K-Frage (29.10.2012)

二大政党制が崩れたドイツでも、首相に選出される可能性があるのはCDU/CSUとSPDの二党の候補者のみ。福島原発事故で一気に人気を博した緑の党、世論調査で一時SPDを追い抜き、さらにはSPDとの連立政権で(計算上)過半数を制し、「緑の党から首相が出るか?」と憶測されたが、原発事故の記憶が薄れるに従って人気も落ち目になり、SPDジュニアパートナーの地位に戻ってしまった。

来たる2013年9月(予定)には、ドイツ下院の選挙がある。政権にあるCDU/CSU内では、メルケル首相がコール首相の記録に並ぶ3期連続首相就任を目指すことは明らかだった。首相がライバルになる可能性のある政敵(州知事)をすべて潰すことに成功した為、他に候補者がいなかった。もっともこの方法は、いい事ばかりではない。政敵潰しをスターリンの粛清のように徹底的に行った為、党内で候補者に欠き、地方選挙でCDUは負け続きである。そのメルケル首相の対立候補を出すべき野党のSPDだが、党内での調整に揉めた。(少なくともそのように見えた。)

現在、SPDの党首に納まっているGabriel氏は、党内左派。簡単に言えば、金持ち税を導入、さらには企業の税金をあげ、増えた税収入をそれほど恵まれていない層に分配しようと考えている。日本の政党のように、「歳出を削って財源を確保する。」というインパール作戦のようなプランではなく、実行可能なプランであるが、企業には全く受けない。企業からの政治献金がなければ選挙資金に欠け、選挙運動さえ続けられないので、SPDの党内左派から首相候補が出ることは滅多にない。さらに同氏は国民に人気がない。何もアイドルである必要はないが、ある程度の人気、知名度は必要である。早い話、ガブリエル氏が首相候補に指定された場合のSPDの勝算がは低く、CDU/CSUは密かに氏がメルケル首相の対立候補になる事を望んだ。

先回の選挙でメルケル首相の対立候補として立候補した幹事長のSteinmeier氏も、まだ二度目の立候補を諦めておらず、虎視眈々と好機をうかがっていた。そして三人目の候補が、平の国会議員でありながらも、先回の連立政権で財務大臣に就任、金融危機に際して果敢に決断、「ドイツを金融破綻から救った人物」として名を挙げたSteinbrueck氏であった。幹事長のシュタインマイヤー氏、平議員のシュタインブリュック氏、両氏共にSPDの右派に属しており、労働者の地位向上の為、最低賃金導入を擁護するが、外国企業との厳しい競争にさらされているドイツ企業へのさらなる負担をよしとしなかった。それよりも企業の業績が上がれば、企業が労働者の待遇を自発的に改善することを期待した。こうした企業よりの思想は党内の左派に受けず、もしこのどちらかの候補者が首相候補になった場合、党内左派からも支持を受けれるかどうか、その点が未確定だった。ちなみにSPDの首相経験者、シュミット首相、シュレーダー首相はどちらも党内右派の出身であり、左派の支持を取り付けることに成功して、首相に選出されている。

「早く対立候補を決めたほうが、それだけ効果的に選挙運動ができるだろう。」という思惑とは別に、SPDの三候補は、「首相候補者の問題(”K-Frage")は、2013年1月に決める。」と異口同音、記者におだてられても、一向にボロを出さなかった。この悠長な決定に我慢できないのが、シュミット(元)首相だった。94歳もの高齢にも関わらず、テレビでひっぱりだこのシュミット(元)首相は、「メルケル首相と勝負ができるのはシュタインブリュック氏だ。」と発言、党執行部の不興を買った。党の地方支部も、「CDUは首相候補が決まって選挙運動をすでに開始しているのに、わが党はまだ候補者さえも決まっていない。」と次第に我慢できなくなってきた。こうして党執行部に対して、次第に圧力が増してきた。

