原発あげます。 (22.05.2014)

福島原発事故がきっかけとりなり、ドイツでは最後の原発が2022年に停止する事になった。もっとも現在稼動している原発は9基で、期限の2022年まで操業を続けるのはたったの3基だ。残りの6基は順次、操業を終えていく。原発の操業が終わると、「じゃ、ご苦労様でした。」と、電源のスイッチを切ればいいというものではない。操業をやめても炉はその後、半永久的に放射線を出し続ける。そこで手がつけられない事態にならない様に、コントロールして分解する必要がある。そして解体が終わると、「ご苦労様でした。」とビールで乾杯して終わりではない。放射線を出し続ける解体部品を、安全に永久保管しなくてはならないが、その保管場所さえも決まっていない。すなわちどのくらい費用が発生するのか、誰にも予測できない。電力会社はこれまでに原子炉の解体費用として300億ユーロ計上していたが、これで足りるのか心配になってきた。

というのもかっての東ドイツ地域、バルト海の沿岸にソビエト製の原発が建っていた。ドイツの合併により、このお荷物もドイツ国家の所有物となった。長年、原子炉を冷却していたが、1995年からやっと解体作業が始まった。しかし2014年になっても解体作業は終わっておらず、その解体費用は40億ユーロと見積もられている。この原子炉はソビエト製の巨大な施設であったことを考慮しても、たった1個の原発の解体に40億ユーロである。ドイツにはまだ解体が始まっていない商業用原子炉が17個もあるが、電力会社が用意しているのは300億ユーロ。「大きな問題がなければ、ひとつ6億~9億ユーロで解体できる。」というのがこれまでの電力会社の試算であったから、この皮算用の信憑性が怪しくなってきた。

ドイツを4分割して統治する大手の電力会社は会合を開き、無用の長物と化した原発を、誰かに押し付けることはできないものか、知恵を絞った。ドイツを代表する大企業が4社も集まれば文殊の知恵が生まれるもので、原発を国に進呈しようという名案が出た。というのも今、電力会社各社は政府のエネルギー政策転換により無駄になった投資、さらには原子炉の運転期間延長と引き換えに導入された核燃料税を違法として、政府を訴えている。ドイツの裁判所は手始めに、福島原発直後の政府の決定、「古い原発の運転を止めよ。」を違法と判断したのだが、最終的な結論は欧州裁判所に委ねられた。今後、電力会社の訴えが認められる可能性は高い。この判決が出る間に、政府に交渉を持ちかけようと考えた。

この案では、ドイツにある17基の商業用原発は、操業中、操業を止めて冷却中の原発もすべて含めて、国が創設する財団の管理下に置かれる。この財団は最後の原発が操業を止める2022年まで原発を管理して、操業により生まれる利益もこの財団の収入となる(国の機関なので税金から免除される)。その一方で、原発の解体、放射能に汚染された解体部品の保管もこの財団の責任となる。その代償として電力会社は国に対する訴えをすべて撤回するので、国は数十億ユーロ節約できる上、面子を保つことができるので、政府はこの案を歓迎するだろうと考えた。

電力会社は「お得な取引」のつもりだったが、メルケル首相は、"Nein, danke."と全く興味を見せなかった。今まで数十年も原発で儲けておきながら、操業期間が短くなると費用がかさむので、国、すなわち国民の税金を使って原発を処理せよという案は、あまりに調子が良すぎた。国がこの取引に興味がないことがわかると、「国の政策に沿って原発を作って発電。こうして国の発展に貢献したのに、その処理を電力会社だけに任せるのは理解しがたい。」とコメントを出し、国のつれない態度を非難した。

日本では原発ロビー(電力会社)の権力は絶大である。その影響力は中世のローマ教皇に匹敵し、教皇に刃向かう皇帝はカノッサの屈辱を覚悟しなければならない。管(元)首相がドイツのメデイアの取材を受けると、「日本の原発ロビーは、首相を辞任に強いるほどだった。」と述べた。(元)首相本人がテレビカメラの前で語るのだから、全く根拠のない話ではない。手に負えない原発事故を見ていながら、管(元)首相退陣後の民主党、そして自民党の核エネルギー推進政策、東京電力の税金を使っての支援は、この実情を裏付けるものである。

ドイツでも電力会社に天下りする政治家、官僚は多いが、ドイツの政治は日本の政治ほど腐りきってはいない。何故か、それはドイツには(まだ)健全なメデイアがあるからだ。日本の新聞、テレビはそのくらだない報道、お笑い、グルメ番組、芸能人の私生活で民衆の興味を政治から遠ざけると、政府の発表を、「大本営発表!本日、帝国海軍機動部隊はミッドウエー沖にて、敵の機動部隊を殲滅せり!」といわんばかりに、中国や韓国を非難している。お笑い番組しかみていない国民は、「中国、韓国はけしからん!」と咆哮する。これほど容易に操られる民衆はない、ドイツではメデイアは政府の行動を監視する機能をまだ失ってはいない。NHKと異なり、よりよって国営放送が政府の謀略、汚職を告発する。だから今回原発の財団運営が報道されると、我先!と各社は競って電力会社の自分勝手な考え方を非難した。日本であれば、原発処理財団が閣議決定されて、日本国民はお笑い番組やドラマに熱中して、気がつきもしなかったろう。

とは言え、この一件は原発の新たな危険を露呈した。あの欲に飢えた電力会社が「原発をただでひきとってくれ!」というのだから、その解体費用は電力会社が用意している300億ユーロでは到底足らない。日本では福島原発の手に負えない現場を見ても、「新しい原発を建設する。」と政府が原発政策を推進しているが、10年、20年経って、日本で最初の原発の解体作業が始まったら、その費用に驚き、日本の電力会社は財団案を出してくる。そして日本ではその案が、すんなり閣議決議されてしまうだろう。すでに福島原発の処理で税金を使用する前例を作ってしまっているからだ。これが日本人が得意げに口にする「おもてなし。」なのだろうか。いずれにせよ、日本以外の世界では理解しがたい思考過程である。

福島原発にあらず。解体中のドイツの原発だ。
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