試作機 (09.06.2013)

2003年にドイツ空軍に導入されたオイロファイター。製造元のEADSは「2025年までには世界の(迎撃)戦闘機市場の半数は、オイロファイターで占められる。」と豪語した。ところが売れ行きはあまり芳しくなった。EADSはパキスタンとの軍事紛争に備えたい軍事大国インドに、126機ものオイロファイターを売り込もうとした。ところが自社のデモ機を派遣する代わりに(金がかかる。)、ドイツ空軍に国費(税金)でインドにオイロファイターを飛ばしてもらい(金がかからない。)、インド空軍へ熱心に売り込んだ。ところがよりよって製造元のEADSの株主であるフランスが、自国生産の戦闘機を売り込み、EADSの鼻先から注文を奪ってしまった。さらにはフランスは、自国の空軍にはオイロファイターを一機も採用しなかった。まるでトヨタの社員が揃って日産の車を買うようなもので、フランス政府はドイツで開発されたこの戦闘機を全く「買って」いなかった。一向に伸びない売れ行きに歯がゆいEADSは、ドイツ政府に嘆願した。これを二つ返事で了解したドイツ政府は、オーストリア政府へ強烈な売り込みを開始、売却に成功したが、販売促進の賄賂がばれて、日本のロッキード事件並みの大スキャンダルになっている。

オイロファイターの欠点は、80年代の冷戦時代に必要とされた能力を元に飛行機が設計されている点に集約される。飛行機が完成する頃にはとっくに冷戦は終了、ステルス機能など別の戦術的要素が必要となったが、そのような機能は想定されておらず、完成した時点で時代遅れの長物と化した。第二次大戦型の正面戦争はすでに戦争形態として表舞台から姿を消して、ゲリラ戦争が主流になっている今、必要なのは空からの偵察である。その中でもパイロットを必要としない"Drone"(無人機)は、最もありがたい。ところがドイツ軍が投入されているアフガニスタンなどの戦場では、ドイツ空軍はロシア軍の戦闘機を迎撃できる戦闘機は持っているが、投入できる無人偵察機を一機も要していなかった。そこでイスラエルから無人偵察機をレンタルして利用しているという情けない実情がある。

こうした背景があってドイツ軍が注文したのが米国製の"Global Hawk"である。これにEADSがドイツ上空を飛ぶに必要な改良を施して、"Euro Hawk"と改名、ドイツ空軍に導入される筈だった。ところがこの5月になって国防大臣が、「オイロフォークの導入は断念する事に決定した。」と声明を出して、大きな波紋を巻き起こした。断念の理由は、以前の記事でも述べた通り、ドイツ(欧州)上空を飛ぶ離陸許可が下りなかったのである。ドイツ上空を飛ぶ飛行機には、飛行同士の衝突を防ぐ自動回避装置を搭載していなければならない。そこでEADSがこの装置をオイロフォークに搭載する筈だったのだが、蓋を開けてみると、「できません。」というお粗末な結果になったのである。

国防省がこの新装備に5億ユーロを超える大金を注ぎ込んでいなければ、笑い話で済んだだろうが、額面が額面だけに笑って済まされなかった。国防省は、「うまくいくかどうかわかないから試作機を買って、試しただけの事。新兵器の導入では起こりえる事である。」とその失敗に誇っているうような声明を出したが、これはまずかった。ドイツには政府の調達を監査する機関、"Bundesrechnunghof"がある。政府が大きなプロジェクトを開始する際はここに書類を提出、プロジェクトに必要なコストが正しく計算されているかどうか、そしてもっと大事な事に、それだけの投資をするだけの価値/意味があるかどうか、審査を受ける必要がある。事業後でもその発注内容を提出、ちゃんと法律で決まっているように一般公募で受注が決まったのか、汚職がなっかったかどうか、国、及び地方自治体のプロジェクトを監査する機関である。

