Fuck the EU! (17.02.2014)

EU。将来的には国境を越えた欧州軍を擁する欧州合衆国の樹立を目指している。それが可能かどうか別にして、欧州のワシントンになるべくベルギーのブリュッセルに議会場が建設された。が、フランスの要求で必要もなくフランスのシュトラースブルクにも議場を作ってしまったので、議員はフランスのご機嫌と取るために議場の往復を迫られた。当然、「移動が面倒。」という意見が支配的になり、将来はブリュッセルに統一される予定だ。そんな事は議会場を作る前からわかってもよさそうなものだが、フランスの「地元に金を落としたい。」という要求を通した為に、これまで無駄に税金を浪費してきた。もっとも全くの無駄だったわけではない。EU議会が開かれると娼婦が国境を越えてこの町に集結、議員や秘書相手にいい商売をした。

その欧州議会でお仕事をしているのが、欧州議員である。この議員がどのように選出されているか、どんな人がEU議員になるか、ご存知だろうか。欧州の政治家にとって最高の栄誉は国内の議会に選出されて、あわよくば大臣に就任することだ。ところが大臣の椅子は言うまでもなく、選挙区の議席の数は限られている。その限られている議席に俗に言う二世議員が親のコネを使って就任しようとする。典型的な例がかってのプロイセンの宰相、ビスマルクの子孫であるビスマルク公だ。こうした議員候補に政治的配慮を行うと、十分な数の議席がない。そこで、「ここで我慢してもらえないか。」として提供されるのがEU議員のポストである。国内の派閥争いで負けた政治家の定年までの捨て場として利用されることもある。早い話が優秀な人材、有名な人材は国内で使用され、残りの人材が欧州議会に送られる傾向がある。その議員の気になるお給料は8300ユーロほど。手取りは半額だがさまざまな手当てがつく上、上級公務員年金の掛け金は国が払うので、老後の心配はない。さらにさまざまな企業から副業オファー受けるので、EU議員をやりながら数千~1万ユーロ程度の「副収入」がある。

そのEUにも議長、大統領、大蔵大臣などのさまざまな要職があり、これをゲットするとさらに給与がアップするだけでなく、オファーされる副職の質も向上する。問題なのは、こうしたポストが加盟国の力配分で決定される事。すなわち資格も資質もない議員が、EUで大臣に就任することもある。たらいまわし制の国連総長のようなものだ。こうした不幸な人選の典型がEUの外務大臣に就任した、Catherine Ashton女史だ。英国で立派な政治家としてのキャリアを積んできたのかもしれないが、紛争地域に飛んで解決の主導権を取るような性格ではない。イギリスで厚生大臣にでもなっているのが適材適所だっただろうが、英国はどうしても英国人を外務大臣にしたかった。こうしてEUは、外交能力の欠損する外務大臣を擁することになり、「いざここで!」という場面でEU色を出すことはほとんど不可能になった。早い話、EUは無視されて米国、ロシア、中国などの大国が国際政治の舞台で己の主張を唱え、EUはこれをじっと拝聴している事が多くなった。

ヨーロッパの裏庭、ウクライナで起こった政情不安に際して、米国はイニシャチブを取りたかったが、よりよって上述のアストン女子がウクライナに飛び、反対派と大統領の間をとりつくろうとした。ところがウクライナの状態はシリアの内戦とよく似ており、後ろからロシアが大統領を強烈に後ろ盾している。その大統領に対抗する反対派は、反対派間の権力争いが耐えず、一つの声で話すことができない烏合の衆。大統領はこの反対派の争いに油を注ぐことで、交渉を長引かせ、大衆が反対派の政治家に愛想を付かすことをじっと待っている。この戦略は実にうまく行った。これを知っているのか、全く知らないのか、アストン女子はウクライナに飛ぶとニコニコ笑って大統領と会談するしか能がなかった。これに我慢がならないのが米国である。米国はロシアの最後の大きな同盟国であるウクライナを奪取したくて仕方がなく、その絶好の機会をアストン女史がみすみす台無しにしているに思えた。米国なら、ちょうど南ベトナムに独裁者を擁立して北ベトナムと対立させたように、米国独自の候補者を立てて、この人物をガンガン後ろ盾したかった。

米国外務省の欧州担当書記官であるNuland女史は、キエフにある米国大使館の大使と「歯がゆい事態」について電話で協議、今後の米国の取るべき方向について話し合った。外国の首相の電話を盗聴している米国の政治家なら、敵地で話す会話は敵の諜報機関に盗聴されている可能性を考慮すべきだったが、米国人のナイーブな一面を見せて、全く警戒していなかった。この会話を盗聴していたロシアの諜報機関は、思わぬ宝に狂喜したに違いない。ヌーランド書記官が"Fuck the EU."(EUの○ったれ)とEUの歯がゆい外交を非難すると、米国大使が、「全くその通り。」と二人でEUを(すなわちアストン女史を)コケおろした。さらに援護すべきウクライナの反対派に対しても容赦がなく、「まずは政治家の勉強をしてから、政治家になるべきだ。」と強烈なコメントをした。ロシアの諜報機関はこの棚から牡丹餅に大いに感謝、早速、この会話をTwitter、それからご丁寧にロシア語の字幕を入れてYoutubeに上げて、「ウクライナの混乱の裏には西側がいる。」という印象を東側で広めることに成功した。同時にこのビデオは、欧州政府と米国政府間の政治問題に発展した。

