Skandalbank。 (12.02.2013)

リーマンブラザースの破綻が巻き起こした一連の銀行スキャンダルで、銀行と銀行員のイメージは地に落ちた。預金者の金を危険な賭けに投資してこれを掏ってしまい、国に財政援助を請う銀行が、国民に受けがいい筈がない。ところが銀行はこの失敗から何も学ばなかった。コミッション目当てに顧客に怪しげな証券を売りつける銀行員の悪態が報道される度に、銀行員のイメージはさらに悪化した。世論調査によると、ドイツ人の1/4が銀行員を「とりわけ犯罪的」とみなしている。銀行(員)は、こうした悪イメージの払拭にことのほか熱心で、悪いメージを洗い落とすべく、大金を払ってテレビで宣伝を流して、「悪いのは他の銀行です。」というメッセージを伝える必要があるほど、銀行のイメージは地に落ちている。

そんな宣伝をするよりも、真面目に仕事をすればいいと思うのだが、銀行はそうは考えない。真面目な仕事、すなわち預金者の金を貸し出すだけの仕事では儲からないのだ。そこで銀行は金の儲かる多種多様な方法を考案、「銀行だから信用できる。」とナイーブな考えで銀行にやってくる顧客にこうした商品を売り込んでいる。行員には毎月、「今月はこの商品をこれだけ売れ。」とノルマを課される。職を失いたくたくなければ、この商品をあの手、この手を駆使して販売するか他に方法がない。ここでは一例として、一番有名なドイツで最大の銀行、"Deutsche Bankの商売方法について、取り上げてみたい。

ドイツの地方自治体は借金で首が回らない。少しでも安くお金を借り入れるべく、毎日銀行の投資部門に電話をして金利の低い融資を探している。「溺れる者は藁をも掴む。」という通り、ドイツ銀行はこうした地方自治体に、「一儲けしてみませんか。」と話しかけると、利率の動きに賭けるとりわけ危険な投資、俗に言う"Zins-Wetten"を売り捲くった。それもドイツ国内だけではなく、世界中で。大方のケースでこの投資金は海の藻屑と化して、うまい話を信用した投資家は大金を掏った。投資家は、「聞いた話と全然違う。」とドイツ銀行の落ち度を指摘したが、「当銀行には落ち度はありません。」と判を押したような回答でとりつく暇もなかった。こうして世界中でドイツ銀行に損害賠償を求める裁判が始まった。

2011年、ドイツの最高裁判所が一連の"Zins-Wetten"に関する最初の判決を下した。最高裁判所は、「契約時点で投資家に不利な利率の動きがあったのに、これを投資家に説明しなかった銀行に落ち度がある。」と原告、このケースでは地方自治体ではなく企業家だったが、の言い分を100%認め、ドイツ銀行に54万ユーロの支払いを命じた。ドイツ銀行のような巨大な銀行にしてみればたかが54万ユーロの罰金は、「ピーナッツ」だったが、この銀行は世界中で同じ方法で契約を取って。今後、世界中でドイツ銀行に対して、同様の訴えが起こされるのは避けようがなく、おまけに裁判に負ける確立が高い。今後の裁判(罰金支払い)に対処すべく、この銀行はなんと10億ユーロもの「特別予算」を組む事を余儀なくされた。

この処置が「効果を発揮」するまで、長く待つ必要はなかった。イタリアはミラノの裁判所が、ドイツ銀行を筆頭にスイスの銀行UBS,米国の銀行JP Morgan、それにアイルランドの銀行Depfaを"Betrug"(詐欺)の有罪判決を下した。それぞれに銀行に仲良く100万ユーロの罰金を課し、ドイツ銀行だけで8700万ユーロもの賠償支払いを命じた。この判決に勇気づけられて、世界中でドイツ銀行に対して損害賠償訴訟が起こるに違いない。

「ドイツ銀行ひどいな~。」と思うのはまだ早い。これまではまだ序の口。「本当のスキャンダル」はこれからだ。イギリス(ロンドン)で"Libor-Skandal"(公定歩合操作)が発覚すると、「ドイツ銀行もこれに参加しているんじゃないか。」と誰もが疑い始めた。英国の主要銀行がこのスキャンダルに関与している事実を見れば、ただでも品行方正とは言えないドイツ銀行が、「うちはそんな操作には関与したくない。」と殊勝な決断をするわけがない。案の定、ドイツ銀行の関与が明らかになると、争点はドイツ銀行の頭取のジェイン氏に向けられた。当時、ロンドンのドイツ銀行の投資部門の長であった氏が、この一件に関与していたんじゃないかと噂されると、ドイツ銀行は消火作業にやっきになった。一介の銀行員なら、「一行員のミスであり、銀行の責任ではない。」と言い訳ができるが、頭取が関与していたらもう言い訳ができないからだ。

