勝てば官軍。 (18.10.2012)

航空会社くらい経営の難しい会社はない。製造業であれば、景気が悪くなると勤務時間を減らすなどして稼働率を下げて市場の動きに素早く合わせる事ができるが、航空会社の場合、飛行プランが決まっているので、フライトを減らせない。スケジュールを変更する機会は年2回あり、4月からのサマースケジュールと、10月からのウインタースケジュール。以後は簡単にフライトの数を減らすことはできない。又、「飛行機が半分空だったから、お給料も半額でね。」というわけにもいかない。さらに景気が悪いとお金が儲かるビジネスクラスの客や、航空荷物が減少するので、経営は一気に悪化する。これに加えて、航空会社の業績を悪化させる外因、燃料コストの上昇、火山の噴火、乗務員、パイロット、空港勤務員のスト、伝染病、日中関係の悪化に代表される政治的要因などと、会社の業績を悪化させる要因が目白押しだ。以前は航空チケットが高かったので、それでも黒字を出していたが、通称、"billig Flieger"(英:Low Cost Carrier)の出現で、航空会社が普通に黒字を出せる時代は終わった。特にかってのナショナルキャリア(国有航空会社)は、まだ調子が良かった頃の社員の年金支払いを背負っており、これが重荷になって次々に倒産していった。

経営手腕の優れた西欧の航空会社でこの様だから、旧態依然の運営体制を引きずっていた日本航空(部長などは会社に出勤してくると、昨晩の深酒が効いて社員の前で堂々と居眠り。)が倒産したのは、当然の事だった。株が紙屑になって悲嘆した人は多かったが、内情を知っていた人間には、「よくこれで会社が潰れないものだ。」と会社が経営できているのが不思議で仕方なかった。2012年に日本航空は会社更生法の適用を終え、その株が再び上場されると新聞各紙は「Facebookに次ぐ世界で二番目の大規模上場。」、「世界最上位のシンガポール航空に匹敵する。」などと絶賛した。しかし現実に戻ってくるまでに、1ヶ月もかからなかった。上場から1ヶ月も経たないで、株価は上場値を割り込んでしまったのだ。日中関係の悪化が原因のひとつだが、原油高、日本の景気の悪化なども、これに貢献している。

株価低迷、経営難に苦しんでいるのは、何も日本の航空会社ばかりではない。ここでも紹介した通り、ルフトハンザのライバル、エアフランス&KLMグループは大赤字を出しており、これを改善する具体的な対抗策さえもないのが現状だ。ルフトハンザのライバルであったドイツ第二の規模を誇るエアベルリンは、いつ会社の資金が尽きるかわからない状態で、株価はかっての22ユーロから1ユーロ50セントに急降下、減少する乗客数よりも、さらにフライトの数を削る事により、かろうじて「座席占有率」を保持しているが、フライトの数を削るには限度がある。会社創立時のように、航空機を2機に減らして、ベルリンとマヨルカ島のチャーター便会社に戻れば話は別だが。唯一コンスタントに黒字を出している欧州の航空会社は、ライアンエアーに代表される大手LCCだけだ。

欧州の航空会社が苦戦を強いられている理由は、冒頭で述べた要因に加えて、エミレーツやエチアド エアーに代表されるアラブ系の航空会社が、安い原油を武器に欧州航空市場に乗り込んできた事があげられる。今や航空チケットの半分を占めるのは航空燃料である。その燃料を生産者価格で積める航空会社は、ルフトハンザは言うに及ばず、本来はLCCである筈のエアベルリンよりもさらに安価な値段でチケットを提供できるだけでなく、これで黒字を出すことができる。にもかかわらずドイツ政府は航空業界に新しい税金、チケットを税金を導入して、さらに競争を難しくした。これが原因で、同じ格安戦略で対抗したエアベルリンは赤字で首が回らず、エチアド エアーの軍門に下ってしまった。

ルフトハンザも例外ではない。「航空チケットが高い。」とお嘆きの方も少なくないだろうが、ルフトハンザは乗客一人当たりたったの2.56ユーロしか稼いでいない。10万、20万もする航空チケットだから、航空会社の儲けは数万円もあると思われているだろうが、実際にはルフトハンザの利鞘は、タクシーの初乗り運賃よりも安いのだ。これがルフトハンザの子会社、スイス エアーになると15.83ユーロ/乗客の儲けになっている。この数字は、ライアンエアーの数字にほぼ匹敵する。何故、スイスエアーはそのように効率がいいのか。理由は簡単。小さな国なので、寡占状態。国際線を飛ぶ場合、スイス航空以外に大きな選択肢がないのだ。だからチケットは高値安定、収益率を上げる結果になっている。ちなみに日本からの国際線も各航空会社がチケットの値段を談合して高値安定しており、過去重荷を捨てることができた日本航空の収益率は、このドル箱路線のお陰で飛躍的に上昇した。

