テロリストを捕まえろ! (20.07.2013)

「同胞が異教徒に惨殺されているのを、指を加えてみているわけにはいかない。」とイスラエル空軍によるガザ地域の空爆に憤慨しているトルコ人。「君はアラブ人じゃないじゃん。」となだめるも、「同じイスラム教徒だ。」とトルコ人。「同胞を支援したい。」と反シオニストで万年失業中の彼は、ネットで「聖戦」、「アルカイダ」、「テロキャンプ」などと禁句のキーワードを検索した。しばらくして遭うと、「警察から呼び出されて事情聴取された。」という。「ドイツ政府はネットを監視しているぞ。」とトルコ人。あまりの馬鹿馬鹿しさに、「私はアラブ人でもイスラム教徒でもないので、監視の対象にならないよ。」と冗談を言ったものだった。ところがどうも冗談でないようだ。

NSAは米国の諜報機関の中でも最も秘密めいた機関と言われている。というのも、何をしているのか全く表に出てこないのだ。よりによってそのNSAで働いていた技術者が、これまでに集めた情報を持って亡命した。Snowden氏が所有している情報は、米国のこれまでの努力(民主主義の盾の裏で密かに行っていた違法行為)を水の泡にさせることができる。身柄の引き渡し協定を結んでいない事も忘れて、米国が香港政府に対して同氏の身柄の召喚を要求したのも理解できる。それほど米国政府は同氏の口を封じるのに必死だった。これまでは中国からのサイバー攻撃、米国企業へのスパイ活動ばかりが報道されていたが、実は米国政府も同様に世界各国の「敵対国家」に対してスパイ活動、それだけで足らないとサイバー攻撃をしかけていたことが暴露されてしまった。同じ事をしている米国政府が、中国政府に文句を言えるものではない。

Snowden氏がロシアに脱出すると、ロシアの諜報機関に貴重な情報を提供することを恐れた米国政府の堪忍袋の緒が切れた。たまたまロシアを訪問していたボリビアの大統領を乗せた飛行機がモスクワを発って帰国の途に着いたが、欧州各国政府は一斉に同氏を乗せた飛行機の上空通過を拒否した。これが原因で大統領を乗せた飛行機はウイーンに13時間の「緊急着陸」を余儀なくされた。米国政府の手先に成り下がったスペイン政府はウイーンの検察と交渉、大統領機の強制捜査を認可させようとした。この試みはウイーンの検察に拒否された上、大統領が愉快な記者会見を開いて、「スノーなんとかという輩は同乗してない。」と声明を出したので、強制調査は不必要になった。

驚くべきは米国の圧力の強さである。これまでは中国政府の人権侵害を声高に非難しているその欧州政府が、米国からの要請でいとも簡単に、第三国の大統領を乗せた飛行機の上空通過を拒否した。よくもそれでも民主主義云々を語れるものだ。ちなみに米国政府の軍門に下って上空通過を拒否したのははスペイン、ポルトガル、フランス、イタリア政府である。この一件は、同時に、米国政府の威力を虚実に示した。米国政府が望めば、証拠など一切なくても、民主主義を標榜する欧州政府がまるで忠犬のように、尻尾を振って自由自在になるのである。言うまでもなく、この横暴な行為は南アメリカで反アメリカ感情に油を注ぎ、ボリビア政府が公式にスノードン氏に亡命を許可する結果なった。

第三国のドイツでは、一連の報道を堪能してきた。英国がG20の首脳会議で参加者の電話、メールを盗み見していたことが発覚したり、フランス政府が市民の電話、メールを監視していたことが暴露されると、「それみたことか。」と隣国のスキャンダルを笑ってきた。というのもドイツには他の国にはない"Bundesdatenschutzgesetz"がある。これはナチス時代のゲシュターポ(秘密警察)、東ドイツのシュタージのように、権力者、あるいは組織が任意に市民の情報を収集、これを利用して市民を監視するのを禁止する法律である。米国政府、あるいはフランス政府が行ってきた市民の監視は、ドイツでは違反行為なのである。「だからドイツでは大丈夫。」という理屈である。

