法治国家 (05.12.2012)

大方のアジアの国では、公平な裁判を受ける事ができない(事が多い)。裁判官が権力者の下手人になっているので、全く根拠がない訴えでも有罪になり、刑務所に送りこまれてしまう。奥さんとぐるになった司法に告発されて、全財産を取り上げられたばかりか、有罪判決を受けてフィリピンの刑務所に座っている(日本人を含めた)外国人がそのいい例だ。(元)大統領が軒並み有罪判決を受けて刑務所に送られるこの国にふさわしいといえばそれまでだが、アジアのラテン国家と言われる由縁だ。そこまではひどくなくても、言論の自由がない国は多い。権力者を批判したという疑いだけで7年も刑務所に送り込まれるケースは、某アジアの国では日常茶飯事だ。日本でも卒業式の国歌斉唱で起立せず、免職職分された教師の例は毎年春先に新聞を賑わす。所詮日本でいう言論の自由とは、権力者を非難しない限り有効な権利だ。これが東欧になると、もっと凄惨な形を取る。権力者の気に入らない記事を書いた記者、権力者を裏切ったエージェントはっ抹殺されて、裁判すら行われない。

ドイツの民主主義が素晴らしいのは、憲法に書かれているだけでなく、言論の自由が本当に認められている事だ。ネオナチが示威行進を申請すると、これが政治的な催しである限り、政府はこれを許可しなくてはならず、又、実際に許可されている。不愉快極まりないが、これが民主主義である。気に入らないからと言って、主義主張が異なる個人や団体を禁止しないで、同等の権利を認めている。これが法治国家、"Rechtsstaat"たる由縁である。ところがそのドイツの至宝である民主主義が、うまく機能しないケースがある。ある政党が長期政権を維持すると、自身を法の上に存在するものと勘違いして、民主主義をないがしろにし始める。その典型的な例が以前、ここで紹介したStuttgart21であった。今回紹介するのはバイエルン王国での事件である。

きっかけは、(他人には)実につまらない中年夫婦間の仲違いから始まった。ある夫婦間で関係がこじれ、お互いに憎しみ合う関係になった。妻は「旦那に殴られた。」と主張、それだけでは済まさず、離婚裁判を有利に進める為、病院の医師に「旦那は気が狂っている。」という診断書を書かせることに成功した。医師は旦那に会う事もなくこの診断を下したので、妻はいい診断料を払ったに違いない。この診断書を武器に、離婚裁判が始まった。旦那は、「本人を診ることもなく、妻の言い分だけで精神異常の診断ができるわけがない。」と主張したが、裁判官はそのような「些細な事」には興味を示さなかった。この裁判官は明きからに原告の味方をしており、旦那にとって非常に立場が悪くなった。ここで旦那は、ニュルベルクの銀行HypoVereinsbankにて働いている妻は、銀行の同僚と一緒になってマネーロンダリングを行い、スイスに洗濯した金を送金していると暴露した。マネーロンダリングを行う犯罪組織はふんだんな資金を武器に政界、法界にコネを持っている。同じような秘密の暴露で、ロシアのエージェントが抹殺された事を考えれば、この暴露は非常に危険な賭けだった。

旦那は本気である事を示すため、警察と税務署に脱税の"Anzeige"(届出)を行ったので、ニュルベルクの税務署がこの容疑の調査に乗り出した矢先、この離婚裁判をしきっている裁判官から税務署に電話がかかってきた。裁判官は、「この旦那は気が狂っているから、調査を行う必要はない。」と調査をしないように強く求めた。さらにニュルンベルクの検察も、理由は不明だが、この届出を無視した。政界の上層部は、秘密が暴露されるのを好まなかったのだ。こうして哀れな旦那は「精神異常により"Allgemeinschaft"(社会)に危険を及ぼす。」と判断されて、精神病院に収監されてしまった。こうして裁判所の慈悲がない限り、死ぬまで精神病院で過ごす運命となった。

ロシアならこれで「万事休す」である。ところが、この件では思わぬ展開があった。(元)旦那からマネーロンダリングを告発された銀行が、税務署から調査が入ってこないのに、こっそりと内部調査を始めた。すると出てくるわ、出てくるわ。この旦那の告発通り、(元)妻とその同僚が顧客に対してマネーロンダリングをしていた事が明きからになった。この内部調査報告書は、ロシアのような国では、闇に葬られて日の目を見ることはない。(元)旦那にとって幸いなことに、この調査に関係のある銀行職員が、この内部報告書のコピーをメデイアにこっそりと流した。

この特ダネを武器に、テレビ局(国営)はミュンヘンの法務大臣に記者会見のインターニューを申請、そんな「裏の手」がある事を知らない法務大臣は、このインタビューを承認した。インタビューでは、「モラート(元旦那)は著名な医師により社会に危険と判断されたので、精神病院に収監されているのだ。その正当性は疑いようがない。」と検察を弁護した。しかし、「検察は何故、脱税、マネーロンダリングの告発に対して、何も行動を起さなかったのか。」との質問には、「検察の判断については、検察に聞いてくれ。」と責任を逃れた。ここで記者が、「実は銀行の内部調査書がここにあるんですが、それによると告発は事実であったと報告されています。」と言うと、元々、愛想の悪かった法務大臣の表情はさらに悪化した。「報告書は2005年に上がっているのに、どうして今まで何も処置を取らないのですか。」と問われると、怒りで震える声で、「問題をはっきりさせたい。モラートは危険人物なのだ。」と精神病説に固執した。ミュンヘンの法廷は、赤らかに無罪の市民を精神病院に死ぬまで収監することを、真実の解明よりも優先した。

幸いなことに、ドイツでは中世はすでに終了していた。銀行の内部調査書を手にした検察、税務署はこの銀行の本店、支店に対して強制調査を行い大量の資料を押収した。銀行がすでにこの事実を認めている今、検察、税務署がこれを押収した書類で立証できるのは時間の問題である。これに大いに困惑したのがメルク法務大臣だ。「モラートは危険人物だ。」と主張しているその超本人が、モラートの精神鑑定のやり直しを命じた。バイエルン州の州知事であるゼーホーファー氏が、来年の選挙を前に野党に格好の攻撃目標を与えないよう、その前に爆弾を自ら処理するように法務大臣に命じた故の処置であった。メルク法務大臣は、「新しい事実が明らかになった為。」とこの変身振りを説明していたが、その新事実が2005の銀行の内部調査書である事には言及しなかった。

編集後記
ネオナチによる外国人連続殺害事件で、警察、秘密国家警察は調査委員会が設置されると、次々に都合の悪い書類を処理していった。調査委員会が書類の破棄を止める様に命じても、破棄は続けられた。今回の事件でも、ミュンヘンの法界は無視できなくなるまで事実を無視し続けた。都合の悪い事件では、やはりドイツでもアジアのように、臭いものには蓋をする習慣がある。ドイツがそれでもアジア諸国と異なるのは、メデイアが健全に発達しており、政府のミスを発見、糾弾する事に余念がない事だ。その意味では、アジアに民主主義が根付かないのは、本当に自由な報道がないからだと言える。


バイエルン王国の魔女、メルク法務大臣。
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