黄昏 (26.01.2014)

今の視点から見ると信じ難いが、ドイツ軍参謀本部は対ソ戦開始から3ヶ月でソビエト軍を壊滅したと確信(過信)して、「戦争にはもう勝ったから、もう東には新しい兵器は送らない。」と命令を出した。ソビエトが予備軍を召集して、モスクワの後方に防御線を構築していると聞くと、「モスクワ奪取後、必要ならウラル山脈の東まで遠征してソビエト軍を殲滅する。」とまで豪語した。緒戦での勝利に酔い知れて、己の能力を過大評価、「ソビエト軍は膨大な予備兵力を抱えている。」という諜報局の警告を無視、モスクワを大包囲作戦で奪取するとほうもない軍事計画まで立てた。

流石にこれは撤回したが、真冬に夏装備でモスクワ向かって進軍させられたドイツ軍は散々な損害を蒙り、ソビエト軍に蘇生のチャンスを与えた。キエフの奪取後、わざわざ軍隊を北に進めずに、そのまま南で作戦させていたなら1941年にバクーの油田を確保して、1942年からはドイツ軍の戦車、車両はソビエト産の油で作戦が可能になり、補給は大幅に改善されていただろう。我の能力を過信するあまりにあまりに遠大な目標を立てると、戦争の流れ自体を変えてしまうといういい例である。

2000年3月、メルケル総統は「2020年までには最低35%、2050年にはエネルギーの80%は代替エネルギーから補給する。」と豪語、かってのドイツ軍参謀本部に負けず劣らずの総統命令、"Erneuerbare-Energien-Gesetz"を発令した。1942年にバクー油田奪取の総統命令を拝受したのは、SS戦車師団バイキングだったが、今回総統の命令を実行するのは編制間もない太陽発電部隊と風力発電部隊だった。この両部隊が2000年の時点で全体のエネルギー発電量に占める割合はたったの6.6%であったから、20年後の2020年まで5倍にする必要がある。あまりにも遠大な目標設定である。

この目標に到達する為、メルケル首相は両部隊に持ち出し厳禁とされていた秘密兵器、補助金の使用を命じた。すなわち風力部隊が発電する1kwに対して最高9.1セント、発電効率の悪い太陽発電に至っては最高48.1セントまでの補助金を払うとした(家庭用の小さな太陽パネルへの補助金)。当時、ドイツ全土の平均電気料金は13.94セント/Kwであったから、大規模な補助金の使用がなければ戦闘能力のない兵力だった。そのツケを払わされたのは消費者で、電気代はうなぎのぼり、2013年には電気料金は26セント/Kw+基本料金と、電気料金はほぼ倍になった。これは邦貨で37円/Kwに相当する。原発運転休止により「値上げ」された日本の電気代金が21円/Kwであるから、どれだけドイツの電気代が高騰しているかよくわかる。

この夢のような補助金を目当てに、ドイツ国内では太陽発電と風力発電会社が春先の竹の子のように、あちこちで産声を上げた。「今買わなきゃ、損をしますよ!」という巧みな言葉(あながち間違いではない)で消費者を説得、ソラーパネルは売れまくった。当時はパネルを生産できるよりも多くのパネルが売れ、パネル製造業者は黄金時代を迎えた。中でもQ-Cellsはソラーパネル生産量で世界一を誇り、まさに世界に冠たるドイツのソラーパネルだった。同社は2005年に株式市場に上場され、ほとんど15ユーロという初値を付けて、「高すぎる。」と言われたが、その後もイケイケどんどん、2年後には5倍の81ユーロを突破した。当時、政府の発表を受けて太陽パネル業界に投資した人は、わずか数年で一財産築くことができた。

パネルの製造量が販売量に追いつかないパネル製造業者は中国からソラーパネルを輸入して、これを販売することで儲けをさらに拡大した。実際のところ、自社ではパネルを製造しないで中国から輸入してこれを設置販売する方が儲かるので、中国製の安価な太陽パネルがドイツ国内市場に大量に出回り始めた。中には、「我々は補助金を出して中国のソラーパネル業界を助けている。」と非難の声があったが、「ドイツ製だけに補助金を出すという自国製品補助政策を取ると、車などのドイツ製品が中国で売れなくなる。」という危惧から、そのような政策は取られなかった。一方でドイツの太陽パネル製造メーカーは、「高くても売れているから。」と技術革新を怠り、中国製のパネルとかわりばえしない性能のパネルを作り続けた。日本の大企業でもよく見られる、「今までこの方法でこんなに儲かっているのに、どうして戦略を今更変える必要がある。」という旧態然の考え方が支配していた。

ところがである。政府は2012年から太陽発電における補助金の額を24,43セント/Kwに下げると発表した。電気代の高騰により消費者の生活を圧迫し始めたのが原因である。補助金をほぼ半額に減らされたドイツの太陽パネル製造メーカーは、真っ青になった。ふんだんな補助金が出ていれば、高いドイツ製の太陽パネルでも投資したお金が5~6年で回収でき、あとは政府が保障している補助金が設置から20年間降り続けるので、ありがたい副収入が長期に渡って確保できた。しかし補助金が半額になると投資する金を回収するまでに10年以上かかる。今後も補助金は下がり続けるので、今からドイツ製の太陽パネルを設置しても、投資した金を回収するのさえ難しくなる。勿論、「環境の負担が減れば、私は投資したお金が取りも戻せなくても構いません!」という生粋の環境保護者ならそれでもドイツ製のパネルを買ったかもしれないが、そんな人は皆無だった。

