日本の二の舞を避けろ! (16.04.2014)

2012年夏、ユーロ危機が悪化した。当時、欧州中央銀行(以下、ECBと略)のドラギ総裁は、「ユーロを救うために、ECBの権限でできる事はすべて行う。」と声明を出し、ドイツ(人)から大非難をくらったが、結果的としてユーロを救った(参 Wendepunkt)。日本でバブル経済が崩壊して金融危機が広がった90年代、日銀は反対の声に惑わされて、銀行救済措置を5年も先送りした。その結果が20年近くに渡るデフレーションであった。ドイツ語で"Fuehrungsqualitaet"とはリーダーシップを指すが、その意味するところは日本と欧米では大きく異なる。日本では波風を立てず、周囲と一致した行動を取るリーダーが要求される。欧州では周囲の反対にも関わらず、自分の信念を通して決断する、それもどうにもならないまで待つのではなく、必要と判断した時点で決断する能力、"Entscheidungskraft"がリーダーの資質として要求される。そしてあれから2年近く経った今、欧州では新たにFuehrungsqualitaetが要求されている。

当時、ECBの介入を非難したドイツの理由は、「そんな事をしたらハイパーインフレーションを招く。」というドイツ人特有の懸念であった。ところがハイパーインフレーションが起きるどころか、ただのインフレーションさえも起きていない。それどころかギリシャとスペインでは価格の上昇が止まり、デフレーションに陥ってしまった。現在欧州全域でのインフレ率は0.5%と日本のインフレ率よりも低くなっている。日本が20年も苦渋を嘗めたように、一度デフレに陥るとこれに効果的に対処できる方策はない。なんとしてもデフレが定着する前に、対策を取らなければならない。この事態を目の前にするとあのドイツ人でさえも、「ECBによる金融証券の購入の可能性も考えられる。」とまで言い出した。これまでとは180度の方向転換である。もっともこれがドイツ人のいい所でもある。「間違っていた。」と悟ると、「一億総玉砕!」などというおかしなスローガンを叫んで最後まで突き進むのではなく、まだ可能なうちに方向転換を図る。ドイツ人は実際家だ。

4月3日、ECBの定例会議の後、ドラギ総裁は「デフレに対抗するために、"unkonventionelle Massnahmen"な方策を取る用意がある。」と公式に声明を出した。"unkonventionelle Massnahmen"とは「通常ではない対策」という意味であるが、具体的にはECBによる証券、あるいは国債の購入を意味する。米国や日本で行われている量的緩和の欧州版と考えていいだろう。これまではそのような対策に関しての質問を、「想定に成り立った質問には回答できない。」と回答する事を避けていた総裁が、はっきりと声明を出した。日本では民主党政権の頃、歯止めが効かない円高に際して時の首相は、「あらゆる手段を取る用意がある。」と言ったが、日本のリーダーらしく、結局、何もしなかった。しかし欧州でECBの総裁が「用意」があるという事は、「言うだけ。」ではなく、本当に介入する準備をしている事を意味する。

総裁は欧州版の量的緩和の机上演習を行ったことも明らかにした。その結果はさまざまな要因(仮定)に左右されるので、二通りの結果が予想されるという。ひとつは「量的緩和はそれほどの効果をもたらさない。」というもので、インフレ率は0.2%上昇するのが関の山という結果に終わった。別の試算では0.8%のインフレ率の上昇が可能という結果になった。「うまくいってもたったの0.8%?」と思われるかもしれないが、デフレになる前、インフレ率が0.4%の時点でこれを実施すれば、インフレ率は1.2%という安全ゾーンに達する。さらに欧州ではまだ金利が0.25%、ゼロ金利に達していない。量的緩和と同時に、金利をゼロに下げれれば、そのインパクトはかなり大きな物になるだろう。ユーロは(ドルに対して)かなりその価値を失い、輸出依存型のドイツ経済は言うに及ばず、まだ回復していないユーロ圏諸国でも輸出が伸びて、景気が回復する事が期待できる。

その規模だがメデイアは「1兆ユーロ(140兆円程度)の量的緩和をECBが準備中。」と報道している。日銀による2年間の量的緩和で100兆程度の額であるから、これを1.4倍も超える大規模ものだ。報道が本当ならば。果たして量的緩和は行われるのだろうか。これが行われるなら、時期はいつになるだろう。

3月のインフレ率は過去最低を記録したが、ECBはこれをまだ分析する必要があるという慎重な態度を示した。ユーロが高騰して、原油価格がユーロ圏で下落した事もインフレ率を下げる原因にもなっているからだ。これではユーロ高によるインフレの低下なのか、それともデフレの兆候なのかはっかりしない。そこで注目されているのが、4月の物価(インフレ)指数だ。これが改善すればECBはまだ様子を見るだろうが、悪化した場合、ECBは効果がある、なしにもかかわらず"unkonventionelle Massnahmen"を取る確立が高くなる。日本のようにデフレが定着してから対策を取るよりも、その前に対策を取る必要があるからだ。次回のECBの定例会議は5月8日だ。果たしてECBはすでに5月に何らかの対策に踏み切るだろうか。

編集後記
ドイツ国内、5月のインフレーション率は0.9%とまだマシだったが、欧州全域では0.5%と危険値を出した。これによりドラギ総裁は6月5日、金利の引き下げを行うに十分な理由が出来た。総裁は市場の予想通り、金利を0.25%から0.15%に下た。また、銀行が企業に融資をしないで、ECBにお金を貯金するので、欧州では経済の活性化が未だに遅れている。そこで金をECBに預けている銀行に対して、預金高に対してマイナス0.1%の金利をつけるとした。今後、銀行は一種の「口座維持手数料」を払うことになるので、これを嫌った銀行がお金を引き上げ、企業などに融資をする事を期待しての政策である。果たしてこれで思惑通りの結果がでるか、それとも9月にはさらなる介入、今度は量的緩和だ!をする必要が生じるのだろうか。

7月の欧州におけるインフレーション率は0.4%と、6月よりもさらに悪化した。これは欧州中央銀行の懸念が正しかったことを示す。やもすれば、「でも数字が改善していないじゃない。」と指摘されそうだが、公定歩合の変更が市場に影響を及ぼすには半年程度の時間が必要である。だからといって、8月、9月のインフレーション率がさらに下がることにでもなれば、ECBは対応を迫られることになるかもしれない。欧州がデフレの危険に直面している今、同時に金融、経済危機に陥った米国はすでに経済危機を脱出して、金利を上げる時期が推測されている。欧州にはユーロ危機もあったので、欧州と米国の状況を1対1で比較するのは難しいが、米国連邦銀行が取った過激にも思えた金利政策が効果を示しているのは疑いようが無い。


量的緩和は欧州でも来るのか?
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