フランスの誇り (05.05.2014)

韓国にはサムスン、米国にはGE、オランダにはフィリップス、そしてドイツにはジーメンス。何処の国にもその国を代表する(技術系)の会社がある。日本では馴染みが薄いがフランスにはAlstomというフランスの誇りがある。この会社は20世紀の初頭に機関車や発電所を製作していたが、今日でもその活動分野はほとんど変わっていない。当時の石炭発電が原子力発電に代わり、蒸気機関車がAGV(TGVの後続車両)に変わっただけで、サムスンやフィリップスのように個人消費部門には参入していない。

おフランスの企業らしく、最新の技術が必要になると、ドイツ人のようにお金と時間をかけて自社で開発する危険を冒すよりも、その技術を持っている会社を買収する事でノウハウを獲得する方法を好んだ。新生代の発電に欠かせない巨大なガスタービンが必要になると、販売不振で赤字経営に陥ったスイスの会社を買収して、その技術を手に入れた。ところが蓋を開けてみると、その技術は完成品には程遠く、欠陥まで一緒に買ってしまった。この欠陥の克服に時間と金がかかり、会社の経営が傾いてしまった。これを見たジーメンスは、「いざ、鎌倉!」とこの会社を買収に乗り出した。ジーメンスのすでに完成されたテクノロジーをもってすれば、欠陥を直すのは容易く、それどころか買収により欧州内の電車及び、エネルギー技術市場を独占する事が可能になる。ところがフランス政府がこの買収に介入してきた。フランスの誇りがドイツ人の手に入るのが当時の政府のお気に召さなかった。結局、フランス政府がこの経営の傾いた会社の筆頭株主になることで、この会社は救済された。

経営の傾いた会社を政府が救済して成功した例は少ない。「そんな事はない。日本のJALを見ろ!」と言われる方は、この会社は政府の財政援助を受けても一向に経営が立ち直らず、一度、倒産、過去の負債を整理してから、経営陣を刷新して再スタートを切った点を思い出して欲しい。ドイツでも同じ例がある。19世紀の初頭にダルムシュタットの郊外にPhilipp Holzmannという人物が作った工務店があった。ドイツの工業化の波に上手く乗り、路線建設分野ではドイツでの有数の会社に成長した。歴史の時間に習うドイツの覇権をかけて中東で建設されたバクダット鉄道はこの会社によって建設された。その後の鉄道ブーム、戦争需要でこの会社はさらに成長、ドイツの二度の敗戦にも関わらず、この会社は生き残ったばかりか、ドイツ最大の建築会社にまで成長していた。東ドイツ併合により生じた建築ブームで「飛ぶ鳥を落とす勢い。」だったが、その後の建築バブル経済の破綻の余波を、会社がでかいだけに、モロに浴びた。当時シュレーダー首相は、政府による救済を宣言して選挙戦に勝利したが、この会社は自分の力で更正する能力はすでになく、赤字を出し続けて結局は倒産した。

Alstomの国による救済から11年が経ったが、政府が救済した会社の例に漏れず、会社運営は相変わらずぱっとしなかった。このままいけば「どか貧」になるのが避けられないと会社の上層部にもわかってきた。そこで解決策として、まだ価値があるうちに同社のエネルギー部門を売却、問題を厄介払いする引き換えに、お金をもらおうと考えた。流石、フランス人。転んでもただでは起きない。赤字部門がなくなれば、勝ち目のある電車事業だけで、十分にライバルと戦えると戦術的な決定を下した社長は、エネルギー部門の売却について米国のGEと秘かに売却交渉を開始した。GEもこれを欧州市場進出の絶好の機会と考え、10億ユーロで折り合いが付いた。あとはサインをするだけとなっていたが、重役と弁護士の活発な活動がフランスの諜報局に隠せるわけもなく、フランスの誇りである同社の売却が目前に迫っていることがフランス政府に知らされた。

11年経ってフランスの大統領は変わっていたが、フランスの大統領には、フランスの誇りが外国の会社に売却されるのは容認できる事でなかった。しかし国はすでに金を出してこの会社を救済したが、未だに運営が立ち直せていないので、再度、国が株主になることは国民が許さないだろうし、EUもそのような特定の企業を保護する政策は許さないだろう。そこで大統領はよりによって11年前に売却を阻止したジーメンスに、「買わないか。」と話を持ちかけた。フランス人にとってドイツの会社は、米国の企業よりはまだマシらしい。

