、フランス、オーストリアの国債も4~5%まで上昇を始めた。ユーロは崩壊に向けて、日に日にそのスピードを増している。
          
ここ半年~1年がユーロの将来を決める正念場となるだろう。ユーロが崩壊する前に、イタリア、スペイン政府が市場の信頼を獲得できるかどうか。それまで欧州中央銀行が国債を買い支えることができるかどうか。メルケル首相を始めとして、国債の利率が低いドイツの政治家は欧州中央銀行が国債を買い支えることを批判している。この大事に、そんな身勝手な行動で、果たしてユーロは救われるのか。それとも欧州中央銀行の総裁に就任したイタリア人のスーパーマリオ、Mario Draghi氏がユーロを救うため、欧州協定を破る覚悟のウルトラCを見せてくれるだろうか。現状ではどっちに「転んでも」、おかしくない状況である。


ピエロと、
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その元締め。
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