トンネル強盗 (28.07.2014)

日本ではお休みは統一行事。日本全国一斉に休日、あるいは夏休みに入る。ドイツでは州によって祝日や夏休みの時期が異なる。かって、州は別々の国だった名残だ。もっとも8月になると、ほとんどの州で学校は夏休みに突入する。政治家もこの時期に夏休みを取るので、結果としてスキャンダルが(少)なくなり、ここで取り上げるテーマの選択に困る時期だ。そこで過去に起きた事件で、ここで取り上げ損ねていた事件を紹介してみよう。

近年、めっきり銀行強盗が(ドイツでは)少なくなった。その理由は幾つかあるが、最大の理由は銀行側のセキュリテイーの改善に拠る。映画などでよく見るように、拳銃をつきつけて、「現金を出せ。」といっても、銀行は窓口で使用する現金は金庫にしまっており、簡単に現金を金庫から取り出せない。「ちょっと待ってくださいね。」と断って、暗証番号を入れて、金額を打ち込み、30秒待つと現金が出てくる仕組みになっている。「これじゃ少ないからもっと出せ!」と言うと、「ちょっと待ってくださいね。」と断って、暗証番号を入れて、金額を打ち込み、30秒待つと現金が出てくる仕組みになっている。銀行員はその間に警報の出ないアラームボタンを押しており、2回目の現金を手に入れて逃げ出す頃には、パトカーのサイレンが聞こえてくる。

おまけに銀行の出口に、「人工DNA」を噴射する装置がついており、アラーム下で出入り口を通るとDNAが噴出する。このDNAは無臭、無色なので、犯人は足がついたことに全く気づかない。しばらくすると、「ピンポーン」と警察が玄関口にやってきて、「今日、銀行強盗があったので聞き込みをしてます。」と言う。「そうだったんですか。」「物騒ですね。」と話をあわせていても、警察は不信感に満ち溢れる態度でじっと見つめるので、落ち着きがなくなる。「これは何か隠している。」と感じると、いきなりおかしなメガネをかけてじっくりと観察される。このメガネをかけると、人工DNAが一目瞭然となる。シャワーを浴びてもそう簡単に落ちるものではないので、服を着替えていても髪や顔、手、首に付着していて御用となる。早い話が銀行強盗は捕まる危険性と報酬を比べて、ペイしないのだ。そんな危険を犯さなくても、捕まる危険が少なく、儲かる仕事がある。今時ドイツで銀行強盗を働くのは前後の見境がないアルコール中毒者か、生活に苦しむ年金生活者、あるいは高校生くらいで、組織的な犯罪は少ない。そしてその稀な組織犯罪が銀行に対して行われると、「あっ!」と驚くことが少なくない。

2012年ベルリンのSteglitz地区にある地下駐車場が貸しに出されていた。この駐車場を借りたのは、背が高く、がっしとした体系の男で、ほぼ毎日のように最寄のホームセンターで建築資材を買い込んだ。特には特赦な工具を借りて駐車場に運び込んでいたが、扉が閉まっていたので何をしているのか何もわからなかった。ドイツでは大工さんなどに頼まず、自分の手で家を建てる人も居るほどで、日曜大工はドイツ人に大人気の趣味だ。だからガレージに工具や建築資材を運び込んでも、誰も不思議に思わなかった。

この駐車場の向かいに銀行があった。銀行といっても特殊な銀行で、顧客(上客)に金庫を貸し出すのを主要業務としていた。1月13日(月曜日)に出勤してきた銀行員は、当初、何も変わった点に気がつかなかった。金庫がある地下に下りると、300を超える銀行の貸し金庫が強引に開けられており、高価な装飾品や腕時計が床に散乱していた。おったまげた行員は警察に、「銀行強盗!」と通報した。大出動した警察は、その現場を見てあっけに取られた。地下にある金庫室の30cmもの分厚いコンクリートの壁にはぽっかりと大穴が開いており、そこから45mもの長いトンネルが続いていた。そのトンネルは1.5mの高さで上部と側面を建築資材で固められており、実に見事な出来栄えであった。そのトンネルの先は、アパートの地下駐車場になっており、そこにはトンネルを掘って出た土が山のように積まれていた。その後の警察の調べでは、このトンネルを掘るのに120トンもの土を取り除く必要があった。1日せいぜい数百キロしか除去できないので、強盗はこの作戦を数ヶ月かけて準備していたのは明白だった。

肝心の強盗は金曜日の夜に行われた。コンクリの壁に穴を開ける際に相応の物音がして、警報が鳴っていたのだ。本来ならガードマンが金庫室まで下りて、異常を報告、銀行強盗は未然に防げる筈だった。ところがドイツらしく、警報が鳴ったのに管理会社は金庫室をチェックしもしないで、「誤報だ。」と警報を切ってしまった。こうして犯人は一晩中、金庫を破ってお宝を運ぶ時間があった。警察に銀行強盗が通報されたのが月曜日であったから、土曜日と日曜日もたっぷり仕事をする時間があったのに、犯人は金曜日の一晩だけで仕事を終わらせて、「後片付け」をしてから逃亡した。

にもかかわらず被害総額は1000万ユーロ(邦貨で14億円)と見積もられている。銀行には全部で1600の貸し金庫があったが、被害に遭ったのは、そのうち(たったの)302個。金曜日に逃亡しないで週末も仕事をしていたら、その被害総額は数倍になっていただろう。被害にあった客の数は394人。その過半数(60%)は貸し金庫を保険にかけていなかったので、銀行は、「お気の毒です。」とていよく保障を断ろうとした。普通なら、それで済んだかもしれないが、警備会社のずさんな対応が明らかになると、「当行には責任ございません。」と言い難くなった。被害者が銀行を集団告訴、裁判にて銀行の落ち度が指摘されと銀行のイメージは地に落ちる上、思わぬ高額の賠償金を命じられるかもしれない。そこで銀行は保険をかけていなかった顧客に、何が金庫に入っていたかこれを証明できる場合に限り、被害総額の30%を支払うことを提案している。ちなみに被害者の弁護士によると、銀行には70%の補償額を支払う義務があるという。どちらが正しいか、それは最後は裁判で明らかになるのではなかろうか。

ちなみに犯人の素性、行方はまったくたってない。偽造パスポート(オランダ国籍)でまずはこの銀行に口座を作り、貸し金庫まで借りていた。こうして犯罪現場を偵察していたのだが、銀行のカメラには顔の下半分覆い隠している映像しか残っておらず、あまり役に立ちそうにない。短絡的に普通の銀行を襲わず、貸し金庫専用の支店を狙うその奇抜なアイデア、その独創性に勝るとも劣らぬ実行力、そして緻密な計画性、近年まれに見る高度な知能犯罪であった。


上が駄目なら、
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下から?
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