"Betreuungsgeld"  (28.04.2012)

フランスでは大統領選が真っ盛りだが、ドイツでも2013年に下院選挙を控えて、次第に選挙活動が活発になってきた。早い話が減税である。選挙の2年も前に減税をしても、すぐに恩を忘れる大衆には効果がない。そこで選挙の1年前になって減税案を閣僚決定して、国会に上げる。ここで討議してから決議、半年後、つまり選挙直前に減税が実施されるという厳密なタイムスケジュールがあった。ところが政府与党の思惑とは逆に、この減税案、日本の消費税増税案のように、与党内で賛否両論に分かれて熾烈な争いが展開されて、タイムスケジュールが守れるか、怪しくなってきた。

今回の減税案は、"Betreuungsgeld"と言う。日本語に直せば、「世話金」という事になる。これは3歳未満の子供を保育園に送らずに、自宅で子供の世話、育児をする両親には、子供あたり150ユーロ/月の助成金が支払われるというものである。元来ドイツ政府は、「母親が職場に復帰できるように、保育園の数を飛躍的に増やす。」と約束したのだが、「保育園があったら、うるさくて仕方ない。」という大衆の抵抗に遭い、一向に目的に達していなかった。そこで「保育園に送る代わりに自宅で面倒を見ると、、。」と180度の方向転換をしたわけである。つまる所、政府の保育園奨励政策が失敗した事を自ら認めることになるのだが、政府はこれを2013年の選挙に向けての選挙民へのプレゼントとして位置づけた。

この政策にとりわけ乗り気なのが、ガチガチのカトリック教徒の多い、バイエルン州、つまりCSUだ。同党は、この政策はキリスト教の教えである家族の絆を高めるとして、まるでイスラムの原理主義者のように、「一歩も譲歩しない。」とやる気満々である。この減税には12億ユーロの費用が見積もられている。大蔵大臣が「ユーロ危機で出費が膨らんでいる今、そんな財源はない。」と反対の声を上げれば、「我々の試算では10億ユーロで済む。」と反論しているが、その10億ユーロを何処から持ってくるのか、回答はされなかった。

この案をそもそも議題に上げた家族大臣は、「財源が確保されるなら、導入に賛成である。」とあまり乗り気でない。というのもこの案は前大臣の提案であり、彼女が挙げた案ではない。前任者の案を推しても、あまり彼女の得点にならない。さらに彼女はヘッセン州の出身であり、プロテスタント系で、カトリック教徒の古い戒律にはあまり関心をもっていない。さらには彼女はちょうど母親になったばかりで、カトリック教徒の言うとおりにするなら、大臣の仕事などしないで、家で子守をしているべきである。キャリア ウーマンの彼女にとって、そんなカトリック教徒の言い分を容認できる筈がない。にもかかわず、よりによってその彼女が、カトリック教徒の主張を法律にする役目を仰せつかったのだから、これは皮肉だ。大臣があまり乗り気でないのも、うなずける。

肝心要の首相だが、「世話金を導入すると連立与党の協定で決めた事だから、導入する。」と議論を許さず、強引に閣議決定しようとした。元来、この世話金は、票集めが目的である。なのに延々と議論していたのでは、逆に人気を落としてしまい、苦しい台所事情から捻出した金が無駄になってしまう。だから議論を避けて、さっさと閣議決定しようとした。ところがここで、「ちょっと待った!」としたのが、先回の大統領選びで首相に一発見舞ったFDPの党首のレスラー氏である。
          
「簡単に月150ユーロもの金が入って来ると、貧しい家庭の両親は子供を保育園に送らなくなる。これでは子供のためにはならない。」という理屈である。今度ばかりは氏の言い分にも理があった。というのもノルウエーなど、すでのこの世話金を導入している国では、世話金導入によるマイナス面が表面化している。移民(主にイスラム圏)からの両親は生活保護で生活しているので、子供を保育園に送らないで世話金を頂戴すると、これは両親のタバコやアルコール代金として消えている。子供の世話を見るどころか、ほったらかしらかしである。それだけならまだ良かったが、自宅でアラビア語しか話さない環境で子供が育つため、学校に行く年頃になっても満足にノルウエー語を話さないのである。
          
言葉が理解できないから、授業についていけない。授業についていけないから、成績が悪い。成績が悪いから、学校を終えても、職に就けない。職に就けないから、金に困って犯罪を犯す。刑務所から出てくると生活保護で生活して、子供をもうける。子供が多ければ、それだけ多く金が入ってくるので、子沢山。こうして移民は、一向にノルウエー社会に溶け込まないのである。この為、ノルウエーでは意味のない世話金を廃止する声が高まっているが、よりによって移民問題で悩まされているドイツが世話金を導入するというのだから、困ったものだ。ノルウエーと同じ失敗をする心配よりも、選挙で負ける心配の方が大きいのである。
            
「レスラー氏の反対にも一理ある。」とでも思ったのか、賛成派は「生活保護を受けている家庭が世話金を申請すると、その分、生活保護の支給金を減額する。」と言い出した。これではドイツ政府が作った「公平法」に違反するので、「そんな法律を設定するなら、裁判所に訴える。」と野党が脅している。こうしてメルケル首相は、まさに首相が避けたかった状況に陥った。毎日、議論ばかりで、全く先に進まない。国民も、「ドイツはバイエルン州だけじゃない。」とカトリック教徒のCSUが主張するこの法令に、魅力を感じていない。大体、ドイツ人女性は社会進出をして職を持っており、出産後も働くことを望んでいる。ドイツ人女性にとって、3年しか支給されない世話金などよりも、保育園を増やしてくれたほうがありがたい。世話金をもらって、3年も職場から離れてしまうと、仕事に復帰できないからだ。
          
にも関わらず、ドイツ政府はこの世話金を閣議決定して、強引に国会で可決してしまうだろう。今更この案を引っ込めると、さらに格好がつかないからだ。もし、FDPが連立政権内でこの件で意見を押し通すような事があれば、存在意義を失いかけていたこの党のリバイバルに繋がるかもしれない。が、多分、無料だろう。いずれにしても、その後の展開はこちらで紹介します。
          
編集後記
案の定、この世話金は強引に閣議決定されて、国会に提出された。下院で過半数を保有している政府与党は、「勝ったも同然。」を気を緩めた。夏休み前の決議だったため、反対している野党は言うまでもなく、与党の政治家まで、本来の職務を放棄して夏休みに入ってしまった。結果、620人居る議員のうち、決議に出席したのはたったの210人に過ぎず、決議が有効となる必要な過半数の遠く及ばなかった。与党は、「野党の汚い手段。」と非難していたが、もし与党議員が全員出席していれば、十分に過半数の出席者を超えていたので、この非難はお門違いだ。結局、この減税案は、夏休み後、再度国会で決議されることとなった。
          

移民問題の始まり。
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