2013年総選挙 (24.09.2013)

9月22日、ドイツで総選挙が行われた。結果から言えば、神風は吹かず、選挙前の予想取りの結果に終わった。すなわちメルケル首相の圧勝で、対立候補はその足元にも及ばなかった。しかし「メルケル首相の圧倒的勝利。」で済ませてしまっては日本の報道と同じで退屈極まりない。実際、現実は退屈とは正反対で、刻々と入ってくる選挙速報に、政党の運動員は言うに及ばず、国民もこれを大変な興味を持って追った。一体、予想通りの選挙結果で、何がこのような緊張感を生んだのだろう。

メルケル首相率いるCDUは41,5%もの得票率を獲得した。この数字を歴史的に見ると、CDUは壁の崩壊でいきなり東西ドイツ統合の立役者となったコール首相の記録に並ぶもので、20年振りの高い投票率である。過去4年間に繰り返し話題になったユーロ危機に際して、ほとんどの局面で誤った判断を下し、守れない約束を繰り返してきたメルケル首相の人気が何故こんなに高いのか、ドイツに住んでいても全く理解し難い現象である。ドイツ人に、「一体メルケル首相がどの段階で正しい政治判断を下したか、ひとつでも挙げて欲しい。」と尋ねても、ひとつもちゃんとした返事が帰ってこない。なのに何故か人気がある。これは欧州におけるかってない長期の大不況時に、ドイツだけは高い就業率を誇っている経済状況の良さを、(根拠もなく)首相の手柄にしているが為である。ちょうど壁の崩壊を、ドイツ人がコール首相の手柄として高い得票率を獲得したように、時が首相に味方をした。

一方、「ドイツの次期首相に成ります。」とメルケルの対立候補を買って出たSPDのシュタインブリュック氏だが、選挙戦の最初から最後まで失言を繰り返した。前政権では財務大臣に就任、ここでも何度か失言を繰り返したが、まるで日本の政治家のように過去の失敗から学ぶことがなかった。選挙後、SPDの支持者さえもが「同候補はSPDに貢献するよりも、害を与えた。」と語るほど選挙運動中は終始自身の失言と格闘しており、メルケル首相は全く「楽チン」であった。にもかかわらず同氏は、「(先回より)得票率を伸ばしたので、これは勝利である。」と嘯いたが、先回は同党の過去最低の得票率であり、今回の得票率の25,7%は過去過去2番目に悪い得票率である事には言及しなかった。

今回の総選挙では、CDUの他にもう一党、勝利を祝える政党があった。それは左翼政党である。先回よりも3,4%も得票率を落としたが、緑の党を追い越してCDU,SPDに続く第三の政党に「躍進」した。東ドイツにおける根強い支持率、そして何かと失言の多かった党首の交代により、スキャンダルが少なくなったのが、同党の貢献に寄与した。日本では共産政党がほとんど意味のない6位の位置にある事を考えれば、どれだけドイツで左翼(共産主義)に共鳴する人が多いか、よくわかる筈だ。

中には国会議席獲得の最低条件となっている5%の得票率にも達しなかったのに、戦勝気分を味わっている政党もあった。それはAlternative für Deutschland、略して"AfD"である。この政党は政府がユーロ救済の為にドイツ国民の血税を投入していくのに反対、「これ以上落第国家への財政援助は断る。ユーロを捨てて、ドイツマルクを再導入する。ただしEUには残る。」という子供(右翼)っぽい主張をする政党である。それだけではない。「純潔を守らず、移民との混血児が増えると純血児にはない障害、病気が発生する。」とまるでヒトラーのような」アーリア人種、優秀説」を唱える党で、当然、党員、支持者にはドイツ人しかいない。ドイツには少なからず心中でこの思想に共感を感じている者が少なくなく、折からのユーロ危機も手伝って、「5%の枠を突破して国会に議席を獲得するのではないか。」と心配されたが、得票率は4,7%。かろうじて国会進出ならなかった。しかし今年の春先に結成された政党にしては大躍進である。選挙速報が発表されると、その結果を勝利を受け取る党員も多かった。