手始めにドイツ銀行はこのスキャンダルに関与していたとして行員を5人首にして、「悪いのはこの5人です。」と主張した。その信憑性はともかく、同銀行のドイツの政界へのコンタクトを考えれば、氏が下主人として挙げられる可能性は低い。おそらく"Finanzaufsicht"、通称 "Bafin"に罰金を払うことにより、免罪符を買うことになるだろう。同様のスキャンダルで挙げられた英国の銀行が4億5千5百万ユーロもの罰金を課せられたことを考えれば、かなり高い免罪符になりそうだ。さらに公定歩合の操作で損をした保険会社などからの損害賠償請求は避けられず、ドイツ銀行の将来は暗い。

と思っていたら、2012年12月12日(覚えやすい日付だ)、税務署と警察の合同チームからなる500人もの捜査員がフランクフルトにあるドイツ銀行の本社を立入調査、大量の証拠書類を押収した。今度は脱税容疑である。欧州では二酸化炭素を大量に放出する産業は、「大気を汚染する権利」、つまりこれも一種の免罪符だが、を買う事が義務付けされた。この免罪符、"CO2-Emissionszertifikaten"(二酸化炭素証券)と言うが、ドイツ政府は日頃の政治献金の見返りに、鉄鋼業者、電力会社にこの証券を無料配布した。こうしてドイツの大企業は必要以上の証券を保有する事になり、これを販売してお金儲けをする事が可能になった。その販売で一肌脱いでいたのがドイツ銀行である。ドイツ銀行は同銀行のネットワークを利用して、この証券を外国で売却したが、「売上税はドイツで払っています。」と申告、海外支店で売上税を節約した。そこまでは合法であるが、肝心の本国、ドイツで売上税を払っていなかったのである。これは立派な脱税である。こうしてドイツの税務署がドイツ銀行の本社を強襲する事となった。

「世界に冠たるドイツ銀行に対して、強制立ち入りとはなんたる無作法か!」とドイツ銀行のもう一人の頭取、Fitschen氏は、税務署の傲慢な捜査に対して怒り猛った。秘書に命令してヘッセン州知事に電話をかけさせ、州知事が電話に出ると、「ドイツ銀行に立ち入り捜査とは何事か!」と、くってかかった。州知事のBouffier氏は、「それは検察の決断であって、私の知った事じゃない。」と泣く子も黙るドイツ銀行頭取の苦情にとりあわなかった。この一件は何処からか(多分、州知事の事務所から)漏れると、今度は頭取のフィッチェン氏に対して、「なんたる傲慢な態度だ。」と市民、マスコミの非難が集中した。風向きがすっかり変わって逆風になった事を悟った氏は、「ごめんなさい。」と謝ったが、すでにドイツ銀行の名声は地に落ちた後だった。

キルヒ裁判により必要になる賠償金、利率の賭け投資("Zins-Wetten")による原告への賠償金支払い、公定歩合操作による罰金、そして今回の脱税でドイツ銀行は今後、高額の現金の蓄えが必要になる。ドイツ銀行が2012年度の営業目標を下方修正すると、株価は10%も急降下した。かっては120ユーロもしたドイツ銀行の株価はリーマンショックで16ユーロまで暴落、以後、33ユーロと38ユーロの間を往復している。2013年2月にドイツ銀行が2012年の10月~12月の四半期の結果を出したが、なんと22億ユーロの大赤字。アナリストの予想を軽く10倍は超える赤字を出した。その大部分、正確には18億ユーロは、今後必要になる賠償金支払いへの"Ruecklage"(備え)であった。

地に落ちたドイツ銀行の名声だが、まだこれが終わりではない。最初の強制立ち入り捜査から4日目、検察は2度目の立ち入り捜査をドイツ銀行に対して実施した。今度はキルヒ裁判での虚偽の証言容疑である。先回の失敗から学んだ頭取は、今回は州知事に電話をすることなく、腹立たしい強制捜査をじっと我慢した。波風が収まった頃を見計らってドイツ銀行は翌週記者会見を開き、ドイツ銀行内での"Kulturwandel"(社風の是正)を約束した。これまで散々悪事を働いてきた"Skandalbank"(悪徳銀行)が、鶴の一声で社会の見本となる銀行に変身するという。悲しいかな、ドイツ国内でこの話を信じる人は少なかったが、どうも日本では違うらしい。日本の金融安定理事会、"FSB"は「ドイツ銀行は世界で一番大切な銀行。」と褒め捲くっている。日本人が欧州の事情に疎いいい証拠である。


警察とドイツ銀行。よく似合う?
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