イスラム国  (17.08.2014)

シリア内戦に、同じスンニ派のサウジアラビアやカターの財政援助を受けたイスラム原理主義者が参戦すると、豊富な武器と補給で反政府軍の中核を形成するようになった。化学兵器の投入をきっかけに軍事介入を決意しかけていた米国は、この現状をみて二の足をふんだ。ここでアサド政権に決定的な打撃を与えてしまうと、イスラム原理主義者が勝利して、今度はもっと手ごわいイスラム原理主義者と戦わなければならない。そこで米国は介入を棚上げ、気に入らない両者をどちらかが勝つまで最後まで戦わせることにした。この米国の戦略が思わぬ副作用を生み出した。シリア国内で攻勢が行き詰ったイスラム原理主義者は方向転換、イラク国内でその勢力を一気に広め始めた。

イスラム教スンニ派は、親分であったサダム フセインの失脚後、国内では冷や飯を食わされていた。多数派のシーア派から選出された首相が、「これまでのお礼」とばかりに露骨なシーア派優遇政策を取ったので、これまで国の中枢に居たエリートや軍人は冷や飯を食わされる羽目になった。そこへ同じスンニ派の兄弟が東からやってきた。意気投合した両者は政府の影響力の薄い北部国境地帯で勢力を拡大して、冷遇のお礼を言うべくバクダットに向けて南下を始めた。しかしまだ機能する空軍を有する政府軍に、バクダット侵攻を阻まれた。そこでテロリストは方向転換、北部のクルド人居住地域で勢力地域の拡大を始めた。その方法はテロリストに名前に恥じない残忍な方法で、男性住人は斬首され、殺害されなかった女性は奴隷として連れ去られた。子供でも容赦しないそのテロリストの残忍さに驚いた住民は、着の身着のままで逃げ出した。

山岳地帯に逃げ込んだ異教徒に対して、テロリストは迫撃砲の砲撃や機関銃の掃射を浴びせた。全滅するのは時間の問題であったが、ここでやっと米国が、しかし唯一米国がこの難民の救援に乗り出した。テロリストの車両を爆撃してその進出を阻むと、地上のクルド人の自衛軍が反撃に出てテロリストを押し戻した。この間、クルド人難民は45度にも達する真夏のイラク北部の山岳地帯で水も食料もない状態で孤立、弱いものからばたばたを死んでいった。米国は攻撃と平行して食料の投下を始めた。その後、英国などもこの食料投下任務に参加する意向を示したが、この危機的な時期に難民にまだなんとか間に合って届いたのはアメリカの支援だけだった。

その後、イラク軍のヘリが食料を積んで難民が孤立するこの山岳地帯に到達、食料を投下した。すると難民は投下された食料はそっちのけでヘリコプターに向けて走り出した。食料を確保してこの場に残るよりも、ヘリに乗ることで危険を脱すると直感的に感じたが故の行動であった。ヘリに跳び乗った難民は最初は状況が理解できず、目を見開いて緊張に張り詰めていたが、ヘリが上昇すると緊張が解けて次々に泣き出した

水戸黄門よろしく、「許される行為ではない。」と見解を出すことで一件落着した日本と違って、ドイツ政府はすぐに人道支援を約束した。しかし目の前で民族が虐殺されているのに、「人道支援だけでいいのか。」という議論が高まった。ドイツの戦闘機を送って難民をテロリストから守ることができないなら、せめてドイツの武器を提供して、難民の生命を守るべきではないのか。しかしドイツには、「係争国には武器を輸出しない。」という武器輸出の制限があり、「人道上必要だ。」というだけで、兵器を送ることはできない。ところがここで、「絶対反対」としか言わない日本の野党と異なり、ドイツでは野党までものがドイツの武器輸出を「一定の条件下では考えられる。」と理解を示した。国防大臣は、「大量殺戮がドイツの武器供給なしでは避けられないなら、やむを得ない。」と見解を示すと、首相もこれを肯定した。しかしドイツからの武器の供給は国内での法律面の整備も必要な為、時間がかかる。その時間が今はない。そこでEUは、「武器供給が国内の法律で縛られていない国(主にイタリア、フランス等)が、これを実行する事を許可する。」と決定、早速13日には最初のフランス製の武器がイラクに向けて出発した。

ロシアへの武器輸出が禁止になった今、世界第三位の武器輸出国であるドイツは、その製品の受け取り先の開拓に多大な関心がある。イラクは石油大国なので、サウジアラビアに次ぐ上客になる可能性がある。今後、兵器産業から政府への圧力が増して、ドイツ製の武器供給が決定される事態になるかもしれない。最近、世界の武器市場への復活を宣言した日本は、国内ばかりに目を向けていなければ、これが大義名分がおまけでついでくる日本製の武器を届ける絶好の機会だったことに気づいていただろう。

編集後記
ドイツ政府はドイツ製の兵器の提供、それもイラク政府ではなく、イスラム原理主義者のテロにさらされているクルド人への提供を決定した。圧倒的な過半数を有する政府は日本のように閣議決定で済ませることもできるのに、国会で討論の後、兵器の輸出を決議する予定だ。提供される兵器は、テロリストの進撃を阻むため、暗視装置や対戦車ミサイルになる。この対戦車ミサイルは誘導が必要だが、暗視装置付きの代物で、2km先の装甲車を破壊できる。これによりクルド人はテロリストの射程外から攻撃が可能になり、戦術上、有利になる。もっとも誰でも打てるわけではないので、訓練が必要である。ドイツ政府は選ばれたクルド人兵士に、この訓練を施す予定だ。クルド人はドイツ軍の小銃、G36を名指して要求している。これを製造しているヘックラー&コッホ社も輸出したくて仕方がないが、トルコへの懸念もあり、ドイツ政府は慎重だ。その代わり、ドイツが第二次大戦に開発、戦後、ソビエトでコピーされてAK47のモデルにもなったG42が、まだ大量に残っている。それもイタリアに。これをクルド人に提供したいというイタリア政府からの打診を、ドイツ政府は了解した。製造から70年も経っている小銃が実戦で使用されるのである。流石、ドイツ製。
 

逃げ惑う難民は、
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靴さえもはいていない。
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