Schleckerfrauen  (03.04.2012)

ドイツで日用雑貨品を売るDrogeriemarkt(英:drug market)はチェーン店の、DMRossmann、Schleckerの3社が市場を独占している。その中でも圧倒的に大きいのがシュレッカーで、Ihr Platzという同じ系列の子会社も含み合わせると、欧州全土に1万を超える店舗を擁する大企業であった。創始者のシュレッカー氏は値段重視の戦略で成果を収め、次々と支店網を広げていった。その一方で被雇用者は、安い販売価格を可能にする為に、安月給でこき使われた。これに抵抗すべく被雇用者が労働組合を作ると、片っ端から解雇するという違法な処置も平気で取った。こうした脅しが効いて、シュレッカーで働く以外に選択肢のない非熟練労働者、主に中年女性は、労働者の同然の権利を放棄、この悪環境に甘受した。

ところが21世紀になってから、シュレッカーへの風当たりが強くなってくる。紙面でシュレッカーの従業員がどんなに劣悪な環境で働いているのか報道されると、これがイメージの悪化に繋がり、売り上げに影響が出始めた。さらには運営費を安く上げるために、タイにある中華系ホテルのように、一度オープンすると内装は20年間そのままで、うす汚い店舗でそのまま営業を続けた。電気代を節約する為、店内の照明を暗くして陰気な雰囲気をかもし出している点も、まさに中華系ホテル並み。ところ競争相手が明るく、見通しの良い店舗を同じ場所にオープン、シュレッカーから客を奪い始めた。しかし創始者のシュレッカー氏は、この兆候をを見ても理解しなかった。「過去40年うまく行った戦略を、何故、今変える必要がある。」というわけだ。こうしてシュレッカーは時代の波に取り残されて、薄くらい店舗で営業を続けた。日本の大手家電メーカーも、まさしく同じ考え方、「これまでこの方法でうまく行ったじゃやないか。」で軌道修正を拒否、創立以来の大赤字を出す結果になっているのは面白い。

シュレッカー氏は会社の業績が赤字になってから、過去40年うまく行った戦略ではもう勝てない事をやっと悟った。そこで息子と娘を会社の取締役に就任させて、店舗の改装をやっと始めた。改装された店舗では売り上げが上昇して、黒字に変わったが、何是、店舗の数が多すぎた。1万を超える店舗を、1年や2年で改装できるものではない。会社が赤字を出し続ける中、改装で出費が膨らみ続け、経営が苦しくなってきた。シュレッカーは万年赤字経営の店舗を閉鎖して、生き延びを図ったが、間に合わなかった。納入される品物の代金を支払うことができなくなり、会社更生法の適用を申請した。この例などは創始者が会社に長く居座った為、会社を駄目にするのいい例である。5年前に息子と娘に会社の経営を任せていれば、あるいは側近の助言に聞く耳を持っていれば、こういう目に遭わなくて済んだだろう。このような倒産を、「裸の王様式倒産」と言う。このケースでは自意識過剰な人物が社長に納まり、周囲からの警告非難を禁じて組織が硬直化、会社が左向きになる。これは日本の大企業で多くあるケースだ。

倒産管理人の下、シュレッカーは再建に向けての長い道のりを歩みだした。管理人の第一歩は、赤字を出し続けている店舗の閉鎖、つまり12000人を超える従業員の解雇である。黒字を出している店舗は倒産した会社資産に留めて置き、店舗をまとめて買ってくれる投資家を探す事になった。(黒字を出しているため、投資家も見つけやすい。)そこでどの店舗が閉鎖されるかが、運命の大きな分けれ目になった。ドイツで買い物をされた経験のある方ならご存知の通り、ドイツのレジの叔母ちゃんは愛想が悪く、レジの前に長打の列があっても、他のレジを開けようとしない。そんなことをしたら、任されている棚の整理作業が夕方までに終わらず、残業になるからだ。こして客は延々と順番を待つことになる。このレジのおばちゃんの仕事、棚に商品を積んだり、レジでバーコードをスキャンするだけ、なら高校生でもできてしまう。何の資格も必要ないのだ。もし自分の勤めている支店が、閉鎖されるブラックリストに載っている場合、次の職場探しは間違いなく難航する。すでに40代をとっくに通り越しているのに、何の資格も取り得もない中年女性を誰が雇うだろうか。