実際、ルフトハンザはドイツ国内線、欧州内の路線は赤字経営で、唯一、国際線でお金を稼いでいる。だからといってドイツ国内線を赤字路線を廃止するわけにはいかない。製造業と違って、これがサービス業の辛いところだ。このようなきつい台所事情になっているのは、ドイツ国内ではエアベルリンなどの格安航空会社が、欧州内はライアンエアーなどの格安航空会社がチケットの値段を安く提供しているために、利鞘が薄くなっているのが原因だ。エアベルリン、ライアンエアーの客室乗務員のお給料は、ルフトハンザの客室乗務員よりも40%、パイロットは20%安い。こうしてラインエアーは黒字を出しているが、元国営会社のルフトハンザはお給料が良すぎた。なのに客室乗務員の労働団体、UFOは毎年5%の給料アップを要求してストを実行、大混乱を引き起こしている。折角、高い給料を払っているのに、感謝の念など全くないのだ。ルフトハンザの前社長、マイルーバー氏にはこのUFOが「目の上のたんこぶ」で、UFOからその武器を奪おうと画策した。すなわちルフトハンザ独自の派遣会社を作り、ここから客室乗務員をルフトハンザに派遣する方法である。これまで蜂蜜のように甘い汁を吸い続けているUFOがこれを甘受する筈もなく、大ストに発展、マイルーバー氏はこの案内を撤回するしか他に方法がなかった。

お陰でルフトハンザは2011年の決算で赤字に転落した。ドル箱路線の日本行きが福島原発事故で運休したのが効いた。2012年に社長に就任したフランツ氏は、国内及び欧州内路線を黒字にしない限り、氏の将来は言うに及ばず、会社の将来も危ういことをよく知っていた。そこで氏はルフトハンザ独自のLCC、その名も"direkt4you"を立ち上げて、ライアンエアーに立ち向かおうとした。これに反対したが言うまでもなくUFOだった。格安航空会社に移籍される、すなわち収入の減少を恐れた客室乗務員は、5%の給与アップと職場の確保、すなわち子会社に左遷されない保障を求めて大ストライキを実行した。ところがフランツ氏も今回は会社の将来がかかっているので、そう簡単には妥協しなかった。労使間の交渉が座礁した為、ストの仲介人が派遣されて、双方に我慢できる解決策を今、探している。
          
この調停がまだ続いている真っ只中、ルフトハンザは「2013年からドイツ国内線、及び欧州内線は子会社のジャーマンウイングスが運行する。」と発表して、UFOとパイロットの不興を買った。これにより1100人の客室乗務員が安い子会社に移籍することになる。UFOはスト調停中の会社側のこの発表を「挑戦」と解釈、調停を一方的に終了すると脅している。フランツ氏は、何故、調停が終わるまで待たなかったのか。これには理由がある。今、すでに10月である。2013年からこの計画を実行に移すなら、飛行機のペイントの変更は言うに及ばず、飛行プランも新しく立てなければならない。10月には2013年4月からの飛行プラン、チケット料金が出る時期なので、労働組合との交渉の行方を待つ余裕がなかった。又、敢えて交渉に不利な発表をする事により、会社側の断固たる決断を明確にした。今回はルフトハンザは本気だ。
          
今後、労使間の交渉が挫折、またストになる可能性が高いので、今後、旅行を計画されている方は交渉の行方に注目されたい。尚、上記の新戦略の例外として、デユッセルドルフ空港からの欧州線、フランクフルト空港、及びミュンヘン空港から飛ぶ国内線と欧州線はルフトハンザの名前で飛ぶそうだ。ドイツ国内で乗り換えをご予定の方は、「ルフトハンザで予約したのに、ジャーマンウイングスになっています。」と旅行代理店に苦情を言わないように、注意されたい。もしこのルフトハンザの目論見がうまくいけば、フランツ氏は「ルフトハンザを救った人物」として企業史に残るだろう。逆に失敗すれば、ルフトハンザを駄目にした張本人として、カールシュタットデパートを経営破綻させたミデルホフ社長1000億ユーロもの負債を出して倒産したHRE銀行の頭取フンケ氏メルセデスベンツを危うく倒産させる所だったシュレンプ会長などと一緒に、能無しマネージャーの伝道に入るだろう。
          
編集後記
ルフトハンザの客室乗務員は調整人の提案、4%のお給料アップ、2014年まで解雇をしない代わりに、フレキシブルな勤務時間に同意する、を受け入れた。ルフトハンザのコスト節約プラン "Score" には痛い出費だったが、これにより会社の抜本的な改革を行う事が可能になった。市場はこの同意を歓迎、2012年の夏に7.80ユーロまで急降下した同社の株価は、2013年になって15ユーロを突破した。当時ルフトハンザのマネージャーの手腕を信用、勇気を出して株を購入していた人は、半年間で投資額を倍にする事ができた。
          

新しいルフトハンザの社長フランツ氏
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に抵抗する乗務員。
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