模型自動車 (11.09.2014)

アニメはてっきり子供の娯楽とばかり思ってたら、日本では大人までこれに熱中している。あまつさえ、「二次元コンプレックス」という言葉までできており、大人は日本独特の抑圧された社会から現実逃避して、夢の世界にそこに心のよりどころを求めている。その心理を知ってか、各放送局はこぞって天気予報にアニメを登場させている。世界博と言えど、天気予報にまでアニメが登場するのは、日本だけだ。ドイツに来ても、「ガンダムのモデルは何処で買えますか。」と、親に文句を言われることのない初月給の費やし方を腐心している日本人までいる。アニメ世代の青年が、社会に出てもアニメの世界から抜け出せないのは、日本では当たり前かもしれないが、日本の外から見るとかなり奇怪な光景だ。

残りの世界では、模型、それも車両の模型に人気がある。日本でも電車の模型は人気だが、欧米では精巧な車のモデルに人気がある。特にドイツ製のモデルはモデルの中の最高峰とされている。ハードに強いドイツ人らしく、精密機械で削った6800もの部品を組み合わせて作っており、展示会などに出展されると目玉商品で収集家の羨望の的だ。このモデルがオークションに出されると、3万ユーロを越える値段で落札されることもある。まさに実物の自動車と大差ない。ところがこの高価な自動車模型、ドイツの刑務所で、それも製造費わずか数百ユーロで製作されていることは、収集家さえも知らない。

フライブルクの刑務所に殺人の罪で収容されていた囚人が、自由時間を利用して精密な自動車模型を製造した。これを観た刑務所の職員はその器用な腕前に感服、「これなら金を払って買う人がいるぞ。」と請合った。この殺人犯が刑期を終えて出獄すると(ドイツでは殺人でも模範囚なら5年で仮釈放)、この計画を実行に移すべくパートナーを探した。噂を聞きつけたフランス人の投資家とフランス人の技術者が、このプランに興味を見せた。投資家が金を出し、技術者が必要な工具を揃えた仕事場を準備した。この会社は三人の頭文字を取って、SAPOR Modelltechnikという名前に決定、いざ、モデルの製造にかかろうとしていた矢先、またしてもこの男が逮捕されてしまった。

その後の取調べで、さらに二人を殺害(合計三人)している事が判明した為、この男の精神鑑定が行われた。そこには本人(ローランド)は、幼少の頃に虐待された経験を持っており、劣等感に悩まされていた。それに己の同性愛が加わり、自分自身を激しく憎んでおり、あるささいなきっかけが殺人へと衝動的に取り立てているため、今後も殺人を犯す危険があるとされた。同時に145という非常に高い知能指数が確認された為、ローランドは刑務所ではなく、精神病棟へ収容されることになった。ところがである。精神病棟での仕事には、ただでも知能指数の高くない囚人を対象にしており、その中でも精神患者向けの仕事は、紙パックを折りたたむ単純な仕事しかなかった。この単調な仕事をする事を拒絶したローランドは、フライブルクの刑務所で作成した車の模型を精神病棟の責任者に見せ付けて、同じ仕事がしたいと告げた。

責任者はこの自動車模型を一目見るなり、「これは儲かる!」と直感、早速、精神病棟内に作業所をこしらえると、補助の囚人を10人もつけてやった。こうしてローランドは好きな自動車模型作りに熱中する事ができることとなった。もっとも、問題がないわけではなかった。まずローランドはすでにフライブルク時代にSAPOR Modelltechnikという会社を作っており、今でもこの会社は登記されていた。ところが当時の会社創立者の一人が、「俺は降りる。」と言い出したので、この会社に空席ができた。本当は自分の名前を会社の登記名簿に書きたいが、自分の精神病棟で作らせている会社の名義人に自分が納まるのは、仕事上の規制があって無理だった。そこで妻を会社の名義人に登録する事で、この問題をクリアした。

