Europawahl/欧州議会選挙 (06.06.2014)

EU。英語では"European Union"、ドイツ語では"Europaeische Union"。珍しく英語とドイツ語の表記が一致する。しかし「一致するのはそれで終わり。」と言われるほど諸国の意見が入り混じり、EU諸国ははこれまで一団となって政策決定をする事が滅多になかった。例外はロシアのクリミア半島の軍事占領、ロシア編入だった。日本では、「欧州は新ロシア派(ドイツやフランスを指すらしい)と反ロシア派(ポーランド、チェコなどを指すらしい。)の意見が交錯して、意見がまとまらない。」といつも通りの的外れな報道をしていたが、実際には最初の会合でロシアへの経済政策が決定されるほど、意見が一致していた。ロシアの軍事力を背景とする一方的な領土拡大政策は、かってのロシアの脅威の記憶を欧州諸国に呼び覚ました。これが引き金となって、異例の利害の一致を見ることになった。

この機会にEUの誕生について紹介してみよう。日中国交正常化において周恩来首相の存在が不可欠であったように、欧州統合の本当の立役者は、フランスのドゴール(元)大統領である。第一次大戦に従事、瀕死の重傷を負いドイツ軍の捕虜となった若きドゴール大尉は、収容所でドイツ語を習った。完璧と言うには程遠いが、当時、誰が敵国の言語を、それも捕虜になって学ぼうとしただろう(周恩来首相が日本に留学して、日本語を習っていた点と似ている)。第二次大戦ではフランス軍の敗北を受け入れず、イギリスに亡命、ここで憎っくきドイツに対してのレジスタンスを呼びかけた。当初、全く無名のこのフランス軍将校のラジオ番組は全く人気がなかったが、氏の熱狂的な訴えにフランス国民は次第に魅せられて、何時の日かドゴールがパリをドイツ軍から解放してくれる日を密かに待ち続けた。そしてドゴールが1944年に遠征軍に参加してノルマンデイーに上陸、米軍のはからいでパリに入場した際のフランス人の熱狂振りは、ものすごいものだった。

その一方で、フランス国内ではナチ狩りが熾烈を極めた。女性がナチスに協力したと非難があがると丸坊主にされて、つばを吐きかけられ、殴られながら街中を引き回された。運が悪いと、その後、男性の協力者と一緒に、ろくな裁判もなしに吊るされた。ところがドイツを一番憎いんでいる筈のドゴール将軍がドイツを訪問して、敵国の言葉であるドイツ語で演説、欧州の繁栄にはドイツ、フランス両国の友好関係が欠かせないと語ると、最初は冷ややかだったドイツ人の聴衆までも同氏に魅せられて熱狂した。この演説は1963年に正式に調印されることになる、ドイツフランス友好条約の基盤となった。ドイツと二度も生死をかけて戦ったからこそ、同氏はフランスとドイツの友好関係は欧州の平和に欠かせないと確信、その目的達成には両国間の交易を増大させ、共通の利害関係を築くことが欠かせないと考えた。これがきっかけとなり欧州統合の概念が生まれ、その加盟国は創設時の6カ国から、現在の28カ国に生長した。同氏の思想は、口先だけの「平和主義」ではなく、共通の利害関係を構築する事で平和を実現させようとする実行的平和主義だった。

今ではEU加盟国の人口は5億を超え、日本の4倍強である。言語、歴史、宗教が異なる28もの加盟国が、ひとつのルールに合意するだけでもたいしたものだ。例えば日本では国内の銀行に送金するだけで、送金手数料を取られてしまうが、2014年2月からEU加盟国内では実質上、国内送金と同様の扱いになり、送金手数料は無料、送金にかかる日数も国内送金と同じレベルになった。ドイツで国民健康保険に加入していれば、スペインでその保険を使って医者に通うこともできる。「冬は暖かいスペインがいい。」と言う人は、何も暗く、寒いドイツで過ごす必要は無い。スペインに行き、書類の手続きも必要なく、ここで仕事ができてしまう。そして失業すれば、スペインで失業保険の申請ができてしまう。日本では日本人の社会保障申請でも拒むのに、欧州ではこれが欧州全域で可能なのだ。ドイツで売れたヒット商品があれば、「柳の下の二匹目の泥鰌」をねらって、他の国でも簡単に販売できてしまう。規制、すなわち商品表示基準が統一されているので、「この商品はドイツ向け、こちらはイタリア向け、そしてこちらは英国向け」と製品の規格を変更する必要が無いので、企業には効率がいい。