一時(福島原発事故後)には支持率が20%を超えて、第二党に躍進していた緑の党だが、結果だけ見ると8,3%の得票率。先回から2,4%得票率を落としたが、それでも数字だけ見れば善戦であり、節操のない政治家の事、てっきり勝利宣言をするかも思いきや、敗北宣言をした。と言うのも選挙前の世論調査ではまだ12%の支持率を保持しており、「いけいけどんどん」ではないにしても、国会第三の勢力としての立場を楽勝で守れる筈だった。ところが蓋を開けてみると、東ドイツの左翼政党にさえ追い越されてしまう始末で、最低ラインにかすりもしなかった。その理由は二つ。まず緑の党の本分である環境保護から離れて、国家財政の建て直しという、「蚊帳の外」の分野を選挙のテーマにした事。これにより緑の党の支持基盤をがっかりさせた。これに加えて緑の党の筆頭候補、Trittin氏の主張、「未成年者との性交渉は無罪にすべきである。」がボデイーブローとして効いた。同氏の発言は30年も昔の発言であり、同氏があの発言は間違いであったと述べたが、同性愛と児童愛を同じレベルに並べて性の自由を求めていた同氏の発言は、内容が内容だけに、一度聞くだけで頭に残り、選挙に大きな影響を及ぼした事は間違いない。

しかし何と言っても最大の敗北者は日本語で自由民主党と表記されるFDPであった。同党は減税を主張して先回の選挙で14,6%もの得票率を獲得、同党の全盛期を髣髴とさせた。ところが国民に約束した減税を行う代わりに、大口政治献金を行ったホテル王に恩返して、ホテルの宿泊客への税率を下げた。こうしてホテル業界は「前年と据え置き料金です。」と宣伝、同じ値段で12%もの収入アップを果たした。忘れ易い選挙民が、今回はこれを忘れていなかった。これに加えて党内抗争にあけくれて、選挙民から愛想を付かされた。この四面楚歌の中、ぱっとしない党首を筆頭候補に上げて総選挙に突入したので悪い結果は予想されたが、結果はその予想を超えた。得票率は4,7%で、あの"AfD"にも負けた。

FDPは1957年から国会に議席を獲得している伝統的な政党である。その政党が今回初めて国会から姿を消す事になり、そのショックは大きかった。議員団長のブリューデルレ氏は、「議員団長から辞任する。」と責任を取るそぶりを見せたが、同党が国会から消える以上、議員団自体が消滅するので、その団長も必要なく、意味のない辞任だった。党首のレスラー氏は、「政治的、個人的責任を取る。」と選挙後に表明、翌日、本当に辞任を表明した。こうして空席になった党の指導部に収まる(予定)なのが、レスラー氏との党内抗争に破れて、党の要職から辞任したリントナー氏である。今から思えば、転覆する船に乗り損ねた氏は幸せ者。今回の責任を憎たらしい党幹部の責任にして、自分は救世主として登場する事が可能になった。人生、どこで人生が好転するか全くわからない。

今後、メルケル首相は婿探し(連立政権のパートナー探し)が必要となる。日本では、「連合政権選びが難航する可能性も指摘され、、。」と報道されていたが、これこそ日本ならではの報道だ。ドイツでは異口同音に、「(SPDとの)大連立だ。」と選挙前から言っており、まさにその通りの結果になるだろう。今、メルケル首相が手をすぐに出さないのは、交渉の立場を弱めたくない為だ。先回、メルケル首相は15%の得票率を上げたFDPに5つの閣僚ポストを提供した。今回、25%もの得票率を上げたSPDを相手に連合政権を組むと、それ以上のポストを要求してくることは目に見えている。しかしそんな要求を、「はい、そうですか。」と飲んでしまっては党内、特にバイエルン州のCSUから非難の嵐は避けられない。これが原因で、「緑の党と連立政権を組んでもいいんだぞ。」とSPDをけん制する目的で、わざと交渉を渋っているのである。日本のメデイアが総じてこの「みかけ」に見事に騙されている事実が、哀しい日本の報道のレベルを物語っている。


明確な勝者。
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敗北を認めないSPD。
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見方次第では勝者の左翼政党。
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負けて喜ぶ喜"AfD"。
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テーマを誤った緑の党。
485 (2)


醜い敗者。
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