Fiskalpakt & ESM (08.07.2012)

今、ニュースを見ると朝から晩まで"Fiskalpakt"やら"ESM"の報道ばかりだ。近くにドイツ人が居れば、「外国人にもわかるように、"Fiskalpakt"と"ESM"について説明して頂戴。」と頼んでみよう。「最近はニュースを読んでいないんだ。」などと何かの理由を挙げて面子を救おうとするか、「どうせ外国人にはわかりやしない。」と、とんでもないでっち上げを語ってくれる。このようにドイツ人でも理解している人は少ないので、外国人にとっては簡単なテーマではない。しかしこのテーマはユーロの"Sein oder nicht Sein"(存続)を左右する、とても大事な内容だ。そこで今回は日本に住んでいる方にもわかるるように、このテーマについて紹介してみたい。

まずは"Fiskalpakt"から。今回のユーロ危機の原因は、あるユーロ加盟国が好き放題に国家財政を肥大させて、これを国債を発行してカバー、EU議会に偽の数字を報告していた事にある。これを反省して、以後はユーロ加盟国(ユーロ通貨を導入している国を指す。)は国債発行高を自国で決定せず、その決定権を欧州議会に委ねようという画期的なもの。これにより国家財政を偽る事が不可能になり、第二のギリシャを防ぐことができる。これに加えて税金や国家予算(出費)などもユーロ加盟国が共同して決める。別の言い方をすれば、加盟国はこれまで各国政府が決定してきた国家予算案をユーロ議会に委ねる事になり、国家の主権を一部失う事になる。このような大きな変更を受け入れるかどうか、すなわち"Fiskalpakt"に参加するかどうか、加盟国がそれぞれの議会で採択する事になった。

ドイツでは政府与党と野党が協議、国の主権の一部をブリュッセル(欧州議会)に譲るかどうか、激しい議論が交わされた。政府与党は、何がなんでもこの議案を通す必要があった。ドイツなしのユーロ圏なんて、イチゴが入っていないイチゴ大福のようなもの。ドイツの国会でこの議案が否決されればユーロ圏は崩壊する。ところが、「そうは問屋が卸さない。」と野党。来年の総選挙に向けて、得点獲得のため、国内政治の面で政府与党の譲歩を要求した。メルケル首相はこの脅迫にも近い野党の要求を拒否、こうして交渉が行き詰った。残り少ない国会の開催日では議案を国会で採択するのは無理なので、"Fiskalpakt"は夏休み後に採決される事になった。

ところがここでユーロ危機、「スペインの変」が悪化する。日に日に下落していくユーロを見て、「決議を夏休みの後に伸ばしたら、そのときにはユーロは存在していないかもしれない。」と心配になってきた。こうして政府与党と野党は再び会合、与党、野党の双方が譲歩してこの"Fiskalpakt"をまだ今回の国会開催中に採決することで合意に達した。この辺が日本の政治家とドイツの政治家の違いだ。日頃はお互いに罵り合っていても、国の大事になると双方が譲歩して、同意に達する。日本の野党(自民党)のように、「政府の得になるようなことはしたくない。」と、国家の大事にもかかわらず神風特攻を繰り返す日本の政治家とは次元が違う。*

こうしてやっと6月末に国会にて"Fiskalpakt"について採決されることになった。野党議員の多くが賛成票を投じた為、政府は決議に必要な2/3を大幅に超える80%の賛成票を獲得した。ところが、それで終わらないのがドイツらしい。この決議に対して、「国家の主権を放棄する場合は憲法の修正が必要であり、この決議は違法だ。」と左翼議員などが、この決定を異議として司法裁判所に訴えた。ドイツでは国会で決議された法案に、大統領が署名して始めて法律として成立する。この為司法裁判所は、「審議結果が出るまで、署名を待たれたし。」と大統領に事前通告、大統領もこれを了承した。この辺が(滅多にない)ドイツの素晴らしい所だ。三権立法がちゃんと機能しており、裁判所が政治家の道具にならず、ちゃんと権力を監視している。**

この"Fiskalpakt"はその他のユーロ加盟国にて国会にて決議されたが、チェコは国の主権を失う事、よりによってドイツがでかい顔をするのを恐れ、この案を否決した。幸い、ハンガリーのように赤字財政を出している国ではなく、そこそこ健在な国家財政を維持している国であるので、この否決はそれほど大きな意味を持たない。フランスやイタリアなどの大国がこの案を否決した日には、それは大きな波紋を引き落としただろう。この法案が、ほぼほとんどの加盟国で決議されたことの異議は大きい。この法案はユーロ加盟国が自主的に主権の一部を放棄するものであり、United Nations of Europe(欧州合衆国)へのさらなる一歩を踏み出した事になる。
          
