泣くな キプロス。 (31.03.2013)

先回ここで取り上げたキプロスへの財政援助が、思わぬ展開を見せた。2週間前までは、「キプロスはあまりに小さくて、例え倒産してもユーロ(圏)への影響は知れている。」と、俗に言う経済専門家は口を揃えて主張していた。ところが蓋を開けてみると、思ってもいない衝撃をユーロ圏に及ぼした。ドイツのザールランドほどの小さな島国の運命が、どうしてこのような衝撃を及ぼす事になったのだろう。

3月17日、欧州加盟国の大蔵大臣とIWF、それに下手人のキプロスの大蔵大臣が集まって、キプロスへの財政援助について討議した。キプロス政府の言葉によると支払い不能を回避するには、158億ユーロ必要だという。今回の財政援助がギリシャ、ポルトガル、それにアイルランドなどに行われた財政援助と大きく異なる点は、トロイカ(欧州議会とIWF)が「キプロス政府は一部(56億ユーロ)自己負担せよ。」と要求している点にあった。これまではその数倍の額の財政援助を行っておきながら、一切、自己負担を求めることがなかったので、全く異例の支援形態だった。勿論、これには理由があった。

キプロス政府は、「これまでの行動は大目に見るから、脱税天国に頼った経済モデルを改善しないさい。」というEUの警告を無視してきた。世界的な大不況で欧米欧諸国は利率を0~1%に抑えているのに、キプロスの政府は「今儲けなきゃ、いつ儲ける?」とばかりに高利率を維持、キプロス島の銀行は8%~10%もの利回りを提供して、低い法人税率も手伝って、まるで街灯に群がる蛾のように企業や投資家を呼び寄せる事に成功した。この利率を実現されるため、キプロス島の銀行は好んで危険な投資に手を出し、大火傷を負った。この有様になってから、「お金が必要なので、貸してちゃぶだい。」と都合よくEUに財政支援を要求した。それだけではない。「財政援助の引き換えに、脱税天国を改善せよ。」というEUの唯一の条件にも、「クレジットは受けるが、内政干渉を受ける気はありません。」と申し出を断った。

これに加えて、このちっぽけな島が倒産してもユーロ圏への影響は、「計算できる。」として、EU諸国は財政援助に消極的であった。こうしたさまざまな要因があって、「キプロス政府への財政援助は行う用意があるが、一部は自己負担してもらう。」となった。問題は、どこからこの自己負担金を持ってくるかにあった。借金で首が回らない人に、「100万貸してあげてもいいが、それには30万は自分で用意しなさい。」と言っても、出せるもではない。金がないから、援助を申請しているのだ。そこでキプロス政府はキプロスの銀行口座から預金者のお金を没収、これを自己負担にあてる事にした。具体的に言えば、10万ユーロ未満の預金は一律6.75%、10万ユーロを超える預金からは9.9%の義捐金を強制徴収するのである。この案を聞かされたトロイカは、「どうやって、あるいはどこから自己負担金を持ってくるか、それはキプロス政府の決めることである。」としてこの案を承諾、こうしたキプロス救済案はトロイカの承認を受けた。

この話をニュースで聞き知ったキプロスの住民は怒った。何故、銀行と政府の失敗に、自分の貯金から義捐金を支払うのか。国が勝手に預金者の口座からお金を没収できるようでは、民主主義ではなく絶対主義である。一生働いてやっと年金を貯めた年金生活者、やっとお金を貯めて家を買った人、その努力が一夜にして無駄になる。こうしてキプロスでは連日反対デモが発生、収拾がつかない恐れが出てきた。これを見た政治家、それも与党の政治家が、「この救済案には反対する。」と言い出した。政府は国会での採決を24時間先送りにして、謀反者の説得を図ったがこれに失敗、救済案は国会で否決されてしまった。大体、欧州では5年前の経済通貨危機から学んで、「10万ユーロまでは政府が保証します。」と声明を出して、"Einlagesicherungsfonds"という機関を作り、万が一の場合はここで預金者の預金を守る筈だった。ところが今回、この機関の出番が来ると、「今回は使えません。」というのだから、お粗末な話だ。

これが「樽を溢れさす一滴」となった。世界中で「欧州の銀行に貯金しておくと、銀行救済の義捐金を預金からお金を引かれてしまう。」と、ユーロ圏に投資されていたお金が流出を始めた。ユーロは日に日にその価値をなくして、2011年、2012年に引き続き、2013年もユーロ危機が戻ってきた。悲しい事に、キプロス政府はこの時点でも事態を把握していなかった。「EUが金を貸してくれなくても、俺達には膨大なガス資源がある。」というのだ。キプロス政府の大臣は(エコノミークラスで)急遽、ロシアに飛んで首相と会談、キプロス領域にあるガス田の採掘権と引き換えに、財政援助を請う。財政援助がなければキプロスは倒産して、多くのロシア人の大富豪が金をなくす事を想定しての要請であった。ところがキプロス政府の信じられない事に、ロシア人は「ニエット。」と財政援助を断った。ガスプロム(半国営のガス会社)はモノポールを維持するため、世界中でガスを買い付けている。お陰でガスの値段は高値安定してきたが、この高い値段に誘発されてあちこちで新しいガス田の開発され、値段が崩れてきたのだ。この時点でキプロスのガス田の採掘権なんぞ買ってしまうと、さらにガスの値段を下げて自分の首を絞める事になる。これが理由で、ロシア人はキプロス政府の話に全く興味を見せなかった。

