安くてス.テ.キ. (31.07.2013)

ドイツで安く買い物をするなら俗に言う、「デイスカウンター」に行く。このデイスカンター、20世紀までは食料品に限られていた。当時、衣服を安く買うなら比較的安価な品揃えのC&Aと、相場が決まっていた。ところが21世紀に突入する頃から衣服関係のデイスカウンターが登場し始めた。するとこれを真似する輩があいつで出現、デイスカウンターの戦国時代に突入した。戦国時代が過ぎ去ってみれば、優れた戦略で客を最も多く獲得したKiKが最大手になり、いい意味でも悪い意味でも衣服系のデイスカウンターの代名詞になっている。ちょうど日本の〇ニクロのようなものだ。

KiKは同業他社が値段競争に明け暮れている中、有名人を宣伝に使用、同社の製品のイメージアップに努めた。これが功を奏した。同じ5ユーロのワンピースでも、有名人が着ていると「あんな風に見えたい。」という人が後を絶たなかった。人気が出ると、同業他社と比較して値段を90セント上乗せしても、有名人効果でKiKのワンピースは売れた。こうして単に安い値段だけを宣伝文句にしていた他社を次第に圧倒、ドイツで一番大きなデイスカウンターに成長した。

デイスカウンターの登場、そしてその存在を可能にしているのは、安価な値段である。消費者は往々にして商品の値段しか見ないが、そのような値段で売るには、当然、従業員のお給料は極端に安い。正社員はマネージャーと店長だけ、残りは人材派遣会社からの派遣か、あるいは"Mini-Job"のパートであり、受給7ユーロという安月給である。デイスカウンターはこうした安月給の労働者が労働組合を組織して会社に対して賃上げ交渉をするのを極端に警戒しており、そのような動き、あるいは疑いがあると従業員を首にする。その方法がいかにもドイツ的。日本では部長などに呼ばれて個室に閉じ込められると、3人がかりで「依願退職」を説得させる。実よりも、「うわべ」を大切ににする日本社会の特徴がよく露呈している。ドイツはもっと汚い。「この従業員がパンを盗んだ。」という濡れ儀を着せて首にする。盗難を理由に首になると、別の就職先を探そうにも、盗難を働いて首になった従業員を雇おうという会社はなく、その人の将来を潰してしまう。

KiKはさらにその上を行った。従業員がいつ病気になって仕事を休んだか、データを密かに集めた。ドイツでは社員であっても 、そのような個人的なデータを集めることは禁止されているので、これは法律違反である。さらには「盗難を防ぐため」という名目で従業員の経済状況を調べると、借金がある従業員に対して予防措置として解雇するという手段も平気で取った。メデイアは一斉に、「Kik(Kick=蹴る。)は貧しい従業員をキックアウト(蹴り出した)した。」と報道、同社の最初のイメージ失墜をもたらした。マスコミに対する対処方法もKiKらしく、「喉もと過ぎれば熱さ忘れる」戦術で一連のスキャンダルを「ノーコメント」で押し切った。

しかしこうしたデイスカウンターの安価な値段で最も苦しんでいるのは、デイスカウンターの依頼で衣服を製造しているトルコ、バングラデッシュ、パキスタンの労働者だ。欧州(日本でも同じ筈)では色の落ちたジーンズが人気なので砂を飛ばして色を落とす。労働者がその際に埃を吸い込んでしまい、数年で肺をやられて廃人になる。消費者が「色が落ちているほうがかっこいい。」という理由のために、生産国では人命が犠牲にされている。もっとひどいのはパキスタンやバングラデッシュの労働環境だ。未成年者が働かされているのは言うまでもなく、その劣悪な労働環境は日本の戦前の状況と変わらない。消火器はおろか、避難用の出口もない建物で缶詰にされて働いており、火災が発生すると大惨事になる。去年、パキスタンの工場で火災があり250人の労働者が焼死した。焼け残りの工場からKiKの服が見つかると、すでに傷がついていたKiKのイメージは地に落ちた。

公平を期すならば、パキスタンの工場で衣服を生産していたのはKikだけではない。上述の惨事が起きた工場ではC&A, Carrefour それに Walmartなどに納入される衣服も製造されていた。この事件後、ドイツ国内では一種のボイコット運動が起こり、デイスカウンターの売り上げが減少した。幾ら安くても、死人が縫った衣服を買いたくはないから、もっともなことだろう。これを見たデイスカウンターは、「現地生産の工場は今後、厳密な安全基準を導入する。」と約束、このような惨事はデイスカウンターが生産している工場では二度と起きないと約束した。その約束がなされた2013年、今度はバングラデッシュで工場が仕事中に倒壊して、1000人を越える労働者が死亡した。そしてその工場の焼け跡からはまたしてもKiKのコレクションになっている衣服が見つかった

公平を期すならば、パキスタンの工場で衣服を生産していたのはKikだけではない。上述の惨事が起きた工場では、ベネトンなどに納入される衣服も製造されていた。この事件後、デイスカウンターのイメージは地に落ちた。会社が何度、どのような約束をしようとも、これは口約束で、実際には何もしていない事が誰の目にもわかってきた。故人の写真を掲げて泣き叫ぶ光景を連日テレビで見せられても「死人が出ても、安ければいい。」という人は少なく、デイスカウンターはかってない厳しい販売環境にさらされる事となった。

こうした惨事はいたたましいが、それでも幾つか感心できる点もあった。ドイツではこうした惨事が起きる度に、国内で議論が高まる。某国なら、「それはパキスタンかバングラデッシュの国内問題でしょ。」と誰も気にしないだろう。ところがドイツでは、「どうしてこのような惨事が起きたのか。」と議論になり、この惨事に加担したのではないかと、まずは自分自身の行動を問う。このような風潮があるので、デイスカウンターへの圧力が高まり、(すぐには改善されないが)少しずつ改善されていく。日本のデイスカウンターもパキスタンやバングラデッシュで生産しているが、果たして日本でこのような議論が起きただろうか。

最近は、"Fair Trade"という言葉が聞かれるようになった。食料品、衣服に限らず、「生産国で摂取をしないで正当なローンを払っています。」という宣伝だ。デイスカウンターは言うに及ばず、REWEなどのスーパーでも導入された。ドイツが日本と違うのは、この宣伝を鵜呑みしないでその生産国まで出かけて、本当に"Fair Trade"をしているかチェックをする。労働者のキャンプに密かに入り込んで、賃金をチェックしたり、労働環境をチェックする。大方は、"Fair Trade"はただの宣伝で、実際にはこれまで通り摂取していることが発覚するが、これがテレビで流されるとその企業にとっては大きなイメージダウンになる。そうしてやっと報道後、労働環境が改善される。同じ事件を見て、日本で同じような議論が起こったのだろうか。それとも日本では惨事にもかかわらず、「安くてステキ。」と消費者の興味は、未だに値段に集約されているのだろうか。

  
有名人を宣伝に登用して最大手に成長した○iKは、
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途上国から安価に仕入れたが、
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その値段は現地人の命を引き換えにする事で、
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可能になっている。
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