悲劇(喜劇)の誕生 (05.06.2012)

米国や中国などのように国土の広大な国を除き、その国を代表する一番大きな空港は、首都の空港である。理由は簡単。首都が一番人口が多いからだ。ところがドイツでは比較的小さな国であり、ベルリンが最大の人口を抱える都市でありながら、一番大きな空港はフランクフルト空港で、直行の国際便はフランクフルトに着いてしまう。理由は簡単。20年前まではボンが首都だった為だ。ボンに比較的近いフランクフルト空港が、国際空港として発展する事になった。

そうこうするうちに東ドイツが西ドイツに吸収されて、僅差でベルリンが新首都に選出された。以来、ベルリンはベルリン新国際空港を新設する野望を抱いてきた。ところがベルリンはお財布はからっぽで、破産寸前。とてもじゃないが、新空港を自力で建設できる財力はない。そこで妙案を出してきた。すでにある空港を拡張しないで、空港をベルリンの郊外に新設するというものだ。これによりベルリン(州)に加えて、空港の所在地となるブランデンブルク州もボートに誘い、さらには国に補助金をかしめて、費用を3分することにした

新空港の総費用12億ユーロと聞かされて、ベルリン市民は怒った。ベルリンにはすでにテーゲル、テンペルホ-フ、そしてシェーネフェルト空港の3空港がある。テーゲルとテンペルホ-フは市街地に近いが、規模が小さいので、すでにパンパン状態。ここで滑走路を広げる余裕はない。しかしシェーネフェルト空港はベルリンの南、比較的人口密度の薄い地域に広がっている。このかっての軍事空港に拡張工事を施せば、費用はずっと安上がりになる。しかしベルリンの州知事であるボーヴァライト氏(自他共に認める同性愛者)は、この安価な解決策を「面子にかかわる。」と拒否、強引にベルリン新空港案を州議会で通してしまう。こうして2004年から新空港の建設が始まった。

新空港の開港は当初、2011年10月と発表されたが、予定よりも半年以上も工事が遅れており、この目標を守れないことが明らかになってきた。空港事業団がボーヴァライト氏に工事の遅れを報告すると、氏は怒った。工期の遅れは、ベルリン、すなわち州知事の面子を失う事を意味する。空港事業団の監査役である州知事は、「じゃ、いつになったら本当に開港できるのか、確実な日程を出せ!」と、事業団の責任者を怒鳴りつけた。以後、工事を請け負う建設会社と何度も協議を重ねた結果、「2012年の6月3日なら、絶対に大丈夫。」と報告した。これに従って空港事業団は空港の開港日を航空会社、空港内の店舗などに通告した。

この開港にあわせて、エアベルリンやルフトハンザはベルリン発の便を増発した。特にエアベルリンは、この新空港に賭けていた。ルフトハンザのベースはフランクフルト空港であり、ベルリンはミュンヘン、デユッセルドルフなどに次いで乗客の多い空港である。大事な空港ではあるが、死活問題ではない。しかし万年赤字経営のエアベルリンは、デユッセルドルフとベルリンをベースとしており、この空港に会社の将来を賭けていた。何しろベルリンは、ドイツ最大の都市である。乗客数はデユッセルドルフは言うに及ばず、フランクフルトよりも多い筈だ。しかしテーゲル空港は空港の規模が小さく、フライトを増やす余裕がない。しかし新空港なら、路線を増やして乗客を獲得する事が可能になる。そう考えたエアベルリンは、これまでデユッセルドルフから出ていた直行便を廃止、ベルリン経由にした。さらに新空港は、エアバスのA380の発着が可能である(滑走路が長い)。これにより今後は、航空運賃が高値安定していおり、利鞘が大きいベルリンから日本への直行便も飛ばす事が可能になる。ルフトハンザ(及び全日空)はフランクフルト行きのみであるから、ベルリン行きならエアベルリン以外に他になく、ルフトハンザと勝負をすることができる。
          
新空港のオープンに合わせて準備をしていたのは、航空会社だけではない。空港内のブテイック、本屋、薬局、レストランも従業員を雇い入れ、6月3日からのオープンに備えた。6月から空港事業団に高いテナント料を払う契約になっているので、空港の開店日から営業を開始しなければならない。店を1日でも閉めれば、赤字になる。関係者が見守る中、いよいよこの4月にベルリン空港の営業許可を決める安全検査/TUEVが実施され、ベルリン空港は見事にこの試験に落っこちた。
          
検査官が不具合を指摘したのは防火扉とスプリンクラー。まだ配線が完了していないので、火災の際は「手動」で扉を閉めて、「手動」でスプリンクラーを作動するようにお茶を濁していた。ドイツといえば、まがりなりにも、先進国。その先進国で防火扉とスプリンクラーが自動で作動せず、係員が手動で作動する措置で、TUEVの検査を通そうとしたのである。以前、デユッセルドルフ空港拡張工事の際、溶接の際の火花が原因で火災が発生、10数人が死亡したことがある。工事中だったので、防火扉とスプリンクラーが発生しなかった。なのにベルリンの空港事業団は一向にこの事故から学ばないで、「同じ手」で営業許可を取ろうとした。タイやカンボジアなら賄賂次第で可能だろうが、ドイツのTUEVはそこまで甘くなった。
          