ジーメンスにとってGEは、お手本のような存在だ。GEと異なり、これまで個人消費部門の製品を作っていたジーメンスは、「やっぱりGEの戦略が正しい。」と判断、個人消費部門を次々と売却、値が付かない部門は閉鎖していった。その代表的な例が携帯やコンピューター部門だ。第二のGEを目指しているジーメンスにとって、GEがAlstomを買収する事は、今後、欧州内での厳しい販売競争にさらされることを意味する。これはなんとしても阻止しなくてはならない。が、ジーメンスにはGEのような膨大なキャッシュフロー(買収資金)に欠けており、GEのオファーに対抗できる金は、袖を振っても出て来ない。そこでジーメンスは、一石二鳥の計画を思いついた。

ジーメンスは現金をオファーする代わりに、同社の電車事業をオファーしてきた。と言うのも、ジーメンスにとって電車事業は赤字事業で、足手まとい以外の何物でもない。そこでこの電車事業をAlstomに提供する事で、AlstomはTGV(AVG)とICEを擁ることになり、電車事業で世界市場を独占できる。極東地域では日本の新幹線もあるが、セールスが下手でいつも負ける。また政治家の問題発言で中国では人気がなく、取るに足るライバルではない。こうしてジーメンスは「一石二鳥作戦」で試みたが、フランス人、Alstomは全くこの話に乗ってこなかった。フランス人にしてみれば、TGV(AVG)がICEより優れていることは明白で、ジーメンスのICEには、ジーメンスが思ったほどの魅力を感じなかったのだ。さらにAlstomの労働組合は、ジーメンスにエネルギー部門が売却されると、両社同じような事業形態なので、リストラに遭い多くの職場が犠牲になると(おそらく)正しく指摘、ドイツ人には売らないように会社に要請した。

Alstomがジーメンスのオファーに興味を示さないのは、別の理由もあった。社長の両親はドイツ人によりアウシュビッツに抑留されており、奇跡的に生き延びた。その後、難民としてフランスに移住、ここで勤勉に働いて息子を大学にまで送ったのだ。その社長がドイツ人に対して、好意を抱いているとは思いがたい。さらにジーメンスは一度、青函トンネルならぬ、フランスと英国の間を結ぶユーロトンネルで電車の受注をAlstomの鼻先からかさらった事がある。Alstom社はこれを不当な決定としてロンドンの裁判所に訴えたが、負けた。同氏のドイツ人、すなわちジーメンスに対する好感度は、この経緯によって上昇したとも思えない。

ジーメンスはオファーを出しはしたが、これに対して質問さえも来なかった。「真面目に取られていない。」と感じたジーメンスはAlstom社に対して、書面で抗議した。大統領も、「ジーメンスのオファーをちゃんと吟味すべきだ。」と11年前には考えれない援護射撃を行ったが、ここでGEが、おそらくその必要もなかったのに、オファーを123億5000万ユーロに上乗せした。これにより、ジーメンスのチャンスはさらに低くなった。本来ならば、ジーメンスのオファーにはチャンスのかけらも無い。にも関わらずジーメンスのオファーを吟味するフリをさせているのは、政治的圧力である。フランスの大統領は国の重要な産業の買収に関しては、11年前のように拒否権を発動できる。この拒否権を発動されないように、Alstomは芝居を演じている。123億5000万ユーロもの金がかかっているだ。下手な真似はできない。

その一方で、ドイツ政府もこの買収劇には大きな興味を持っている。ジーメンスがAlstom社のエネルギー部門を買収する事は、ドイツ政府が推し進めている再生産エネルギーの普及政策にも関与してくるからだ。フランスの大統領もジーメンスを推している事もあって、Alstom買収では、両国(政治家の)利害が珍しく一致した。果たして政治的な興味が経済的な興味を上回ることになるのだろうか。

編集後記
その後、この買収劇は思わぬ発展を見せた。三菱重工が日立と共にジーメンス陣営に加わり、日本のメデイアの言葉を使えば、日独同盟軍が共同オファーを出した。Alstom社買収の暁には、同社を解体してジーメンスはAlstomのガスタービン事業を、三菱と日立は蒸気タービン事業を(日本の脱原発の将来に備えて)手中にする計画であった。三菱重工業の社長はこのオファーが本気であることを示すため、わざわざパリまで出かけてオファーを記者会見で説明したが。果たしてフランスは、同国の数少ない先端技術を持った会社が解体されて、ジーメンスと三菱の一部になり、Alstomの名前が消えることを許すだろうか。そんなわけがない。結局、フランス政府は再度、Alstom社の株式の20%を取得する事で財政援助を行い、残りの株(過半数)はGEが買収する事になった。三菱はフランスの心境を理解していれば、勝ち目の無いプロポーズをして赤恥をかかなくて済んだであろう。これが日本のセールスのやり方であり、これでは負けるのも仕方がない。


ICEは、
500 (1)


将来、AVGに?
500 (2)


        
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