誇りの問題  (25.06.2012)

第二次大戦終結時、ドイツの科学力は他の西欧諸国よりも、控えめに見積もっても10年先を行っていた。ドイツ陸軍の「通常兵器」である"A4"、通称、"V2"はジャイロスコープを搭載しており、発射時にロケットが傾いても自動的にこれを補正する機能を有していたが、これは以後のすべてのロケットのお手本となった。世界で最初に実戦に投入されたジェット戦闘機、Me262の翼はこれまでのプロペラ機と異なり、後方に傾斜していた。これは音速を超える際に飛行機に安定性を与えるために、必要不可欠であった。米軍は戦後、捕獲したジェット戦闘機を米国に持ち帰って研究をしたが、何故、翼が後方に傾斜しているのか理解できなかった。独自のジェット戦闘機F86を開発する際、振動に悩まされた挙句、捕獲したドイツ軍の飛行機を真似して、後方に傾斜した翼を取り付けた。すると振動が消えたので、やっとドイツの技術を理解する事ができた。以後、後方に傾斜している翼は、音速を超える飛行機の定石となった。

戦争終結後、優秀なドイツ人科学者はソビエト軍か米軍に捕獲されたが、運良く捕獲の網から逃れた科学者も多く居た。こうした科学者はアルゼンチンなどの「親独」であった海外の政府の招待を受けて、海外でまるで何事もなかったように研究を続けた。その一方で、戦後、ドイツ人によるユダヤ人の集団虐殺がきっかけになり、国連でユダヤ国家の建設が採択される。アラブ国家はこの採択を拒否して、誕生したばかりのイスラエルに攻撃をしかけたが、アラブ国家の保有している旧式の武器では、ドイツ軍の最新鋭の武器で武装されたイスラエル兵に適わなかった。こうして皮肉にもドイツによるユダヤ人殺害が原因でイスラエル国家が誕生、その国家を守るためにドイツ製の武器が使用される事となった。

イスラエル国家設立に我慢ならないのがアラブ諸国のリーダー、エジプトである。エジプト国家の面子にかけて、イスラエルを地図から抹消すべきドイツ人科学者を大量にご招待、イスラエルを攻撃できるミサイルの研究開発を始めた。これをユダヤ人が指を加えて見守る筈がなく、さまざまな手段でイスラエルはこれを妨害した。効果的だったのは、手紙爆弾。封を切ると封筒の中に隠してあった少量の火薬が爆発する仕組みになっていた。このテロ攻撃で指や目を失くす科学者が続出、ドイツ人科学者は研究を放棄してドイツに帰国、イスラエルは見事に目標を達した。

時は流れて21世紀。かってのエジプトに変わり、イスラエルの抹消を国家の課題にしてるのは、アラブ国家でもないイランである。このイスラム原理主義国家は、その目標を達成する為、核爆弾の製造を始めた。これをユダヤ人が指を加えて見守る筈がなく、イラン国内は言うに及ばず、ドウバイなどの外国でも原子力開発に従事している研究者を片っ端から殺害した。米国諜報機関の報告によれば、「イスラエルの妨害がなければ、とっくにイランは核爆弾を保有しているだろう。」と言われるほど、イスラエルの妨害活動は徹底していた。これに対処すべくイラン政府も、イスラエルの外交機関への報復を命じたが、そこはモサドのような計画性のないイラン人の事、なかなかうまくいっていない。タイ王国のバンコクにて起きたテロ未遂事件が、そのいい例だ。隠れ家でパイプ爆弾が誤爆、工作員は即死した。爆発を生き延びた工作員は大急ぎで逃げようとしたが、タイの警察に隠れ家を包囲されてしまった。包囲している警察官に向けて投げた爆弾が、路上駐車している車の当たって跳ね返り、イラン人の足元で爆発、間抜けなイラン人は足を吹き飛ばされた。この騒動からうまく逃げる事に成功した別のイラン人工作員は、ラオスやカンボジアなどに陸路移動しないで、バンコクの国際空港から逃亡を企てて、見事に御用となった。この辺にモサドとイランの諜報機関の違いが出ている。

しかし幾ら妨害工作を行っても、イランは一向に核爆弾の開発をやめる気配がない。西側の経済制裁でイラン経済はものすごいインフレに見舞われており、国民の不満は高い。この不満の捌け口としてイスラエルは格好の手段である。イスラム原理主義者の経済政策の失敗ではなく、イスラエル及び西側諸国がイラン国内経済の破綻の責任とされており、この説は信者の間では人気がある。現実的に見てイランが核爆弾の製造に成功する確率は高く、イスラエルがこれを阻止するにはウラニュウムの濃縮施設を空爆するしかない。この為、ドイツ国内では、「果たしてイスラエルが空爆を行うかどうか。」ではなく、「いつ空爆を行うか。」と議論されている。「核施設の空爆なんて有り得ない。」と言われる方は、イスラエルが80年代に行ったイラクの原子力発電所の爆撃を見ていただきたい。イスラエルは、必要と判断された場合、核施設への攻撃を躊躇することはない。ただし今回は先回と少し事情が異なる。施設が広大なイランの領土の内部にあるので、空爆するにはイスラエル空軍はイラン国内深部まで飛行しなければならのが問題を難しくしている。公にはイスラエルはステルス爆撃機を保有していないので、米国の助けを借りて空爆する計画かもしれない。