キプロス政府の最後の切り札であったガス田が「宝の持ち腐れ」ある事がわかって、ようやく政府にも事態の重大さがわかってきた。ここで1年近くキプロスの銀行にお金を貸してきた欧州中央銀行が、堪忍袋の緒を切らせ、「キプロスの銀行への貸付は3月25日(月曜日)に終了する。」と最後通牒を突きつけた。つまり週末、3月24日に同意に達しなければ、25日、あるいは遅くても26日にはキプロス島の銀行は倒産して、政府は数日で支払い不能に陥る。やっと事態が飲み込みかけてきたキプロス政府は大蔵大臣はおろか、大統領までブリュッセルに派遣して、なんとか同意に達しようとした。しかしキプロス政府はこの時点でも現実を見ていなかった。政府が出した代案は、これまでの経済モデル(脱税)に執着しており、10万ユーロを超える預金者への保護を優先していた。トロイカは「これでは1週間前のプランと変わらない。」と指摘、キプロスの運命は風前の灯と貸した。何故、キプロス政府はこの時点でも現実を見ることができなかったのか。

キプロス政府は数週間前のECB総裁の発言、「キプロスの破産は、全ユーロ圏へ大きな波紋を及ぼす。」を忘れておらず、倒産で脅せば財政援助は容易に受けられると思っていた。欧州政府がもっと悲惨なギリシャに何度も財政援助を行ってきた事実を目撃しており、トロイカがキプロス倒産の危険性を受け入れるとは考えられなかったのだ。さらに首相自身がロシアの大富豪にキプロスでの事業を「お手伝い」する会社を運営しており、みすみす会社の客をなくすような政策には消極的だった。ところが今回は事情が異なっていた。ECBはトロイカとの同意がなければ、銀行への貸付を月曜日に終えると言う。この前までとは態度がまるっきり異なっている。そしてトロイカは、「そんな代案じゃ、お話にならない。」と交渉にも乗ってこなかった。キプロス政府が脱税天国経済モデルを放棄しなければ、トロイカがキプロスを倒産させる覚悟である事を、キプロス政府はようやく理解した。つまる所、キプロス政府は、倒産してもこれまでの脱税天国経済モデルに執着するか、それともトロイカの圧力に屈して脱税モデルを放棄するかの二者選択を余儀なくされた。こうして交渉が長引き、結論が出る頃には24時を回って、3月25日(月曜日)になっていた。
          
最後の土壇場でトロイカと、キプロス政府はそれでも合意に達した。後日、キプロスの外務大臣が語ったところでは、キプロスはユーロ圏からの離脱も検討していたというから、本当に土壇場の同意だった。この同意案によると10万ユーロのまでの預金保有者は義捐金から解放される事になる。その代わりに10万ユーロを超える預金からは、30%~40%もの額面を義捐金が差し引かれるという。一度これをやってしまえば、二度と(少なくともこの先10年は)鴨(投資家)は帰って来ないので、同時にこれは脱税天国の終焉を意味する。又、不幸をもたらした銀行業界も大掃除される。キプロス第二の規模を誇るLaiki Bankは解体されて、まだ使える部分はBank of Cyprusに吸収され、使えない部分はBad Bankとして処理されていく。両銀行に口座を持っていたお金持ちは、紙屑に近い銀行の証券が発行されるが、実質上、40%程度の損害を蒙ることになる。他の銀行の預金者も30%の損害を覚悟しなければならない。
          
これでやっとキプロス危機が終焉に向かうと思っていたら、甘かった。欧州財務大臣会の座長であるオランダ人のDijsselbloem氏が、「今後の危機では、今回の処置がモデルになる。」と口走ってしまった。つまり、今後、何処かの銀行が運営に行き詰ると、預金者がその尻拭いをするというのである。この発言は、「ユーロ圏へ投資をするとお金を失いますよ。」と言っているようなもので、反応はすぐにやってきた。この発言が報道されると、直ちに投資家は投資していた金を引き上げ始めた。こうしてやっと合意こぎつけたキプロス救済が、元の木阿弥とななり、ユーロ危機が悪化した。同氏は、「そんな意味ではなかった。」と被害の制限に必死だったが、すでに種は蒔かれた後だった。投資家はスペイン、イタリアでキプロスの現状を見た預金者が銀行に殺到、義捐金を没収されてしまう前に口座を空っぽにする事を恐れ、欧州の銀行株は軒並み暴落した。こんな事ならキプロスを倒産させたほうが害が少なかったろう。

皆まで言えば、次はスロベニアが危ないという。欧州経済の悪化次第では、今年中に財政支援を要請する事にもなりかねない。このユーロ信用危機は一体、いつまで続くのだろうか。ユーロ危機の発生から3年。政治家が過去の出来事から教訓を学ばない限り、ユーロ危機が終焉することはなさそうだ。


政治家の決定に、
kipurosu (1)


怒る人
kipurosu (2)


泣く人
kipurosu (1)


途方に暮れる人
kipurosu (3)


         
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