勿論、「EUは何もかも素晴らしい。」というものではなく、不必要と思えるさまざまな規制もある。きゅうりは長さが規定されており、これを超えるものは販売できない。バナナにいたっては、「曲がり度」が規定されており、これを超えるものは販売できない。りんごは平均直径が規定されており、これを大きく超えるものは販売できない。Pizza Napoletanaは厚さが4mm以下、直径が35cm以下と規定されており、これを大きく超えるものはこの名前では販売できない。コンドームは長さが最低16cmあり、5リットルの水が入る容量が必要で、これを満たさないものは販売できない。さらにEUの予算で最大枠の補助金も、EUの大きな欠陥のひとつだ。日本はTPP交渉で揉めているが、EUではEU内の農家、畜産農家に補助金を出すことでEU内の農畜産物の値段を下げる方法を取っている。早い話が日本政府のように外国製品に高い関税をかけて自国の畜産農家を守るのではなく、政府が補助金を出して自国の農畜産物が値段の面で競争できるようにしている。さらにはこうして安い値段で過剰に生産した農畜産物をアフリカに輸出、現地の酪農家を破綻させている。

EUの官僚が、意味の無い規定を作っている限りは、まだ諸国民も笑って済ませていた。ところが2008年の金融危機では、市民の税金を使って危機を巻き起こした張本人である銀行を救った。お陰様で消費税率が20%(英国)、21%(オランダ)23%(ギリシャ)、24%(フィンランド)、25%(デンマーク)になると市民のEUに対する不信感は高まった。これに留まらず、EUは2012年のその権限を拡大、加盟国の予算に介入する権利を有することになった。これがきっかけとなり、この金融危機でお金を出すことになった国民の間では、「EUは会費だけかかる高級クラブ。」という印象が定着した。金融危機でお金をもらった国では急激なダイエットを強いられ、「俺たちは悪くない。悪いのはEUだ。」という印象が定着した。こうして「EUから離脱さえすれば、何もかもうまくいく。」と新興宗教を唱える政党が発足、勢いを増し始めた。ドイツ国内ではAfDという政党が登場、ドイツ人による、ドイツ人の為の、ドイツ人による政府を要求した。この呼びかけは、単純な右翼政党には投票する気になれなかった富裕層に受けた。こうした社会情勢を背景に"Europawahl"(欧州議会選挙)が始まった。

「波に乗れ!」とドイツの与党までも、「騙す奴は(ドイツから)出て行け!」と国民を扇動して右翼票を取り込もうとしたくらい、右翼テーマは"in"(流行っているという意味。)だった。ところが蓋を開けてみると、CSUは前回の選挙と比較して7.6%も支持率を落として惨敗を喫した。ドイツの有権者は、近隣諸国を非難して、自分の株を上げようとする政党を信用しなかった。同時に、ドイツの有権者は数々のEU欠点にもかかわらず、EU統合を支持した。ドゴールの精神がまだ生きていたのだ、しかし肝心要のフランス、それに元来大陸を信用していない英国では状況は異なっていた。

かってはドイツと共にEUの牽引役だったフランスは欧州の劣等生に成り下がってしまった。2014年の1~3月にドイツ経済は0.8%成長した。あの未曾有の不動産危機に襲われたスペインでさえ、峠を越えて0.4%の経済成長率を記録したのに、フランスは情けない0.1%であった。この低い経済成長率の原因は、フランス経済の構造にある。アイルランド、ポルトガル、スペインなどは厳しい改革が行われ、無駄がなくなり、賃金が下がり、国際競争力が増してきた。しかしフランスでは労働者を手厚く保護する一方で、すでに60歳で定年退職できてしまう。あのギリシャでさえ65歳なのに、フランスの労働者だけは60歳で年金を需給できてしまう。国家財政が黒字なら一向に構わないが、家計は火の車。

にもかかわらずフランス人は、痛みを伴う構造改革よりも、「無駄な出費をなくし、金持への税率を上げることで国家財政を立ち直します。」という、民主党のような選挙のキャッチフレーズを信じた。ぬるま湯に長く浸かっているフランス人は、ここから出て風邪を引くことを恐れた。新大統領は早速、公約を実施、金持に75%という高税率を課した。が肝心の金持ちはこれに辟易して、モナコからロシアまで両手を広げて迎え入れてくれる国に逃げ出してしまい、国の税収は改善しなかった。構造改革がないので、賃金は高いまま。会社は余剰人員を抱えても、法律に縛られて解雇ができない。こうしてフランス製品の値段は高値安定、競争力を失っていった。会社が儲からないから、税収入が改善しない。そこで大統領は自ら模範となるべく大統領、閣僚の給料を下げたが、毎週、ひっかえとっかえ愛人と密会している姿が報道されると、フランス人に愛想をつかされた。