ベルリン新国際空港がTUEVに落ちたと聞いて、ボーヴァライト氏は怒った。ベルリン州から、「一緒にやらないか。」と声をかけられて乗せられてしまったブランデンブルク州のプラッエック州知事は、„Ich bin stinksauer!"(頭にきた。)と記者会見で発言、暗にボーヴァライト氏/ベルリンを非難した。ボーヴァライト氏は非難を交わす為に、空港事業団の所長に全責任を取らせて首にしたが、実際の責任は、空港工事の監査役であった氏にあった。この工期の遅れて、総工事費用が当初の見積もりのほぼ3倍、30億ユーロ相当になる事が見込まれると、騙されて船に乗ったブランデンブルク州はさらに怒った。話では3億ユーロ程度の負担だったのに、今や10億ユーロ程度の出費を覚悟しなければならない。しかし最後にこのツケを払うのは、ベルリン州とブランデンブルク州の住民である。州知事のミスのお陰で、増税は避けられない。面子にこだわらずに、安価なシェーネフェルト空港の拡張案にしておけば良かったのだ。

さらに問題なのは、各航空がすでに便を増設してしまったこと。今更、増設した便をキャンセルするわけにはいかない。もうチケットを販売してしまっている。その結果、2012年の6月以降、まだ運営しているテーゲル空港には、膨大な数のフライトを処理する羽目になり、フライトの遅れ、キャンセルが危惧されている。これに怒っているのがエアベルリンだ。夏のフライトでベルリン発着便を増やしたので、大混雑が予想される。これを避けるには、チケットは言うに及ばず、フライトプランを全部書き直す必要がある。エアベルリンよりも怒っているのが、空港に出店しているテナントだ。乗客が居ないのに店を開けても意味がない。しかし開店に備えて従業員を雇っている。その人件費は誰が払うのか。
          
今後、空港事業団には損害賠償請求の訴えが届くことになり、これにより工事費用はさらに上昇する。余計にかかった費用は空港使用料で徴収することになるから、ベルリン新空港発着のチケット代金も高くなる。乗客にしてみれば、「わざわざ料金の高いベルリン経由で飛ぶ必要はない。」と値段の安い路線、フランクフルト、あるいはオランダ経由のチケット買うから、エアベルリンにとっては、会社の存在を左右しかねない。タイ王国にて新国際空港の開港が遅れに遅れ、「やっぱりタイ。」と失笑を買ったが、ベルリン新空港はこれに匹敵する茶番芸である。ひょっとすると、これ陵駕がすることになるかもしれない。尚、ベルリン新空港の開港は、2013年3月17日だそうだ。それまではベルリン発着便には混雑が予想されるので、「テーゲルは近いから1時間前で十分。」と安心しないで、早めに空港に向かった方がいい。そうそう、新空港の略号はBERで、テーゲルはTXLなので、間違えないようにご注意あれ。
          
編集後記
ドイツらしい事に、茶番劇はそれでは済まなかった。2012年の開港に「なんとしても」間に合わせるため、手抜き工事をしていた事が発覚、TUEVの試験に落っこちない為には、工事をやり直す必要が出てきたのだ。これにより、予定していた3度目の開港予定日、2013年3月17日に間に合わないことが明らかになってきた。さらに困った事に工事費用が爆発。今度は総工事費用42億ユーロと見積もられた。なんと当初の工事総費用(予定)の4倍である。なんといういい加減な国だろう。ドイツ人が馬鹿にしているタイだって、そこまでひどくはない(筈だ)。
          
悲劇(喜劇)はそれだけでは済まなかった。空港建設事業団は30億ユーロの総工事費用の予算で立ち上げられたので、42億ユーロの工事費を払う金がなく、ベルリン国際新空港は、オープン前に倒産する危険が出てきた。首都の空港が開港前に倒産するなど、これほどドイツを象徴する事例はない。今、どうやって不足する資金を調達するか、新国際空港計画を立ち上げたベルリン市(州)とブランデンブルク州が頭をひねっている。尚、新空港のオープンは4度目の正直、2013年10月27日と発表されたが、あまり信用しないほうがいい。一部では当初の予定から4年遅れて2014年になるのでは?と推測されており、情けない事にこの工期さえも守れるかはっきりしていない。この惨状を目にして、「シェーネフェルト空港を拡張工事して、新国際空港が完成するまでここを使ったらどうだ。」という「新案」が出てきた。なんの事はない、最初からシェーネフェルト空港を新空港にしておけば、数10億ユーロと州知事の面子まで救われただろうに。
          

工事中。
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