ここで中国の太陽パネルが猛烈な値引きをされて、ドイツ市場に流入を始めた。「これなら十分に元が取れますよ!」といわんばかりであった。こうしてドイツの太陽パネル製造メーカーの大量死が始まった。上述の「世界に冠たるQ-Cells」はあっけなく倒産、株価は81ユーロから2セントに暴落して紙屑となった。「もっと上がるぞ!」と欲に目がくらんで株を売り損ねた人は、一財産失くした。毎週のように太陽パネル製造メーカーの倒産が報道され、最後の一社も倒産するのは時間の問題であったが、ここでまだ頑張っていたSolarworld社が、EU議会に中国製パネルのダンピングを告訴した。このままでは太陽パネル業界の死滅してドイツで失業者が増えるのに、ドイツ政府は「罰則関税を導入すると、中国側も同じ対応をして関税戦争に発展する。」と、何も措置を取らないようにEU議会に要請した。ドイツ政府のこの言動は一見理解できないが、これはちゃんとした思惑があってのこと。
          
太陽パネル業界は補助金のお陰で、競争力をなくしてる。事実、太陽パネル業界での技術革新は、ドイツでなく中国で起きている。中国企業は発電効率20.26%というこれまで実現不可能であった高効率のパネルの開発に成功した。ドイツ製の太陽パネルが15%程度の発電効率なので、これを40%近くも改善する高性能パネルである。「また中国製の羊頭狗肉じゃないか。」という疑いを払拭する為、このパネルはドイツのFraunhofer-Institutにて検証されて、発電効率が確認された。中国製の安く性能の優れた太陽パネルに対して、ドイツ企業には勝ち目がない。そのような将来性のない分野を保護して、中国政府の報復を誘発、欧州からの工業製品に高い関税をかけられてしまっては、国際競争力のある車、精密機械などの工業製品が売れなくなる。だからドイツ政府は中国製太陽パネルへの罰則関税に反対したのである。

奇しくも某国においても、同じ状況にある。しかしその国の政策はドイツの政策の正反対である。某国はTPP参加により、工業製品の輸出拡大を至上課題としている。これにより国内企業、ひいては国内経済の活性化をもたらす事を企図している。しかし某国政府はこれまで補助金漬けで競争力をなくし、また競争しようという気力もない国内一産業の保護を主張、TPPが2013年中に大筋合意に達することを効果的に阻止した。国内産業はTPPの合意による、関税のない輸出(競争力が増す)を首を長くして待っていたのに、またしても政府の思慮のない政策で辛抱を強いられることとなった。某国は昔から勝ち目のない戦闘でも、「玉砕」するのを名誉として、壊滅するまで戦った。賢いドイツ軍は、「勝ち目はない」と観たら、戦線から徹底、大事な戦線に戦力を回した。「戦争に負けた。」と見たら、戦後の復興を考えてこれ以上の橋梁や工場の破壊を、総統命令にもかかわらず中止するなど、合理的な考え方をした。これが今日の経済政策にも現れている。某国は昔ながらの玉砕戦略で、ますます厳しさを増す国際競争で生き残れるのだろうか。
          
肝心な代替エネルギーの割合だが、湯水のようにふんだんに使用された補助金のお陰で、2012年には22%まで上昇した。目標の35%までかなり近くなってきたが、まだ13%も離れている。今後、北海に建設された風力発電パークが稼動すれば割合は上昇するだろうが、補助金の使用が難しくなってきた今、割合の上昇率は鈍化することは避けられず、目標到達は難しい。ちなみに福島原発事故後、「再生エネルギーへ転換を!」と叫んでいる日本は再生エネルギーの割合がたったの1.6%。あまりに低くてお話にならない。
          
日本では政府が核事故の後でも核エネルギーをエネルギー政策の核心として考えており、国民はお笑い番組にしか興味のないので、再生エネルギーは申し訳程度にしか推し進められていない。太陽発電で得られた電気を38円/kwで買い取るべしとの政府のお達しが出ているが、この額はドイツで現在導入されている買取額とほぼ同じで、あまり高価な額ではない。太陽パネル製造メーカーは口を揃えて、「今買わないと損ですよ。」と口癖のように言っているが、「儲かる話。」はどこまで本当なのだろう。「日本製品は世界一。」と、愛国心に浸っているだけでは井の中の蛙、ここはデータを調べてみよう。日本で販売されている太陽パネルは発電効率が10~12%という低効率の製品である。ドイツの15~16%の太陽パネルで中国製のパネルに歯が立たなかった。日本が関税を撤廃して、中国製のパネルが導入されるようになれば、日本の太陽パネル業界は現在のドイツの太陽パネル業界のように消散する運命にある。

メーカーは太陽発電による電気代の軽減を歌っているが、現在の日本の電気代とパネルの導入費用を考えれば、コンセントから電気を消費しているほうが安上がりである。仮に200万の導入費用として、電気代が5000円/月の家庭が投資したお金を取り戻すには、400月、実に33年もかかるのだ。「余ったエネルギーは売れます。」というが、低性能のパネルがどれだけ余剰の発電、すなわち利益を生むだろうか。おまけにパネルは古くなればセルが破損して発電効率が下がってくるが、こうした要因は計算されていない。さらに宣伝パンフレットに書かれているのは、最高の状態での発電量で、通常発電の平均値ではない。そんな太陽パネルをローンで組んで導入させようとする業者まで居るが、ローンなんか組んでしまうとさらに費用がかさみ、投資したお金を取り戻すことは不可能だ。補助金、余剰電気の高価買取という言葉に踊らされないで、冷静に数字を見て判断しよう。


かっての世界最大の太陽電池製造会社Q-Cells。
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