この空爆が成功した場合でも、イスラエルはイランによる報復を覚悟しなければならない。かってのエジプトと異なりイランはすでにミサイルを保有しており、これをイスラエルに撃ち込むだろう。空爆が失敗した場合は、イランが核兵器を保有次第、イスラエルに対して投入することを想定しなければならない。しかしイスラエルのような小国は、広島に落とされた程度の核爆弾で消滅してしまう。広島の投下された核爆弾には64キロのウラン235が搭載されていたが、実際に核分裂したのは1キロ程度である。21世紀の技術を持ってすれば核爆弾に搭載されている濃縮ウランの大部分を核分裂させることが可能であり、イスラエルを抹殺するには10キロ程度のウランで十分だ。イランがウラン濃縮設備を稼動させれば、10キロ程度のウランは半年程で濃縮できてしまう。
          
皮肉な事に、ここでドイツが大きな役割を果たしている。ドイツは戦後、イスラエルに武器を提供しており、その中でも最も重要なのがドイツ製の潜水艦だ。ドイツがイスラエルに納入している潜水艦は核ミサイルの搭載が可能で、イランの核攻撃に遭ってイスラエルが消滅した場合、潜水艦はイラン、あるいはその他の攻撃を行った国に対して核弾頭での報復が可能だ。この潜在的脅威が、イラン、その他のおかしな国がイスラエルに核攻撃を仕掛ける事を抑制する事になっている。もっともドイツ政府にとって、この点を指摘されるのはあまり快適なものではない。イスラエルに納入される潜水艦にはドイツ政府が補助金を払っており、イスラエルは最新鋭の潜水艦をバーゲン価格(3割引)で購入している。つまりドイツ政府は核兵器の搭載、使用を可能にする兵器を、それも国民の税金を使ってイスラエルに納入しているのだ。イスラエルの大使が、「ドイツは、イスラエルの存続に大きな貢献をしている事を誇りに感じてしてよい。」と、多分、ドイツ政府を褒めるコメントを行ったが、ドイツ政府はそれほど嬉しくなかったようだ。
          
もうひとつのドイツの目玉商品が、「レオ」の愛称で呼ばれているドイツの誇る主力戦車Leopald2だ。かってドイツと戦って未だに不信感を捨て切れていないフランスとイギリスを除き、欧州各国、陸軍の主力戦車にはレオが導入されている。それもあのギリシャから、スペインまで。イスラエルでは車両こそ自国で開発しているが、肝心の滑空砲塔はドイツ製である。(日本の90型戦車、アメリカのAbrams戦車にも搭載されている。)イラクとエジプトが落ち目の今、大産油国サウジアラビアにとって残る潜在的脅威はイランのみ。そのイランはイスラエルと一戦交える様相を呈してきたので、サウジにとってこれほど都合のいい事はない。どっちが勝つことになっても、サウジの立場を強める事になる上、潜在的脅威を、自ら手を汚すことなり処理できてしまう。その日、"D-Day"に備えて、サウジは最新鋭の主力戦車を購入する事にした。言うまでもなく、ドイツのレオである。半年前は「わずか」200両のレオの注文であったが、これに加えて600~800両のレオを追加注文したいという。この話が実現すればドイツの武器輸出史上、かってない大型契約となり、ドイツの軍需産業はこの注文だけで数年間好景気に沸く。しかし、案の定、野党が苦情を言い始めた。大体、その野党が政権にあるときに、サウジへの武器輸出を始めたのに、今更、「モラル云々」を言うのだから、全く都合がいい。しかし実際家のメルケル首相は、誰も予想していなかった奥の手を出してきた。
          
上述の通り、レオはあちこちで採用されているために、工場がドイツ国内だけではなく、海外にもあり、海外工場では、レオをパテント生産している。ここにメルケル首相は目を付けた。ちょうどレオの生産工場がスペインにあるが、この工場はアメリカの資産も入っている。つまりこの工場でレオを生産すれば、米国企業も儲かるので、米国政府は「レオなんか買わないで、アブラムスを買ってよ。」と、この取引に苦情を言う必要がない。さらに不況と失業で苦しんでいるスペインにとって、この大型契約は願ってもいな天からの恵みとなる。そしてドイツ政府はスペインからの輸出であるから、野党の攻撃を交わすことができるばかりか、同時にこの注文で一儲けできてしまう。さらにはサウジもレオが手に入ってご満悦だ。こうして誰も損をする事がない"Win-Win"状況が誕生することになる。ドイツ人は本当に頭がいい。日本の政治家は、「サマータイムを日本にも導入!」とか、非生産的なことに注目しないで、こういうドイツの戦略を模倣して欲しいものだ。
          

ドイツ政府からの「贈り物」
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