9月になってシュタインマイヤー氏が候補を断念した。その後メデイアに向けて、「奥さんの病気のため。」とその決断理由を語ったが、本当かどうかはわからない。そのシュタインマイヤー氏は同じ右派のシュタンブリュック氏を推すことを、党首に伝えた。党首であったガブリエル氏は、後に氏が語ったところによると、最初から首相候補になる気がなかったらしい。SPDはなんとしても、メルケル首相の「三選三勝」を避けたい。これに失敗すると、敵に12年間も政権を明け渡すことになる。しかし、首相候補を早く決めてしまうと、敵、すなわちCDU/CSUからの集中砲火を受け、メデイアからの精密検査を受ける。思わぬスキャンダルが持ち上がり、候補者の人気が失墜してしまうのを避けるため、"K-Frage"の決断を2013年まで延ばすことにしたのである。「候補者が決まっていなければ、敵も攻撃できまい。」というなかなか思慮の深い戦略であったが、党内からの圧力で、これ以上、決断発表を遅らせることができなくなった。9月末、SPDは記者会見を開き、シュタインブリュック氏が首相候補に選出されたことを発表した

この発表にがっかりしたのが、CDU/CSUだ。ガブリエル氏が候補になれば、もう「何もしなくても」勝ったも同然だった。シュタインマイヤー氏が候補になった場合でも、氏はガブリエル氏よりは国民に人気、知名度があるが、先回、メルケル首相相手に明確な敗北を喫している。メルケル首相の人気をもってすれば、勝利は確実なものと思われた。不確定要素がシュタンブリュック氏だった。氏はよく言えば、きっぱりと物を言う。悪く言えば、言葉を選ばない。ここでも紹介した通り、この性格が災いして、スイスとの関係をまずくした。先回の連立政権時、メルケル首相はこの大蔵大臣のシュタインブリュック氏との対立を恐れて、氏に譲歩する事が多かった。党内では「行け行けどんどん」で恐れ者なしの首相だが、唯一、苦手なのがシュタインブリュック氏だった。その氏が対立候補に指定されたので、与党には「不愉快な」選挙戦になる事が予測された。しかし、まず攻撃を開始したのはCDU/CSUだった。
          
シュタインブリュック氏は平議員の為、党内業務から解放されて時間がある。この時間を利用して、頻繁に講演を行った。肝心の講演料だが、7000ユーロ/回あたり徴収していたと推測されている。この為、シュタインブリュック氏はもっとも収入の多い議員の一人で、メルケル首相よりも多く稼いでいた。しかし氏は国民から選ばれた国会議員である。しかるに本業よりも、副業に精を出していいのか。CDU/CSUは「誰から幾らもらったのか、副業収入の詳細を明かすべきだ。」と要求、氏が「現行の法律上、そんな義務はない。」と弁護したことも手伝って、見事に「国会議員の立場を利用して、私服を肥やすシュタンブリュック氏」というイメージを醸し出した。ちなみに副業を持っているのは、シュタインブリュック氏だけではない。閣僚メンバーのほとんどはどこかの企業の取締役員か顧問になっており、しっかり副業でお金を稼いでいる。シュタインブリュック氏はその代わりに、講演を行ってお金を稼いでいるだけの事で、やっていることは非難を持ち上げたCDU/CSUと同じである。
          
とは言っても、政治家のイメージが地に落ちているドイツでは、この報道は効果があった。氏の首相候補指名後、人気を挙げたSPDだがこの報道で人気を落としてしまった。選挙までまだ10ヶ月もあるので、今から結果を予測するのは、「取らぬ狸の皮算用」だが、CDU/CSUは現在、37%の支持率で堂々の第一党である。ただし37%では過半数に大きく欠ける。そこで連立政権のパートナーが必要になるのだが、CDU/CSUのパートナーFDPは相変わらず4%で、国会から消えてしまう確立が高い。仮に神風が吹いて5%、あるいは6%に達したとしても、合計で43%。ドイツの特殊な議席の換算、分配方法をもってしても、過半数を制するのは難しい。その一方でSPDの支持率は29%。緑の党と組んでも40%程度。SPDが政権を奪取するには、党の支持率を35%程度まで挙げる必要があるが、そのような躍進はあまり現実的ではない。政府与党(CDU/CSU)と野党(SPD)は、「大連合政府は組まない。」と盛んにアピールしているが、現状ではこれ(CDU/CSU+SPD)が唯一の考えられるシナリオである。
          
ちなみにユーロ危機の発生時点で政権にあった政党は、危機が悪化すると、スペイン、ポルトガル、フランス、ギリシャ、ベルギーなど、ほとんどの国で敗退を喫し、政権を明け渡している。この傾向から行けば、メルケル首相が政権を失う確立が高いが、ドイツだけはまだ経済も成長しているし、違った結果が出るかもしれない。果たして10ヵ月後のはどんな結果がでるだろうか。
          

背水の陣で選挙に臨むSPDの首相候補、シュタインブリュック氏
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