本来なら、米国は駐在大使の会話を盗聴した汚い手法を非難できたろう。ところがNSAの盗聴スキャンダルで米国政府は、「必要不可欠な処置だ。」と盗聴手段を正当化した手前、同じ事をやってる相手を非難できない立場に追い込まれた。もし米国が盗聴を非難すれば、ドイツの首相の電話を盗聴した米国のNSAも非難されなければならない。これは具合が悪い。さらに音声の質がいいので、「あれは偽の会話です。」とやっても、すぐに嘘がばれる。米国政府はしばらく対策を協議していたが、スポークスマンを通じて、「Nuland女史はEUに謝罪した。」と簡潔な声明を出した。会話を盗聴した敵の諜報行為を非難するという無駄な自己弁護をしなかった事から、米国は自身の置かれている状況をしっかり理解していたようだ。

このスキャンダルは米国でも報道された。しかし、米国では"Fuck"は放送禁止用語なので、「ピー」という雑音が入り、全く「面白味」が伝わらない。そこでオリジナルのYoutubeへのアクセスが集中したが、Youtubeには「ポルノフィルター」という機能があり、放送禁止用語を連発するビデオは「ポルノ」として分類される。書記官があまりに頻繁に放送禁止用語を連発したために、米国大使との会話はポルノに分類されてしまった。本来は慎重な言葉使う事が必要不可欠な大使と書記官の会話がポルノ扱いとなった事は、さらに赤っ恥となった。女史の政治家としての将来、少なくても今の米国外務省における欧州部門の責任者の任務は、これで終わりだろう。と思っていたら、その後、発展したウクライナ危機でも同女史はその地位に留まっていた。

面白かったのがドイツ(人)の反応だった。もし日本が同じような調子で非難されていたら、元々右翼傾向の強いこの国の事、米国政府に謝罪を求めるなど、外交問題に発展していただろう。確かにメルケル首相も、「断じて受け入れられるものではない。」と極めてきつい調子でスポークスマンを通じてコメントを出したが、それだけで終わった。日本なら米国大使を呼び出して、政府が公式に謝罪を要求しただろう。しかしドイツ人はこの"Fuck the EU."を聞いて、心の底から笑っていた。まず米国政府の化けの皮が見事に剥がれたのが嬉しい。その喜びよりもはるかに大きかったのが、今度は米国自身が盗聴に遭い、赤っ恥をかいた事。これまでは盗聴を正当化していた米国が、今度は盗聴される側となったのが、愉快でたまらないという感じだった。ほとんどのニュースでこの"Fuck the EU"は、「ピー」という雑音なしで報道されて、司会者も笑いながらコメントしていた。この違いがすぐにムキになって反応する子供のような日本と、自身を非難されてもそれを笑って捉える事ができる大人のドイツとの違いを顕著に表している。

編集後記
その後、ウクライナ情勢は劇的な展開を見せた。日本では報道されなかったが、役に立たないアストン女子を無視して、フランスとドイツは外務大臣をウクライナに派遣、大統領から「総選挙を行う。」と妥協を勝ち取った。これが呼び水となり、ヤノコビッチ大統領の側近、閣僚が逃亡を始めた。総選挙になれば、自国民を虐殺した政権の敗北は火を見るより明らかだ。手をこまねいていると、国家反逆罪でお縄になる。そこで選挙になる前に逃げ出した。こうしてヤノコビッチ政権はあっけなく崩壊、大統領まで逃げ出した。これに我慢ならなかったのが、プーチン大統領だった。EUの要求、前倒しの総選挙に応じたのに、米国の主導により(ロシアにはそう見える。)ヤノコビッチ政権が打倒されてしまった。プーチン大統領は、「目には目を。」とかってはロシア(その前はトルコ)の領土だった、セヴェストーポリの奪取を決めた。かってのKGBのエージェントで、大ソビエトの復活を野心にもつプーチン大統領にとっては、ある意味で論理的な行動だった。それだけに西側の読みが浅かった。

しかしこの危機で、ひとつの光明も見えた。ロシアと欧州の経済関係は深く、どちらかが制裁を加えると、これがブーメランになって戻ってくる。ドイツは原油輸入量の35%、ガスにいたっては36%をロシアから輸入している。35%もの資源を輸入している国は、その資源なしでは生きてはいきない。逆に地下資源の輸出が国の経済の柱になっている国では、資源の輸出が止まってしまうと国内は外貨に欠け、ものすごいインフレが起きる。これが理由となって、危機(紛争)の悪化が避けられた。将来の紛争を避けるのは、「積極平和主義」などという自己満足な言葉ではなく、緊密な経済関係である。


ドイツでは一躍有名人、Nuland女史。
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