空飛ぶ絨毯 (15.07.2012)

「あんな事は言わなければ良かった。」と、何年か経ってから後悔した経験は誰にでもある。FDPが野党であった頃、同党の幹部、Niebel氏は「発展途上国への開発援助なんて金の無駄。そんな金があれば、ドイツ国内で使うべきである。経済援助省なんて廃止してしまえ。」と公言してはばからなかった。ところが困ったことに氏の言葉を信用した国民がFDPに投票、FDPは大躍進をして与党となってしまった。そして新しい政府にて経済援助省の大臣のポストに就いたのが、よりによってニーベル氏であった。この前までは、「廃止してしまえ。」と言っていた省の大臣に自ら納まって、矛盾を感じないだけの面の皮の厚さ持っている人物である。ところがそのニーベル氏、今、顔が真っ赤になって、マスコミから逃げまくっている。一体、何がこの厚顔無恥の人物をそんな事態に陥れたのだろう。

経済援助省の大臣がある国を訪れると、超V.I.P扱いである。この人物の所存で、どれだけ援助金が出るか、出ないか、決まってしまう。援助を期待している国にとってニーベル氏は、民主主義云々と愚痴しか言わない外務大臣なんぞよりも、貴重な人物だ。そのニーベル氏がアフガニスタンに飛んで、また税金をばら撒いてくる約束をした。記念撮影が終わると、この大臣、アフガニスタンでお買い物をしたいとのたまった。ドイツ軍とアフガン警察のエスコートで氏が向かったのは、アフガニスタン政府お勧めの絨毯屋。そう、氏は絨毯ファンであった。自宅の居間に必要な絨毯を1400ドルで購入したのはよいのだが、なんとこの絨毯30kgもある。とてもじゃないが、一人で持ち運びできるものではない。おまけにカブールからドイツまでDHLで送ると郵送費だけで3840ユーロもかかってしまう。1000ユーロ程度の絨毯に、4000ユーロ近い運送費では割に合わない。そこで大臣はこの絨毯をカブールのドイツ領事館に届けさせて、ここで「次の機会に」ドイツまで送らせることにした。

ドイツの諜報局、"Bundesnachrichtendienst"はちょくちょく、アフガニスタンに出張して、西側諸国の同僚と情報交換をしている。ドイツでも必要以上に省庁があるが、専用機を持っているのは首相と、ドイツ諜報局のみである。もっとも専用機で飛ぶと諜報員である事がばれるので、職員は通常、一般の航空機で飛ぶ。専用機を使用するのは長官だけである。この長官、皮肉な事に名前がシンドラーというが、氏がカブールを訪問した際に領事から、「大臣のお土産を預かっているので、持ち帰ってくれないか。」と頼まれた。断る理由が見つからない上、恩を売っておけば後で役に立つかもしれない。そこでシンドラー氏は絨毯をカブール空港まで運ばせて、専用機に積むとベルリンまで持ち帰った。空港には大臣から使命を受けた運転手が待機しており、絨毯は飛行機から大臣の専用車に移されて、そのまま大臣の私宅へと運び込まれた。これが5月20日の事である。

ドイツに在住している人なら430ユーロを超えるお土産は、関税で申請する必要がある事を知っている。本当に申請しているかどうかは別にして。ところが関税は諜報局の専用機をチェックをする権限がない。機密書類を運んでいるので、関税がこれをチェックする権限はないのだ。こうしてニーベル氏は運送費だけでなく、関税も節約することに成功した。(これが原因で諜報局は"Bundesnachsendedienst"、すなわち郵便局とあだ名された。)ところがである。ドイツの週刊誌シュピーゲル誌の記者が、大臣がカブールで絨毯を購入した情報を手に入れた。諜報局の専用機で絨毯が運び込まれたことに不審をいただいた記者は6月始め、経済援助省に対して、大臣は絨毯の関税を払ったのかどうか、問い合わせを送った。「これはマズイ!」と悟った大臣はやっと遅ればせながら、関税局に絨毯を申告して200ユーロ程度の関税を支払ってから、この問い合わせに、「勿論、大臣は関税を支払っています。」と返事した。「いつ、関税を支払ったのですか。」と簡単に納得しなかった記者には、特別ボーナスを払ってやるべきだ。大臣は絨毯が届けられてからほぼ1ヵ月後、それも記者からの問い合わせがあってから、関税を支払ったことを認める羽目になった。このニュースは、「空を飛ぶ絨毯スキャンダル。」として、一気に国民の関心を集めた。

以後、大臣が空を飛ぶ絨毯に座っている写真のコラージュや、「ニーベル絨毯商。関税なしで自宅まで絨毯をお届け。」などというネタがニュースを飾った。あまりの恥ずかしさに大臣は記者を避け続け、今日に至るまで記者の前に立っていない。大臣のスポークスマンが、「諜報局が関税の申請をしてくれる約束になっていた。」と発表すると、シンドラー氏は怒った。諜報局が新聞のヘッドを飾るのは、いいニュースでも、悪いニュースでも極力、避けなければならない。しかるに今度は諜報局が悪者にされてしまった。案の定、「諜報局が毎回、何を専用機に荷んでいるのかわかったものではない。」と言われだした。恩をあだで返した大臣に手心を加える必要を感じないシンドラー氏は、「そのような指示は一切ない上、これはアフガン政府からの贈り物だと言われた。」と多分、真実を語った。(政府の贈り物には関税を支払う必要がない。)こうしてスキャンダルは一向に終焉しないで、ますますその波紋を広げていった。

この一件に腹を立ててた人物がもう一人いた。メルケル首相である。ユーロ危機のこの大事なときに、閣僚のメンバーが不要なスキャンダルを起こすようでは、この先思いやられる。「(絨毯の持込には)別の方法が取られるべきだった。」と、首相の不満はスポークスマンを通して発表された。大臣の更送も噂されたが、二ーベル氏は運が良かった。首相はちょうど二人目の大統領と環境大臣を失ったばかり(その前には防衛大臣も失っている)。また大臣を失うと、首相の判断能力さえも疑われかねない。そこでここは首にするよりも、訓戒を述べる事で済ませることにした。多分、政界からの要請があったのだろう、関税局は「脱税の疑いなし。」として、この件を検察に書類送検しないと発表した。我々市民が絨毯を外国で買って関税で申告をしなかったら、即、書類送検である。政治家と一般市民の扱いが明らかに違う。
          

アフガニスタンで記念撮影後、
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絨毯屋でお買い物、
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関税を誤魔化して笑い物になる。
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