この一件はドイツに取って、「蚊帳の外」の話で収まるかのように見えた。ところがここでスノードン氏は「NSAはドイツを仮想敵国と考えて諜報活動を行っている。」と暴露した。この辺から風向きが変わってきた。メルケル首相は、「戦争はもう終わっている。」と声明を出し、米国の違法行為に最小限度の非難をした。この機会に点数を稼ぎたいドイツの内務大臣はもっとも積極的で、「ドイツは敵国ではない。同盟国である。」と憤慨して、「米国政府の釈明を要求する。」と息巻いて、勇敢にも敵国に単身乗り込んだ。ところがである。出発前までは「やる気満々」の内務大臣だったが、帰国後の声明では、「NSAのお陰でドイツ国内のテロを未然に防ぐ事ができた。」とNSAを弁護、NSAのスポークマンに変身していた。あまりの豹変振りに野党は口を揃えて、「口だけで、米国には全く相手にされなかった。」と非難するほど情けない出張だった。

時を同じくしてテレビの討論番組にてかってのBND(ドイツの諜報局)の職員が、「BNDはその歴史からしてNSAと関係が深く、BNDが市民の監視に全く関与/関知していないとは信じがたい。」とコメントをした。当然、BNDに質問が来る。NSAとの関係を聞かれたBNDは、「ドイツ市民の監視には一切、関与、関知しておりません。」と明確な回答をした。ところがここでスノードン氏が、「BNDとNSAは同じ穴の狢。」と反論、こうして一連のスキャンダルがいよいよドイツにも本格的に到来する事となった 。

野党は「千載一遇のチャンス」とばかりに、」「首相はこの件を何処まで知っていたのだ。」と国会にて質問をした。首相は「具体的なことは何も知らなかった。」と回答した。3ヵ月後に総選挙を控えて、これは果たして正しい戦略だろうか。と言うのも官房長官は同時にBNDの長官でもあり、BNDから直接報告を受けている。もしBNDが違法である市民の監視をしていれば、これはその長官である官房長官に知らされている。ならば首相が右腕である官房長官から何も聞いていないというのはおかしい。案の定、BNDが2001年の米国によるテロ以来(主要テロリストはハンブルク大学に学生登録をしていた。)、NSAがドイツ国民のメールや電話を監視を始めた事、さらにはBNDはNSAに「怪しい」と思われる外国人の監視を頼んでいたことが報道された。それだけではない。NSAの素晴らしい監視能力を見せつけられたBNDは、同じシステムを導入、フランクフルトにBNDのトンネル会社GTSを設置して、独自の監視を行っているという。

これならトルコ人がBNDの監視網に引っかかり、警察に事情聴取されたのもうなずける。hotmail, yahoo, gmail、スカイプ、Facebookなどは米国の企業が提供しているメール、ネットワークシステムである。この口座から送っているメールは間違いなくNSAにチェックされている。「そんな馬鹿な!」とまた疑われている方、トルコ人のように禁句をネットで検索してみよう。ドイツ(欧州、米国)にお住まいなら、数週間後、警察が玄関口に立っているかもしれない。

編集後記
ドイツではNSAは権力乱用の象徴になっており、すこぶる評判が悪い。これは何もドイツだけの現象ではなく、ドイツと共に国連に違法な諜報活動を禁止する決議を国連に出したブラジルでも、NSA、ひいてはアメリカの印象はすこぶる悪化した。どのくらい悪化したかといえば、オイルマネーで潤うブラジル政府は、予定していた米国製の戦闘機F-18の代わりにスウエーデン製の戦闘機、Gripen NGを36機、なんと45億ドルで購入すると発表した。ちなみにSaab社製の戦闘機を装備しているのは、スウエーデン空軍を除けば、ちっぽけなスイス空軍(22機)だけであったことを考えれば、スウエーデン政府にはNSA様様であっただろう。しかるに日本ではこのスキャンダルの真っ只中で、「日本版NSAを立ち上げる。」と首相が明言した。世界中でNSAの違法な諜報活動が問題になっているのに、日本では首相がいささかの懸念もなくそのような発言ができてしまう不思議な国である。

  
「はっきり言わせてもらう。」と啖呵を切って渡米、何も言えずに帰国した内務大臣。
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