ドイツ病 (30.04.2013)

キエフを陥落させたドイツ軍は1941年10月、モスクワに向けて進撃を始めた。スターリンはこれに大いに驚いた。10月と言えば、ロシアの冬が始まる時期である。最初の積雪で舗装されてない道は泥沼と化し、車両の多くがこれにはまって動けなくなる。これが一段落すると今度は有名な冬将軍が到来、機動作戦は事実上不可能で、攻撃は自然消滅する。その時期に、これまであっとおろどく戦術で数、装備で優位を誇る圧倒的ソビエト軍を次々と撃破した賢いドイツ軍が、この時期に進撃を再開するとは思ってもいなかったのだ。結果としてキエフとモスクワの広大な空間にはキエフの包囲を逃れた敗残兵と、地方の守備兵しか残っておらず、ドイツ軍の快進撃を止めるに必要は兵力は残っていなかった。

こうしてモスクワ進撃は快調に進んだ。気がかりなのは天候だけだった。ドイツ軍司令部は本格的な冬が始まるまでに2ヶ月程度の作戦期間があると見込んでいた。ところが10月後半には最初の雪が降り始め、道路は泥沼に変わった。ドイツ軍は戦闘行為をほとんどしていないのに、突然、何千という車両を失った挙句に進撃が遅れた。そしてロシアの冬がやってきた。一度エンジンを切った戦車は、車体の下で油を3~4時間燃やさないと、エンジンがスタートしなかった。さらにロシアの冬対策ができない電気、燃料系統が凍った。車両は役立たずになり、戦車もガソリンがもつ限りしか稼動しなかった。ガソリンを補給しようにも、これ運ぶトラックが故障しており、燃料のなくなった戦車は放棄するしかなかった。こうしてドイツ軍のモスクワ攻勢はモスクワ全面で文字通り凍りついてしまった。これまでの成功ですっかりいい気になったドイツ参謀本部が、己の能力を過信したのが原因であった。

あれから70年以上も経ったが、ドイツ人の思考過程には変化がない。すでにここで紹介した通り、夏になるとクーラーが機能ダウン、車両はサウナと化す。冬になると、そう、ドイツの冬の装備ができておらず、電気系統が凍ってしまい機能しなくなるのだ。世界の最先端を行く工業国でありながら、気温に関係なく運行可能な電車が製造できないとう有様である。もっとも電車の問題をドイツ企業すべての転嫁するわけにはいかないだろう。春と秋にしか機能しない電車を製造しているのは、ドイツを代表するテクノロジー総合企業、ジーメンス社である。「どうして夏と冬になると機能しないのですか。」と問われると、「我が社の電車は世界一の完成度を誇る車両です。」と方向違いの回答をする。「では、その世界一完成度の高い電車が、何故、冬になると機能しなくなるのですか。」と聞けば、「電車を注文するドイツ鉄道の製造依頼通りに作っている。冬、夏に機能しなくなるのは、電車が悪いのではなく、その依頼書に特殊な環境下で機能するように書かれていないのが原因である。」と責任転嫁をする事に余念がない。

2007年、ジーメンスは「世界最速」の電車Vario,Baureihe 407を完成させた。最高速度は403.7km/h、巡航速度は350Km/hで2010年までは世界最速だったという。2010年にはDモデルを開発、それこそ世界最新鋭の電車であるとジーメンスはその能力を大いに吹聴した。2010年8月、ちょうど電車のクーラーが機能ダウンして乗客がサウナのような車内で気絶した事件で面目を失ったドイツ鉄道は、この電車を16両注文した。ジーメンスは注文総額5.3億ユーロの大型注文に大いに満足、会社のホームページでも「信頼性の高いこの車両は、ドイツ鉄道から16両の注文を受けた。」と宣伝した。ところが、ドイツ軍のモスクワ侵攻を阻んだドイツ病(自身の能力を過大評価するばかりに必要な措置を怠る。)は、未だに治っていなかった。

この電車は2011年にドイツ鉄道の納入される予定だった。「これで冬になっても、電車が欠航しないで済む。」とドイツ鉄道は大いに新車両に期待、これにあわせて冬のスケジュールを組んだ。ところが2011年11月になって、「今年中の納入はできそうにない。」とジーメンスが言い出した。がっかりしたドイツ鉄道が、「それじゃいつまでに納入できるんですか。」と聞けば、「春までには。」という。仕方なくドイツ鉄道は運行プランを改定、電車の欠航に備える羽目になった。2012年1月、新車両の導入を間近に控えたドイツ鉄道は、「これで夏になっても、電車が欠航しないで済む。」とドイツ鉄道は大いに新車両に期待、これにあわせて夏のスケジュールを組んだ。ところが2012年1月末になって、「春の納入はできそうにない。」とジーメンスが言い出した。がっかりしたドイツ鉄道が、「それじゃいつまでに納入できるんですか。」と聞けば、「冬までには。」という。仕方なくドイツ鉄道は運行プランを改定、電車の欠航に備える羽目になった。2012年の夏も終わりかけた頃、「冬前の納入はできそうにない。」とジーメンスが言い出した。がっかりしたドイツ鉄道が、「それじゃいつまでに納入できるんですか。」と聞けば、「春までには。」という。仕方なくドイツ鉄道は運行プランを改定、電車の欠航に備える羽目になった。

こうして2011年に納入が約束された車両が1両も納入されないで2013年の春になったが、ジーメンスは最後の約束も守ることができなかった。それだけではない。いつ車両が納入できるのか、その時期も言明できないという有様である。一体、何が原因なのか。メデイアが関係筋から聞きだした情報では、「電車のソフトウエアに欠陥があり、電車が正しく機能しない。」との事。そのソフトの問題で致命的なのは、ブレーキ。巡航速度300km/hの電車が制動を行うと、ミリセカンドでシステムは反応しなくてはならない。日本の新幹線がどのくらいで反応しているのか興味があるが、ジーメンスの「最新鋭」の電車は、制動の指令がブレーキに伝わるのに1秒かかるという。ドイツ国内で予定されている巡航速度250km/hでは、ブレーキが作動を開始するまでに、電車は70mも移動する。これが原因でこの電車は交通省から運行許可が下りていない。

予定の納入からほぼ2年も遅れて、未だに電車の納入ができない醜態の原因を問われたジーメンスは、「客が注文してから依頼書を変更するから。」と責任転嫁に余念がない。しかしこれは不味かった。ジーメンスから1年半もの長きに渡って煮え湯を飲まされているドイツ鉄道は、この報道に怒った。5億ユーロを超える大きな注文を出して感謝されるどころか、電車が納入されないのは、まるですべてドイツ鉄道の変更が原因のような言い方をされているのだから、それは無理もない。ドイツ鉄道はこの遅延の賠償として、完璧なICE車両を1両無料で付ける事を要求、ジーメンスは渋々これを飲んだ。こうしてドイツ鉄道はは同じ予算で、一両多く電車が入手できる事となった。

現実的に見て、この夏までに新型電車が納入される可能性は少ない。早くてもこの冬になるだろう。すなわち真夏で気温が32度を超えると、電車のクーラーは機能ダウンする。これまではクーラーが効かなくても、乗客が気絶するまで特攻運行していたが、メデイアに報道されてそんな無茶ができなくなった、その代わりに、電車を欠航される事にした。暑い時期に電車での移動をご予定の方、帰国前の空港への移動は一本は早めの電車の接続を取る事をお勧めします。
 

電気系統の「不具合」で納期をじっと待つICE。
476.jpg


スポンサーサイト

COMMENT 0