将来は何処(いずこ)に。  (15.01.2012)

80~90年代の日本では、いつも変わらない政治家の茶番劇をよそに、「政治は三流、経済は一流。」などとその経済力を自慢していた。確かに日本製の優れた家電製品や車は、あっという間に欧米の市場に定着してしまった。今でも忘れられないのが、90年代のドイツのショーウインドウ。そこには高級な日本製の家電製品がずらりと並び、「あ~、ゾーニイ(ドイツ語でソニーの事。)だ。」と、ドイツ人がため息を漏らしていた。全く関係なくても、日本人として誇りを感じたものだ。今ではそのショーウインドウには日本製の家電製品の代わりに、韓国製の家電製品がずらりと並び、「あ~ザムズン(ドイツ語でSamsungの事。)だ。」と、ドイツ人がため息をもらしている。ドイツ人が「ザムズンは、家電の超一流メーカーだぞ。」と日本人の私に威張って語ると、全く関係ないが、少し残念に思う。しかし現実は厳しい。ちょうどソニーが民間用のOledの開発を辞めると発表した後で、SamsungやLGが世界最大のOledのテレビを発表するなど、日本の家電業界は韓国勢に追い越されてしまっている。

日本の誇りだった自動車業界でも、全く同じ現象が起きている。欧州では日本車の市場占有率は下がる一方であるが、ドイツ車と韓国勢は逆に市場占有率を伸ばしている。さらにはこれまでは日本車の独壇場だった米国の車市場でも、日本車は苦戦を強いられている。これが顕著なのが高級車部門。これまではトヨタのLexusが販売台数のトップであったが、ドイツ車が追い越してしまった。さらにドイツのフルクスワーゲン社は、トヨタを車の生産台数でも抜いてしまった。かっては一流と自負していた日本経済に、大きな陰りが出てきている事は拒めない。

さらに心配なのが、日本の経済人のモラルだ。オリンパスや王子製紙などの一流の日本企業の醜態が示すように、日本企業の体質には大きな疑問符をつけなければならない。オリンパスの粉飾決算は、20年近くに渡って歴代の取締役会長がこれを認可してきたという、信じられない日本企業の体質を露呈した。ドイツ生活が長い著者でも、DAX(ドイツのメジャーリーグ)に上場されている会社が、同様の詐欺を働いていた例を知らない。日本企業は、「俺は一流。」と威張るばかりで、素直に現実を受け入れて、改革を行う勇気を失っているのではないのか。この不安な時期に追い討ちをかけるように、日本には未だにデフレが蔓延しており、円高への効果的な対策も取られていない。日本経済の調子がいいときならこの危機も乗り越えることができるだろううが、日本の製品が技術面で後手に廻りかけている現時点で、この悪環境である。果たして日本に将来はあるのだろうか。

「2011年は大地震に続き、タイでの洪水と得に日本経済への悪影響となる要素が多かった。」と、現在の苦境の理由を挙げることができるだろう。日本に限らず、どこの国でもこうした苦境の原因を、国内ではなく、他のところに求める論に人気がある。ちょうど21世紀に突入したばかりのドイツでも、「俺達は世界一。」という自尊心ばかりが高くて、ドイツ産業の停滞の原因を国内ではなく、外部的要因に探した。「日本車は安いだけ。ドイツ車に太刀打ちできるものではない。」と自信過剰に陥り、対策を取る必要を感じなかった。その結果は法外な賃金アップ要求と労働時間の短縮要求だ。当時は5~6%の賃金アップに週35時間動労を要求して、ドイツ国内の人件費は周辺諸国に比べて著しく上昇、国内産業は悲鳴を上げて国外に逃げ出すエクソダスが始まった。ところが外国で製造されたドイツ製品には欠陥が多く、品質管理であっという間に日本製品に追い抜かれてしまった。この頃は日本車などは「飛ぶ鳥を追い落とす。」勢いで、自動車の信頼性では日本車が上位を占めて、ドイツ車はポルシェを除き、日本車に太刀打ちできなかった。当時、日本の将来は安泰のように思えた。

逆に当時のドイツで生活していると、何処を見ても景気が悪く、しかしドイツ人は「俺達は世界一だ。」と威張るばかりで、状況を把握する能力もその気力もないように思えた。ここでシュレーダー政権が、アジェンダ2010という社会保障制度の改革を導入した。ドイツ国民はこの政策に大反対して、あちこちでデモ行進を行った。シュレーダー政権はこの改革による経済の活性化を期待したがこれが実現せず、国民の最後の支持を失い、政権を明け渡すことになった。ところがである。新政権が誕生した頃から、ゆっくりと、だが着実に景気が回復の兆しを見せ始めた。2006年になるとドイツは好景気に転じ、これはリーマンの破綻で悪化した2008年の金融危機まで続いた。2009年はドイツでも稀に見る経済のマイナス成長を記録したが、2010年には完全に回復して3.7%の成長率を記録、2011年になってユーロ危機で経済活動の周辺状況が悪化するにも関わらず、3.0%の成長率を達成、ドイツでは労働市場が活性化したままで失業率は過去20年で最低の値に達した。当時の不況をしってる人間には、今のドイツ経済の復活には、目を見張るばかりだ。
          
こうしてドイツと日本の状況は、全く入れ替わってしまった。一体、ドイツはどうやってあの出口のない長い不況のトンネルから脱出したのか。その原因は、上述のシュレーダー政権の社会保障制度の改革にある。この社会保障制度の改革により、上昇を続けていたドイツの人件費は現状維持に以降する一方で、フランスやオランダなどの周辺諸国ではお給料が毎年上昇した。その結果、効果が出るまでに4~5年かかったが、ドイツの人件費はこうした周辺職国よりも低くなり、ドイツ製品の市場競争力が増し始めた。同時にドイツ企業は技術革新に専念、誰でも何処でも生産できる安い物をドイツ国内で生産する無駄な努力をせず、高級品、先端技術を必要とする製品の開発、販売に集中した。ドイツの自動車業界でも、こっそりと日本の車業界のノウハウを導入、その品質を改善していった。2012年に公表された中古車の品質管理報告書では、ドイツ社が日本車を抜いてトップの座に輝いた。日本車は小型車の部門で、トヨタがかろうじて日本車の名誉を救ったに過ぎない。

2012年の今、ドイツ経済はかってないほど強い立場にある。ドイツの高い技術力に加えて、市場競争率の高さで、他の欧州諸国の追随を許していない。あまりにドイツ製品ばかり売れるので、欧州議会では法律でドイツ製品の輸出を制限する動きまで出ている。果たして日本は、ドイツのようなリバイバルを果たすことができるのだろうか。それにはまず政治が戦略を立てて、経済に指針を示さなくてはならない。以前から、「政治は三流。」と言われていた日本の政治家に、それだけの度量、日本の将来の為に己を犠牲にする用意があるだろうか。それは10年後の歴史が示してくれるだろう。日本がリバイバルを果たす場合でも、当時、ドイツが苦しんだように、日本も(また)長い苦しい再生への坂道を登っていくことになる。今、学生の方は外国でも勝負できるように、せめてひとつの外国語はマスターしておこう。日本では、廻りと同じ事をしていれば安心するという世界で例のない不思議な慣習があるが、「出る杭」になっても、自分の能力を磨くべきだ。周囲と同じことをしていては、生き残れない。ドイツ人が言うように、神は人間に人生のカードを見せないものだ。どんなカードが廻ってきても、手持ちのカードで最善を尽くせるようにしておこう。


自然災害も手伝って、
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日本の自動車産業は、
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ドイツの自動車産業の後塵を拝する。
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