泣いて馬謖を切る。 (24.02.2013)

ちょうど2年前に国防大臣が辞任した。原因は氏が書いたドクトルの卒業論文。Zu Guttenberg氏は、「間違いはあるが、故意に行ったものではない。」と最後まで潔白を主張したが、卒業論文の大部分、なんと90%を越える部分が他人の著作からの盗作(注釈なき引用)であった事がばれると、氏にドクターの称号を与えたバンベルク大学はドクターの称号を取り上げた。同大学は、「卒業者からのメッセージ」として、国防大臣のお言葉を同大学のホームページにビデヲで公開、宣伝していたため、赤っ恥をかく事となった。とりわけ、氏の卒論を受理してドクターのタイトルを与えた教授には非難が集中した。1箇所や2箇所の間違いは、どんな論文にでもある事である。しかし90%が他の著作からのコピーであった事実に、何故この教授は気がつかなかったのか。

よりによって氏の卒業論文に対して「これはおかしい。」と最初の疑いを投げかけたのは、大学ではなく週刊誌だった。この事実が、大学の卒業論文の審査機能が貧弱であった事を証明した。これがきっかけになり、「他の政治家も同じようなものじゃないのか。」と政治家のドクターの卒業論文に対して、一気に注目が集まった。まず最初に槍玉にあがったのが、(前)バイエルン州の州知事の娘であるDr.Veronica Sass女史である。女史が書いた卒論は他の著作からのコピーであると指摘があがると、コンスタンツ大学は卒論の調査を開始した。審議の結果、女子の著作の1/3が他の著作からの注釈なしの引用であるとして、ドクターのタイトの剥奪を決定した。政治家の娘らしく、女史はこの決定を不服としてフライブルクの裁判所に「私のドクターのタイトルを返して!」と訴えた。その理由は、「私の卒論をちゃんとチェックしなかった大学の責任であり、私の責任じゃない。」といういかにもドイツ人(女性)特有の論理であった。残念ながら裁判所はこの不服を認めず、女子は裁判に負けてしまい、タイトルは戻ってこなかった。

この成功に勇気付けられて、オンライン上で「偽物探し」が一気に盛り上がった。次に目標になったのはFDPの欧州議員であるKoch-Mehrin女史である。女史が2010年にハイデルベルク大学で書いた卒論に対して、「大部分は他の著作からの引用である。」と指摘があり、大学の審議委員会が調査を始めた。数ヶ月の調査後、委員会は「卒論中、80ページ、合計120箇所に他の著作からの注釈なき引用があった。」として、女史のタイトル剥奪を宣言した。ドイツ人(女性)がこの侮辱を黙って受け入れるはずがなく、カールスルーエの裁判所に「私のドクターのタイトルを返して!」訴えた。この一件はまだ裁判中で結果が出ていないが、EU議員の女史が欧州議会内での会議に一回も出席しないで、お給料だけもらっていたことがテレビで報道されると、ただでも良くなかった女史の立場は急速に悪化した。

元来欠席の多い議員だったが、よほど赤面したのか、このスキャンダルの発覚から女史は公の席上に一切、出席しなくなった。当然、公務も放ったらかし。「役職から辞任すべきだ。」と野党ではなく党内からの非難が高まり、これぞ立派な四面楚歌。女史は圧力に負けてすべての公の職務から辞任した。この度重なる成功でオンラインの「偽物探し」にはアクセスが集中、片っ端から政治家の卒論チェックが始まった。これが大当たり。CDUの国会議員Proefrock氏がテユービンゲン大学で書いた卒論もコピーばかりで、大学はドクターのタイトルを剥奪した。氏は裁判所に、「私のドクターのタイトルを返して!」訴えるほどの厚かましさはもっていなかったが、「国会議員は辞任しない。」というだけの厚かましさはもっていた。その他にもFDPの欧州議員、Chatzimarkakis氏(ギリシャ系の名前)はコピーがばれてドクターのタイトルを失いFDPのコンサルテイングをしているMathiopoulos女史(これまたギリシャ系)もボン大学からドクターの称号を剥奪された(そしてこれを不服として訴えた。)

運命を共有した政治家はあまりに多かった。数が多いので、地方議会の議員がドクターのタイトルを失っても、もう全国紙では報道されない程、世論はこのテーマに対して食傷気味であった。ところがここで、「CDU議員のSchvan女史の卒論もコピーである。」という指摘が上がった。女史は"Bundesministerium fuer Bildung und Forschung"、日本で言えば文部省の大臣であり、メルケル首相と一番仲の良い政治家である。デユッセルドルフ大学でドクターのタイトルを取ったが、メルケル首相と同様に、地方政治家としてはあまり成功しなかった。そこで首相が、「鶴の一声」で女史を地方議会から中央政府に呼び寄せ、ドクターのタイトルにふさわしいい文部大臣の椅子に座らせた。以後、この二人は「水魚の交わり」で、首相は好んでシャバン女史を公の場に連れていくばかりか、首相が助言を乞うまでにその交友関係は深いものであった。

