君の行く道は、 (12.11.2012)

今年の初め、すったもんだの末にギリシャへの2回目の財政支援、それも315億ユーロもの巨額の支援が決定された。この支援金は、義捐金と呼んだ方が正しいだろうが、この4月にギリシャに送金される筈だった。ところが、今、そろそろ11月中旬なのに、未だに送金されていない。お陰でギリシャの国庫に17億ユーロの穴がぽっかり空いており、国家公務員への10月のお給料、年金受給者への支払いが滞っている。このお金が1~2週間でギリシャに送金されない限り、ギリシャはこの月末に破産する*。何故、まだお金が送金されていなのだろうか。

ギリシャ政府は今年初め、援助を受ける条件として(国内総生産高と比較して)7.6%の赤字率達成を約束した。しかしTroika(ユーロ議会とIWFの監査チーム)がギリシャ政府の帳簿を確認してみると、約束された7.6%ではなく、8.6%であった。ギリシャが約束を守らない(守れない)ことは、調査する前から予測はしていたものの、「ああ、そうですか。」とまるで何もなかったように315億ユーロを送金するわけにはいかない。一度これをやると、「何だトロイカなんて倒産で脅せばちょろいもの。」とギリシャ政府が今後、改革を真面目に実行しなくなる恐れがある。(これまでも真面目に実行しなかったが、、。)そこれに加え、他のユーロ加盟国、とりわけドイツ国民は怒り猛る。

そこでトロイカはギリシャ政府に、真面目に借金問題と取り組んでいる証拠として、さらなる緊縮財政を要求した。ギリシャ政府はこの要求を呑むしか選択肢がなく、新規の税制改革を考案した。政府は「最後の改革」と呼んでいるが、これは年金受給資格を65歳から67歳に引き上げ(ドイツと同じ)、年金を80%カット、高給取りの家庭には子供金の支給がなくなる内容だった。同時にギリシャの硬直した労働法を改正して、解雇を容易にする。ギリシャ政府は、「この最後の改革により、135億ユーロ節約できる。」と主張、この案を11月7日に国会で決議することにした。この決議が否決されると、ギリシャは事実上数週間で破産するのだが、ドイツを初めとして市民の関心は低かった。一体、これまで何度、ギリシャ政府が税制改革を告示してきたことだろう。狼少年のように、「この改革が実行されないとギリシャは破産する。」という脅しは、その効力を失っていた。

しかし、これまでギリシャ政府から度重なる増税を課せられていた市民は、大いに怒った。政府内でも左派政党が抵抗、「これ以上の負担には賛同できない。」と抵抗を試みたが、この案が否決されるとギリシャは数週間で経済破綻する。結局、破産と増税の採決を迫まられた国会議員の過半数がこの議決に賛成、7万人の市民がデモンストレーションをする中、この案は採択された。11月11日(なんと日曜日!)に国会にてこの税制改革案を含む2013年の国家予算が採択されれば(採択するしかないだろう)、トロイカの要求はとりあえず満たした事になる。これにより半年以上も遅れた金がギリシャに送金されて、年内のギリシャの経済破綻を避ける事ができたるわけだが、果たしてこの喜劇はいつまで続のだろう。空前の不景気に襲われている国が、国家予算のカットをするだけで、国家財政を立て直せるわけがない。日本が唯一財政赤字を減らす事ができたのは、80年代の中曽根政権のバブル経済時期だけであり、赤字財政の改善には経済成長が欠かせない。それが何故か、ドイツの政府首脳にはわかっていない。

あるいは、逆にドイツ政府はそんな事は承知の上で、もっと先まで計画しているのかもしれない。現時点でギリシャが破綻すると、ドイツが蒙る損害はギリシャに行っている財政支援の数倍になると計算されている。(ドイツの連邦銀行が大量にギリシャの国債を保有している。)さらにギリシャの破産がスペイン、イタリアに及ぼす影響は、計り知れない。この為、欧州政府は好む、好まざるに関わらず、ギリシャへの財政支援を行わざるを得ない。ギリシャ政府が約束した赤字率に達するか否か、正直に告白すれば、これは二の次。重点はギリシャが今、倒産しない事。2~3年後、スペインとイタリアが不景気から抜け出すまで、ギリシャを死なせない事に重点が置かれている。つまり今回、ギリシャ政府の改革案が国会で否決されていても、トロイカは結局の所、約束したお金をギリシャに送金した事だろう。

今回の不況は、ドイツにとって大きなチャンスである。欧州では、政府が補助金を出したこともあって2010年以降、車が大いに売れた。車メーカーは生産能力を拡大して、このブームに乗り遅れまいと必死だった。ところが2012年にはこのブームは跡形もなく消え去り、車業界は大不況に見舞われている。車の生産能力が需要を越えており、需要と供給のバランスが崩れているのが原因だ。お陰でフランスや欧州で生産販売している米国の自動車メーカーは赤字操業に悩まされて、欧州内で工場を次々と閉鎖しいている。ところがよりによってこの不景気の嵐の真っ最中にドイツのフォルクスワーゲンやBMWは、逆に売り上げを伸ばしている。自動車の部品メーカー、製鉄業、工作機械などの分野を見ても、ドイツ製品は欧州内での売り上げを落としているが、海外、特にアジアと北南アメリカからの需要が高く、落ち込んだ売り上げを十分にカバーしている。この不況があと1~2年も続けば、ドイツ企業は生き残るだろうが、フランス、イタリア、スペインの競争相手は倒産するだろう。こうして結局は、ドイツ企業の市場占有率を高める結果になる。これがドイツ政府の狙いであり、ユーロ危機の早期解決には、その意思がないのではないかと疑われてくるほど、ドイツ政府の姿勢は理解しがたい。

ドイツ政府の本当の狙いが何処にあるにせよ、ユーロ危機はここ1~2年は常にトップテーマとして存在するだろう。問題は2~3年後にはユーロ危機が収拾に向かっているかどうかだ。それにはスペイン、イタリアは言うに及ばず、世界景気の回復が欠かせない。米国経済は現在回復の兆しを見せており、中国政府による大型インフラ設備への投資が効いて、中国経済の鈍化も止まったようだ。この世界第一、第二の経済大国の経済が回りだせば、回りまわってユーロ危機の収拾に繋がるかもしれない。運よくこのプランが機能した場合でも、ユーロ危機の沈静化(解決とは書かないほうがいいだろう。)にあと2~3年かかることになり、ユーロ危機は今、ようやく折り返し地点が見えてきたに過ぎず、その解決までの道は果てしてなく遠い。
          
* 奇しくも日本でも地方自治体への交付金の支払いが遅れ、地方自治体は資金難に陥って、銀行からお金を借り入れている。ギリシャの運命が欧州政府からの援助に左右されるのと同様に、日本の運命も特例公債法の採決にかかっている。地理上は大きく離れているが、状況が酷似しているのが面白い。


果てしなく遠い。
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