Armut trotz Arbeit (06.05.2012)

今日(5月2日に書いています。)、2012年3月の失業率が発表された。ユーロ危機により周辺諸国は景気後退と増大する失業率に悩まされているが、ドイツでは失業率は7.0%、先月に比べて0.2%減少して、失業者数も再び300万人を割った。「日本と比べると失業率が全然高いじゃない!」と思われるかもしれないが、ドイツでは女性が社会進出しているので、職を探している人の割合が日本よりも高い。又、日本のように官庁に意地悪されないで、職のない人間は皆、失業者として登録されるので、この数字は日本よりも一見悪いように見えるが、好景気を象徴する数字である。ただし本当のドイツの姿は、みかけの好景気とは少し違ったものである。

ドイツの現在の好景気は、"Leiharbeiter"(日本では派遣に相当する。)の背中に担がれているものである。人材派遣会社に登録して企業に派遣されると、同じ仕事をしている同僚よりもお給料が20%~30%も低い。ドイツでは労働者保護政策のため、一度労働者を雇用してしまうとなかなか解雇できないが、派遣社員であればその期間が切れたら簡単に解雇できるので、ドイツ企業は正社員を採用しないで、安くて便利な派遣を好んで採用する。こうして2010年には派遣で生活している人の数が80万を超え、2011年にはとうとう90万人を超えてしまった。派遣でも就労していることには変わりないので、これは失業者の数字には出てこない。一件、改善されたように見える失業率の過半数は、こうした派遣社員である。

派遣でもちゃんとお給料が払われていれば問題ないのだが、ここはドイツではある。そんなに甘くない。派遣されてくるのは、学校を卒業していない人、学校は卒業したが、成績が悪すぎて、何処の会社でも見習いができなかった人、成績は悪くなかったのに、学校を終える前に妊娠してしまい、子育てで見習いに就く機会を逸してしまったシングルマザーなどの単純労働者である。こうした派遣社員の労働状況は過酷だ。特にひどいのは、Paketdienstと呼ばれる宅急便業界だ。UPSなどはほとんど自社の契約社員を使用しているが、元国営企業のドイツの郵便局、DHLになると半数が社員で残りは派遣である。この傾向が一番顕著なのはGLSやHermesの宅急便サービス。90%を超える「従業員」が派遣である。宅急便業界では、1日10時間勤務労働も稀ではなく、しかも週6日も働く必要がある。しかし自給は5ユーロにも満たない上、法律で定められている8時間を超える残業分には、一切、支払いがない。この為、1ヶ月必死になって働いても、手取りが3桁にしかならない。これでは生活できないので、国に"Wohngeld"という一種の補助金を申請して、これで家賃を払ってなんとか生活している。

ドイツの欠点は、国がこのような制度を作ると、企業側がこれを悪用することだ。「国から補助金が出るのに、何で給料を上げる必要がある。」と企業が考えて、一向に仕事に見合う給料を払おうとしない。こうして企業は人件費を節約して、大きな黒字を出している。BMW、メルセデス、VWなどのドイツを代表する会社も例外ではない。会社創立以来の黒字を毎年更新、会社のマネージメントは手前味噌で自分の給料を倍増しているが、その一方でこれを可能にした労働者には、当たり前の賃金さえも払っていない。こうして中間層が貧困層に転落する一方で、社会の1%にも満たない裕福層が、ドイツ社会の1/4%の富を所有している。ドイツの町を歩いてみると、あちこちでゴミ箱に顔をくっつけて、お金になる空き缶や空き瓶を探しているドイツ人の姿を見かける。産業革命時の19世紀ならともかく、21世紀にこんなことがあってもいいのだろうか。

"Christliche Gewerkschaften"(キリスト教労働組合)という会社がある。名前だけ見ると、キリスト教の隣人愛を尊重する労働組合のような錯覚を受けるが、実はこれ派遣会社である。労働組合を名乗ると、ドイツで(一部)導入されている最低賃金を遵守する必要がなく、組合が交渉した賃金で労働者を雇うことができるので、この名前を使用している。この派遣会社は、労働組合の名前を利用して、最低賃金よりもさらに低い給料で社員を派遣して、さらには会員費を給料からピンはねしていた。労働者は首になることを恐れて、不満はあったが、会社に苦情を言う勇気のある社員はいなかった。ただ一人を除いて。この派遣社員は「法律で最低賃金が設定されているのに、これよりも低い賃金しかもらえないのは法律違反だ。」とこの派遣会社を訴えた。ドイツの法律では、労働者が最低賃金よりも低い賃金で働いたことを法廷で証明しなければならない。これには正社員との給料の比較が必要であるが、通常、正社員は首を恐れて、派遣社員の見方をすることはなく、裁判をしても勝ち目がない。ところがこのケースでは同じ職場で働いていた同僚が裁判所で証言を行い、派遣会社が最低賃金を払っていなかった事が立証されてしまった。
          
ところがそんな事でドイツの会社は諦めない。この派遣会社は、「我々は労働組合であるから、最低賃金には拘束されない。」と反論、この一件は最高裁判所まで持ち込まれた。裁判官は「キリスト教労働組合は派遣会社であり、労働組合ではない。」と判決、2009年まで遡って最低賃金との差額を労働者に支払うように命じた。裁判で負けたからと言って、これまでの悪行を改正すると思ったら、大間違いである。ドイツ人はそんなに甘くはない。「支払いを要求する者は、どれだけ会社が賃金をピンはねしていたか、これを証明せよ。」と要求を出した。すでにこの派遣会社で紹介された職場を辞めている者も多く、僅かな例外を除き、差額を払うことはほとんどないだろう。
          
ドイツでは社会がくっきり二分化している。会社のマネージャーであるか、あるいは技術系の職場であれば、将来の心配をする必要はない。逆に特に専門知識がなく、誰でもできる仕事をしている場合、以前ここで紹介した日用雑貨品の大手、シュレッカーの倒産のように、一度職を失うと、もう派遣でないと職に就けない。労働局がちゃんと給料を支払われる仕事を探してこないで、派遣の仕事に就くように強制するためだ。「これじゃ生きていけない。」と断ると、生活保護の支給を止められてしまう。他に選択肢がなく就いた派遣の仕事では給料が少ないので、年金の掛け金もちゃんと払えない。こうして多くの国民は、30年以上も働いたのに、定年になると同時に生活保護を受ける事になる。しかし、生活保護では生活が厳しいので、少しでも生活の足しになるように、ゴミ箱を漁って空き瓶を探している。これが先進国の正しい姿なのだろうか。
          

二重社会。

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