もう一方のESMだが、Europaeische Stabilitaetsmechanismusと言う。英語ではEuropean Stability Mechanism。日本語では欧州安定(化)機構と言い、去年立ち上げたEFSFを改定したものだ。名前も覚えやすくていい。ESMは資金巡りが難しくなった加盟国に金融支援を行う事が主要な任務で、その財源はユーロ加盟国が会費を払い込む形だ。財源は当初、7000億ユーロが計画されている。この財源があればイタリアの国債の利率が7%を越え、国家財政の維持が難しい事態になっても、数年は支える事ができる。イタリアはこの数年を利用して、国家財政を立て直す事が可能になる(これまで国債発行で問題を先送りにしてきたイタリア人に、国家財政を立て直す気力、能力、忍耐があるかどうかは、別の問題だ)。しかし、注目すべきなのは機構の主要任務ではなく、その他の分野に入っているESMの機能だ。
          
ここでも紹介した通り、借金で首が回らない国内銀行の支援のため、スペインはEFSFに財政支援を要請することになった。この方法の欠点は、銀行が直接に財政支援を要求できず、国が保証人になって支援を要求する必要がある為、銀行が借金を返せない場合国が借金苦に陥り、国が財政支援を必要とする事態になりかねない。この為、「銀行が直接、財政支援を申請できるようにすべきだ。」とスペインやイタリア政府が要求していたが、ドイツはこれに反対した。銀行が借金を返せない場合、EFSF加盟国がこの借金を負う形になるからだ。これはドイツ国内の選挙民に全く受けない。又、ドイツ、オランダ、フィンランドなどの「北ユーロ圏」に対して、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの「南ユーロ圏」は、ユーロ国債の導入を主張、加盟国内で意見が真っ二つに別れていた。6月末の(なんと第25回目)の欧州サミットにてこの議題が討議される事になったが、メルケル首相は、「私の目の黒い内はユーロ国債はあり得ない」と発言、ドイツ国民の喝采を受けたが、南ユーロ圏から不評を買った。

「1回のサミットで、ユーロ危機が解決されるものではない。」と政府のスポークスマンが経済界からの期待に前もって水を差したので、誰も大きな期待はしていなかった。メルケル首相の宣言もあって、ドイツが譲歩するとは誰も思ってはいなかった。案の定、会議は荒れた。ところが今回のサミットではメルケル首相は孤立していた。これまで首相の背面援護をしていたフランスの大統領が選挙で負けて、社会主義政党から出た大統領に変わっていた。フランスの大統領は同じラテン人のイタリア、スペインに同調、ユーロ国債の導入を要求して、メルケル首相をぐいぐい締め付けた。大体、欧州共同体はドイツが孤立化してまた戦争を始めるのを防ぐために、フランスとドイツの音頭で始まったものだ。これ以上、「一歩も譲らない。」という態度では、またドイツが孤立しかねない。そこでメルケル首相は譲歩する事にした。しかし、「私の目の黒い内は、、。」と啖呵をきった上、今更言葉を言わなかったようにする事はできない。
          
ここで誰かが救済案を出してきた。ユーロ国債を導入する変わりに、まずは借金難に陥った銀行が直接、ESMに財政支援を要請する事ができるようにしてはどうか。さらに7000億ユーロの巨額の資金を流用して、利率が高くなってしまった国債を買い上げる事を許可する。これにより表面上はユーロ国債は導入されないが、実質的には同じことであるので、メルケル首相の面子も救われる。こうしてサミットでは誰も予想していなかった同意に達し、経済界はこれを大いに歓迎した。メルケル首相も「ユーロ国債の導入を妨げることができた。」と自信の功績を評価、ドイツ国民はこれを鵜呑みにして、首相の支持率は60%を超えてしまった。敗戦を大勝利に変えてしまう首相の能力は、感嘆するばかり。尚、オランダやフィンランド政府、言うまでもなくドイツ政府は、「ESMによる国債買取には条件がある。」と苦情を挙げているが、とにかくこれでユーロを救う方法が一応準備されたことになる。どれほど効果があるだろうか。あまり期待をしないで、じっくりその出番を待ってみよう。
          
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借金大国日本は、2012年11月に倒産する。政府がこの破産を避けるため、さらなる国債の発行を行わなければ。これまで自民党はこのテーマに関して国会で協議することさえも拒否してきた。こうして10月後半から円が売られ始めた。日本の政治家は、いつまで痴態をさらし続けるのだろう。

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9月12日、司法裁判所は"Fiskalpakt"を合憲と判断した。ただし「政府がユーロ(加盟国)救済のために貸し出せるのは、1900億ユーロまで。」と条件/上限付きである。これは政府が見境なく債務を引く受けることを制限したわけだが、どのみちドイツの政治家には、「ドイツの国家財政を犠牲にしても、ユーロを救う。」という「ユーロ万歳」思想がないので、この条件には「理想的な価値」しかなかった。司法裁判所の裁判官が、ユーロ反対者からすべて武器を奪い、丸裸にしてしまわない為に、こうした条件を敢えて付け加えたのかもしれない。いずにせよ、これで"Fiskalpakt"と"ESM”は正式に発足することになった。果たしてこれがユーロを救う決め手になるか、それとも「やっぱり駄目だった。」となるか、それは歴史が示してくれるだろう。
          

「まだ間に合ったか?」
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