ひとつ例を挙げてみよう。今、デユッセルドルフ市内で行われている大工事、市内中心部で地表を走っている地下鉄を地下に移動させて、交通の流動化を図る意図があるのだが、この8年を超える大工事の結果、節約される時間は10分程度と見られている。その10分に費やされる総工事費用7億8千ユーロである。デユッセルドルフは人口57万人。日本で言えば岡山市程度の中都市。あまり意味の有る工事とは言えない。"Bundesrechnunghof"もこの点を指摘したが、この監査機関には拘束能力がない。あくまでの公のプロジェクトに意味があるかどうか、これを試算してアドバイスをするのがその役目である。

今回の無人偵察機の導入においても、"Bundesrechnunghof"は国防省ににデータの提出を求めた。ところが届いた書類にはまるで戦争中の検閲のように、肝心な部分は黒く塗りつぶされていた。「これでは計算できない。」という苦情に対して、「国家機密です。」と国防省は主張、肝心なデータの提出を怠っていた。この事実、国防省が監査機関へ事実を伝えるのを拒否していた事が暴露されると、国防省へ非難が集中した。「事実を伝えると、調達を問題視される。これを隠蔽する為に、黒く塗りつぶした。」と非難されたわけである。事ここに至って国防省は"Bundesrechnunghof"に本当の数字を提出、これを元に監査機関はこの調達計画を新たに検討してみる事になった。6月になって発表された監査報告書では、「国防省調達部は2007年の時点で、離陸許可の問題を知っておきながらこれを無視した。」と国防省の落ち度を厳しく指摘していた。さらには、「国防省は2009年、どんなに遅くても2011年も時点で、このプロジェクトが大きな危険を含んでいることを大臣に通達するべきであった。(が、しなっかた。)」と指摘、国防大臣自身には直接の責任がない事を指摘していた。

この結果は、国防大臣の直接の責任を免除する一方で、「国防大臣は、国防省の役人の言うままになっている。」というありがたくない事実も暴露した。5億ユーロを超える調達で、肝心の国防大臣が一切この調達の進捗状況について内情を知らされておらず、役人が大臣に知らせたい情報のみ、大臣に伝えられている事が明らかになった。10月に総選挙を控えて、このテーマは野党にとっては、「棚から牡丹餅」である。野党は、「大臣はいつからこの欠陥について知っていたのか。」と明確な回答を要求した。国防大臣は6月5日、国会にて野党からの質疑に答えて、「次官から5月13日になって始めて、この問題について報告を受けた。(だから私は無罪である。」と、大臣自身の目から見た事実関係を明らかにした。

ところがである。国防大臣が5月7日にある新聞社で行った会見にて、「オイロフォーク調達の大きな問題」について語っていた。この事実を報道機関から知らされた野党は、「国防大臣は自分の首を救う為に、日付を誤魔化した。」と非難して辞任を要求した。大臣はこの非難に対して、「調達が不可能である事を知らされたのは5月13日。それ以前は、技術上の問題について知らされていただけで、調達が不可能という話ではなかった。」と回答、一応辻褄の合う解答を披露した。前国防大臣の辞任により、内務大臣としてミスのない仕事をこなし、その功績を認められて国防大臣に昇進したDe Maizière氏だが、今回はこの一件で始めて氏の経歴に黒い汚点が付く事となった。

このスキャンダルにも関わらず、「2016年にはドイツ軍に無人機を導入する。」と国防大臣は声明を出し、この調達プランには変更のない事をはっきりさせた。その可能性は3つ。今回の大失敗の元になった米国製の無人機、ただし今度は無人攻撃機、„Predator“を導入する。あるいは今、ドイツ軍でレンタルして利用経験のあるイスラエル製の無人偵察機、„Heron“を導入する。あるいはドイツ、フランスの軍需産業(EADS)に開発、生産させる。試作機で大金を失ってしまった後だけに、本来ならすでに実戦導入経験のある米国製、あるいはイスラエル製の無人機を買うのが理性的である。果たしてものになるかどうかわからない独自の軍事産業の無人飛行機に賭けるのは危険が大きすぎる。しかし軍需品の調達は数億ユーロの金が動くので、理性ではなく賄賂で決まる。見ているがいい、ドイツ軍はEADS製のまだ試験飛行にも成功していない無人飛行機の調達に決定するだろう。

釈明会見に臨む国防大臣。
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