閉鎖される店舗が決まると、シュレッカーで働いていた女性は国の援助を求めてデモ行進をした。「次の職場が見つかるまで、国は首になる従業員をまとめて雇い入れて、給与を払え!」という要求である。日本人の感覚からすれば、「実に都合の良い要求」に聞こえてしまうが、1万2000人という数、それに今、地方選挙の真っ只中ということもあり、政治家はこの要求を無視することはできなかった。また、「あのギリシャを支援する金があるなら、ドイツ人を支援する金があってもいいだろう。」と国民からの賛同も少なくなった。

こうして州知事が会同、シュレッカー救済組合の話し合いが始まった。次回の選挙で槍玉にあげられたくないので、労働者保護を旗に書いた社会政党だけでなく、緑の党、保守党(CDU/CSU)までこの組合案に賛成したので、「シュレッカー女性の救済案成立する!」と(誤って)報道された。が、思いの外、この交渉は難航した。ザクセン州、ニーダーザクセン州がこれに反対した為だ。そこでシュレッカーの支店の多いNRW、BW州、それにバイエルン州だけでシュレッカー救済組合を作ろう!という話になったが、この交渉は24時間も続いた。「明日の朝、8時までに組合が成立しているか、していないかだ。」とBW州の財務大臣が断言したが、9時になっても会議は終了しなかった。ようやく15時前になって会議が終了、その結果がテレビ、ラジオで一斉に報道されたが、「シュレッカー救済案、合意を見ず」という内容であった。

こうして1万2千人の解雇が決まり、その日のうちに解雇通知が郵送された。当然、「どうして合意に達しなかったのか。」と犯人探しが始まったが、長く探す必要はなかった。下手人のFDPが、「国は企業の破綻に責任を持つものではない。」と威張って記者会見を行ったからだ。次々と選挙で敗北して地方議会の議席をなくしているFDPだが、まだニーダーザクセン州とバイエルン州だけでは、(まだ)連立州政権を組んでいる。ここで拒否権を発動して、シュレッカー救済案を闇に葬った。これを聞いた国民の憤りはあちこちで聞かれ、「ホテルへの減税はできても、シュレッカーで働く女性には1セントも払う用意がない。」とFDPは声高に非難された。先のザールランド州での選挙で1,6%という記録的な低得票率を記録したFDPにとって、今回の決断は棺桶を閉じる釘となるかもしれない。それほどまでに国民の怒りは、FDPに集中した。
          
しかし今回だけは、FDPの決断は正しい。国は企業の経営破破綻に責任がない。もしシュレッカーを救うなら、大企業が潰れる度に政府は同様の処置を取ることが必要になり、悪い前例を作ってしまう。又、何故、大企業だけ特別扱いするのか。毎日、ドイツ全土で企業が倒産しているが、政府は何もしてない。大企業だけ特別扱いするなら、同じ政府の設定した「公平法」に触れることになる。さらにシュレッカーだけ救済すると、シュレッカーの競争相手が欧州議会に「不当な企業援助」を訴えるかもしれない。国は特定の企業だけの肩を持つことはできないのだ。それでも国の戦略に関わる分野なら、国が介入する異議もあったが、今回は単なるDrogeriemarktだ。シャンプーや化粧品の販売は、どう贔屓目に見ても国の戦略分野に入るものではない。この観点から見ればFDPの決断は、勇気のあるものだった。党の存在意義が問われている最中に、このような勇気のある(国民にそっぽをむかれる)決断をできる政治家は多くない。
          
編集後記
倒産管理人の元に、残るシュレッカー店舗への買取のオファーが幾つか届いて、店舗の買取が噂された、しかし蓋を開けてみると真面目な買い取りオファーはなく、二束三文で買い取って、これを転売するハゲタカのようなオファーばかりであった。結果、一部の店舗はライバルのDMに買い取られたのみで、ほとんどの店は閉鎖されることになった。資格、才能のない単純労働者の運命は、日本でも、ドイツでも同じだ。若い人は今の状況に満足しないで、できるだけ多くの資格を身に付けておこう。


薄暗い陰気な雰囲気の店舗。
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倒産(会社更生法の適用)を発表する跡継ぎ。
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国の援助を求めるSchleckerfrauen。
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