フランスの選挙民はこの機会を利用して、与党にサインを送ることにした。選挙民にしてみれば、保守政党も5年間何もしなかったので同罪だ。既存の政党に不満であることを疑いようも無く示すのは、右翼政党への投票だった。こうして右翼政党は26%もの得票率を得て、フランスの第一党に躍り出た。オランド大統領はこれを教訓に、愛人の訪問回数を減らすべきだろう。この先、フランスが一体どうなるのか、大きな疑問視が残る。が、ジャンヌダルクに始まって、最近ではナポレオンからドゴールまで、国の運命を左右するときには大きな人物が現れるこの国のこと、かっての"Grande Nation"(La Grande Nation)の復活を期待したい。

右翼政党の前進はあったが、750議席ある欧州議会の1割程度の議席数である。「右翼政党の躍進。」というには程遠く、「日本とEUの貿易協定交渉にも影響と及ばす。」という日本のメディアの報道は理解しかねる。日本の衆議院では、公明党を与党としても、野党は3割強の議席を占めている。しかるに与党は議題をまずは閣議決定、その後、国会で議論してもよいという独裁政権振りを発揮しているが、野党は手をこまねいてみているしかできない。1割程度の議席数しかない野党に、どれだけ政策に影響を及ぼす事ができるだろう。
          
今回の欧州議会選挙で保守政党はルクセンブルクの(元)首相で、欧州グループ長として金融危機で立ちまわった経験豊富なユンカー氏を筆頭候補に上げた。メルケル首相もユンカー氏を欧州大統領にすべく講演した。これに対する社会主義政党はドイツのSPD出身のシミット氏を筆頭候補に上げた。外見は全く異なるが、政策自体に大きな違いはない。あえて言えばユンカー氏の方が金融、産業に理解度があった。選挙結果が出てみると、保守党は得票数を落としたが、まだ第一党の地位を確保した。「ユンカー氏を大統領に!」とこれまで選挙運動をしていたので、当然、ユンカー氏が大統領になると思ってたら、甘かった。選挙後の欧州首脳会議が開かれたが、もめにもめた。真夜中に記者会見に現れたメルケル首相は「ユンカー氏が大統領になるんですか。」との質問に、疲労、あるいは居心地の悪さを隠しきれない調子で、「氏も候補ではある。」と回答した。選挙前との公約とはかなり違う意味合いの発言だ。一体、何があったのだろう。
          
今回の欧州議会選挙で、政権にありながら敗北を喫したもう一人の政治家が居た。そう、イギリスは保守党のキャメロン首相である。自身のこれまでの政策、銀行優先政策が選挙民に受けなかったのに、惨敗の原因を筆頭候補であったユンカー氏のせいにして、「同氏は古いEUを代表する顔だ。同氏の大統領就任は容認できない。」と言い出し、「要求が受け入れられないなら、イギリスはEUから脱退する。」と一緒に選挙戦を戦った仲間を脅し始めた。やむなくメルケル首相は妥協して、イギリスの首相の我慢できる大統領探しが始まった。同時にユンカー氏は病気を理由に大統領立候補を辞退するという筋書きまで立てられた。

すると、「メルケル首相が今、行っているのは詐欺、丁寧に言っても公約違反である。」とドイツのマスコミが一斉に首相の気変わりを非難した。これがドイツのマスコミの素晴らしさだ。普段はくだらない芸能人のニュースを流していても、政治家が約束を破ろうとする(まだ破ったわけではない。)と、一斉にこれを指摘して国民の目が否応なしにそちらに向くように仕向ける。これをやられると首相の支持率が低下するので、首相は勝手な政策決定ができない。マスコミの本来の役目である、権力者の監視がうまく機能している見事な例である。
          
話を大統領選びに戻そう。キャメロン首相は、かってのサッチャー首相のように、無理難題を押し付けてEUから譲歩を勝ち取り、これを自身の手柄として国内で自身の人気確保に努めたい。そんな我侭が何処まで通じるのか。要求が呑まれなかった場合、キャメロン首相は脅しを実行に移すのか。同氏の要望が受け入れられないで、それでもイギリスがEUに留まることになれば、「イギリスは言うだけ。」と今後、キャメロン首相の発言には全く威厳がなくなる。これを避けるために、又、同氏の面子を救うために、EUはある程度の妥協を迫られる。今後、メルケル首相など欧州の首脳がイギリスの我侭に頭を悩ますことになりそうだ。
          
編集後記
すったもんだの結果、ユンカー氏が大統領に選出された。「イギリスがEUから脱退するのか?」と危惧されたが、キャメロン首相は最後までこの人事に反対することで、国内で人気を回復する事ができた。同氏にはそれで満足したようで、大統領選手後、「EU脱退」の言葉は聴かれなかった。
         

欧州大統領に立候補した仲むつまじい両候補。
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右翼票を期待して国民を煽り、惨敗したCSU。
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フランスで第一党に躍進した右翼政党のルペン女史。
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精細を欠いた仏、英首相は大敗北を喫す。
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