この二人の仲の良さを示す面白いエピソードがある。2011年、メルケル首相とシャバン文部大臣は、仲良くハノーファーで開かれているコンピューターメッセを訪れていた。その席上、首相の携帯電話にSMSが届いた。そのSMSは国防大臣からの辞任を伝えるものであったが、これを読んだ首相は微笑みながら横に立っているシャバン女史に携帯電話を差し出した。シャバン女史は首相の携帯電話を受け取ると、SMSを何度も繰り返してじっくりと読んだ。神聖なる学問で盗作を行った国防大臣への反感は強く、女史の顔には明きからに満足感が伺われた。首相はこの辺の事情(大臣同士の確執)をよく知っていたようだ。そうでなければ、どうして首相が国防大臣からの辞任のメッセージを微笑みながら女史に携帯を渡すようなことをしただろう。

ところが今度はよりによって、無二の親友の卒論が標的になった。シャバン大臣は、「ミスはあったかもしれないが、故意に他の著作からの盗用をした覚えはない。」と反論した。この発言は、すでにドクターのタイトルを剥奪された政治家が何度も繰り返していなければ説得力があったかもしれない。デユッセルドルフ大学は、「査問委員会を開くに十分な証拠が挙がった。」として、文部大臣のタイトル剥奪の是非を巡って、大学内で審査を始めた。これには数ヶ月かかったが、2月5日デユッセルドル大学は記者会見を開き、「女史は卒論にて意図的に他の著作から文章をコピーした。」としてドクターのタイトルの剥奪を宣言した。記者団は女史にコメントを取りたかったが、間の悪い事に文部大臣は(多分これが最後の)公務で南アフリカ出張中。大手の報道機関は出張機関があるので、支店の記者を即座に大臣の訪問先に派遣、大臣が現地の職業学校の訪問を終えて出てくると、そこにはマイクとカメラを抱えた記者団が待機していた。大臣は殊勝にも逃げ隠れせず、「この決定は受け入れられないので、提訴する*。係争中の件にはこれ以上、コメントできない。」とコメントを出した。

この一件は、これまでの一連の政治家のドクタータイトルの剥奪とは違っていた。例えば、国防大臣の件。現実的に見れば、国防大臣がドクターだろうが、Bachelorだろうが、大袈裟に言えば高卒だろうが、どうでもいい。国防大臣の任務は、学問ではなく、国防である。ところがシャバン女史の場合、文部大臣である。国防大臣が本来は職務と関係ないドクターのタイトルの剥奪で辞任したことを考えれば、文部大臣がドクターのタイトルを剥奪されて、大臣の椅子に留まるにはかなりの説得力が必要だ。又、メルケル首相はどう判断するのか。国防大臣はいつも首相の判断に口をはさむCSUの出身で、首相の同情はとりわけ大きくはなかった。ところが今回は首相が助言を乞うほどの無二の親友である。メルケル首相には親友の首を切るのだろうか。
          
首相は政府のスポークスマンを通して、「首相は文部大臣の仕事に満足しており、女史を信頼している。」と意思を表明した。一見すると首相は女史を支えているように見えるかもしれないが、この声明は全く逆の意味であった。(前)国防大臣、(前)大統領、(前)環境大臣、どのケースでも、首相は全く同じコメントを出しており、これにより首相は文部大臣に短刀を手渡した。この声明の本当意味は、「面子は守ってやるから、潔く逝け。」というものである。首相の無二の親友であり、首相の巧みな方法を間近に見ていた文部大臣には、この声明の意味がすぐに伝わった。文部大臣は公務から機関すると、直ちに首相と会談した。翌日、首相が「政府の発表を行う。」と発表した際、大臣の命運が尽きたことは誰の目にも明らかだった。
          
2月9日、シャバン文部大臣は、「今後の法廷闘争により、文部省の威厳に傷をつけたくない。」と辞任の理由を述べた。お陰で首相は、「残念ながら辞意を受けた。」と言うことができた。残念な割にはすでに後継者まですでに用意されており、首相が準備周到に計画していたことは明らかだった。ちなみに後継者は、先の地方選挙で負けて「職なし」となってしまったニーダーザクセン州の文部省の数学博士、ドクター ヴァンカ女史である。大学の職員らしく終始不機嫌な顔つきをしており、唯一、文部大臣任命の際にちょっぴり笑顔を見せた。大臣の仕事は愛想を振りまくことでなく、官僚の管理であるから、適材適所かもしれない。
          
*
ドクターのタイトルに憧れて、その才能も資質もないのに盗作でドクターのタイトルを取るのは、男性も女性も同じである。ただし、大学の決定を不服としていつも裁判所に訴えるのは、ドイツ人女性である。


国防大臣の辞任のメッセージを見て喜ぶも,
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2年後は自ら辞任する羽目に。
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