"Besser Spatzen in der Hand."  (10.04.2012)

これまでのおさらいから。ドイツの税務署はスイスの銀行から盗み出された顧客データを、盗品とわかっていながら買収した。これがきっかけで、スイスとドイツの関係は悪化の一歩を辿った。ドイツの大蔵大臣はそれだけでは済ませないで、「スイスの経済モデルは脱税を勧めるものだ。」と非難、さらに両国関係を悪化させた。その後、両国は関係の修復に努め、「スイスに口座を持つドイツ人に対し、ドイツで支払うべき税金を納税すれば、名前は明かさなくてもいい。」と、妥協案を出したのが、もう1年以上の前の話である。

スイスもこの妥協案に同意したので、この問題は解決したかに思えた。ところがである。国家間の契約は国会で批准されなければならないが、ドイツ政府与党は地方選挙で負けが続き、上院での過半数を失ってしまった。この為、この妥協案は上院で野党の抵抗に遭い、一向に批准されていない。特に前大蔵大臣のシュタインブリュック氏は、スイスをインデイアンと呼び、「(ドイツの)騎馬隊を駐屯させておく必要がある。」と暴言を吐いたほどで、この妥協案に大反対をしている張本人である。

いつまで経っても成立しないスイスとドイツの税金協定に、スイスは堪忍袋の緒を切れた。このままでは妥協案が闇に葬られてしまい、ドイツからの上客が危ないスイスの銀行を避け、安全なドゥバイやシンガポールの銀行に逃げていく。(ドゥバイやシンガポールの銀行はドイツの税務署とは一切協力しない。)ドイツの税務署が、「今後も機会があればCDを買う。」と言っている現況では、誰も怖くてスイスに口座を開こうとはしない。この状況を打破する為、スイス政府は盗難データとわかっていながらCDを購入したNRW州の税務署の役人、3名に対して逮捕状を出した。それだけではない。スイス政府はドイツ政府に対して公式に「犯罪人」のスイスへの召喚を要請した。

これで困ったのがドイツ政府だ。指名手配された犯人がドイツ国内に「潜んでいる」限り、ドイツ政府はこの要請に協力しなくてはならない。その為にドイツとスイス間では犯罪者の召喚取り決めがある。つまりソクラテスのように、「悪法でも、法律である。」と言うなら、ドイツの役人をスイス政府に明け渡さなければならない。「悪法だから、協力しない。」とドイツ政府が開き直れば、「では今後は、脱税容疑の協力もお断りする。」とスイスは伝家の宝刀を出すことができる。ドイツ政府は、今後も脱税でスイスの協力を求めるには、スイスの要請を受け入れなくてはならない。こうしてドイツ政府はジレンマに陥った。スイス政府の見事な戦略である。

逮捕状が出された役人には、「ドイツ国境を離れると、入国の際に逮捕され可能性があるので、追って沙汰があるまでドイツから出ないように。」と指示が差だれたが、本人にしてみれば言われるまでもないだろう。こうして2012年のイースターの休暇では、この役人は隣国のオランダにさえ行く事ができなくなった。オランダ政府がスイス政府の逮捕状を「真剣」にとって、国境で逮捕してしまう可能性があるからだ。ルクセンブルクやリヒテンシュタインなどは、ドイツの税務署に痛い思いを何度もさせられているので、この役人が国境を超えれば、迷うことなく逮捕したに違いない。

野党がスイスとの妥協案に反対しているのは、これまでスイスに口座を持って脱税をしているドイツ人が、少し割高の税金さえ払えば「過去の事は水に流して」、そのまま名前を明かさすことなく、かつ、罰せられる事なく、合法的にスイスに資産を保有する事が可能になるからだ。これに反して野党、主にシュタインブリュック氏は、脱税者に「見せしめ」の意味を込めて、厳しい罰則を適用することを要求している。しかしスイスに口座を持っていた客だけが罰則の対称になると、これはスイスの沽券に関わるので、スイス政府はこの点で抵抗している。スイスが小国ながら豪華に生活できているのは、何もスイスアルプスを見学に来る観光客と、ネッスルやスウォッチを代表するスイス企業のお陰だけではない。周辺諸国のお金持ちに税金のかからない銀行口座を提供することにより、スイスにお金が流れ込み、これがスイス経済を活性化しているのだ。その生命線を、スイスがおめおめと放棄する事はあり得ない。

ドイツのことわざに、"Besser Spatzen in der Hand, als eine Taube auf dem Dach."というものがある。「屋根の上の鳩よりも、手中のスズメの方がマシ。」という意味である。かって日本は広大な満州の植民地ので満足すればいいのもを、石油資源へのアクセス求めて南進を続け、米英を相手に勝ち目のない戦争する事になった。日本が石油資源を手中にするのを、米英が指を銜えて見ていると思ったのだろうか。日本の軍部は全く世界の状況が読めていなかった。同様にドイツ政府/野党は、妥協案/満州で満足して、スイスから送金されてくる税金で満足すべきだろう。妥協案が成立すれば、今まで全く欠けていた金、年間数億ユーロの税金が入ってくる。日本のように、「これでは足らない。」と南進すれば、その数億ユーロさえも諦める事になる。
          
4月5日、ショイブレ氏はこの妥協案を救うためスイス側と再度討議して、脱税資産へ課せられる納税率を41%まで上げる事でスイスと合意に達した。言うまでもなくこの補足は、野党への譲歩である。この法律が成立することなれば、ドイツ政府は今度、盗難データの購入を辞めると宣誓している。一方スイス政府はその見返りに、ドイツ国籍の口座保持者からはドイツで採用される税率にて税金を徴収、ドイツに送金する事になる。果たしてこの条約、法律として成立するだろうか。

スイスからの税金の支払いが待ちきれないショイブレ氏。
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