そしての刑務所で作られた車は、モデル業界で絶賛を浴びて、一躍有名になった。オークションでは邦貨で400万円を越える値を付けた。その一方でローランドのお給料は138ユーロ。200%を越える利益率である(通常の会社なら8~10%の利益率)。それでもちゃんと利益を配分すれば問題がなかったろうに、もう一人の会社の創設者には、「あまり儲かっていない。」と偽の数字を報告して黙らせた。こうしてぼろ儲けする事ができたが、困ったことに、この精病棟の責任者の妻がバイエルン州議会選挙に出馬して、なんと当選してしまった。議員はアルバイト(副収入)を報告する義務があるので、妻の名義でボロ儲けしていたのがばれてしまう。そこで急遽、対策に迫られ、この機会に売却してしまうことにした。会社がなければ、足がつかない筈だ。会社の創設者のフランス人もこれに同意したので、200%を越える利益率を誇るの会社であるから、売却はすんなり行った。

ところがである。ちゃんと会社の売却益を皆で公平に分ければいいのに、大部分を独り占めして、何も知らないフランス人には、申し訳程度しか払わなかった。しかし細かいことに拘らないフランス人は、お金には困らない身分であった上、元来、全損益で終わる筈だった事業から、少しでもお金が入ってくることに満足した。この一件はこれで一件落着するかに見えたが、偶然、このフランス人がかっての自分の会社で製造されたいたモデルが、精神病科の責任者の言う「せいぜい千、よくても二千ユーロ」でななく、数万ユーロで販売されていた事実を知ってしまった。当然、会社の売却額ももっと高いに違いない。フランス人はこれまでの会社の経理、そして会社売却の契約の移しを要求したが、ドイツ人に無視された。こうしてミュンヘンの地方裁判所に詐欺でこの男とその妻を訴えたのが、事の発端である。

この精神病棟の妻はそうこうする内に出世して、今やバイエルン州政府のCSUの幹事長の役職に付き、密かに党首兼州知事のゼーホーファー氏の後継者と噂される立派な政治家になっていた。その政界の大物が詐欺で訴えられたのだ。このニュースが伝わると、大きな波紋が広がった。その後の報道で、模型自動車が刑務所の精神病棟で製造されている事実を始めて知った人は多かった。詐欺で訴えられた幹事長は、「州議会に選出される前の事で、選出されてからは夫名義になっているので、非難される謂われはない。」と自己弁護、ゼーホーファー氏も後継者をかばうことにした。ところがである。Haderthauer議員の言う、会社の名義変更は会社の創立者に知らされず、夫婦の間での取り込めであったことがわかると(そのような名義変更は無効だから)、ハーダタウアー議員の立場はぐっと悪くなった。すなわちハーダタウアー議員は会社を売却するまで会社の所有者であったから、会社の売却に責任がある。そしてフランス人の言う通り、ちゃんと利益を配分していなければ、彼女が詐欺を働いたことになる。
 
ハーダタウアー幹事長に対する非難は日に日に増していったが、本人は、「犯罪者を更正させるための善意に満ちた慈善事業である。」と自身の弁護を計った。噂では、党首のゼーホーファー氏は幹事長の自己弁護に大いに、不満だったそうだ。ここでミュンヘンの地検がいよいよ立件に向けて調査を始めた。これにより同議員の立場はすごぶる悪くなった。9月からはバイエルン州でも夏休みが終わり、州議会が始まる。ここで野党が黙って警察の調査の結果を待っている筈もなく、スムーズな議題の進展は望めないだろう。案の定、野党は州議会の始まりに、まずはハーダタウアー議員の証人喚問を行うことを要求してきた。そんな事をされては、州議会の進行は遅れ、予算や政令の議論が全く先に進まない。ここに至っては、州知事であり党首のゼーホーファー氏の一存次第である。幹事長の無実を信じているなら、証人喚問を受けいれることもできたが、議会進行が遅れる。さらにもし議員が有罪となれば、幹事長をかばった州知事に非難の矛先が向く。そんな危険を犯すだけの"Kredit"(信用)を、幹事長が党首に対して持っているのだろうか。

9月1日、短い予告でハーダタウアー議員が記者会見を告げると、皆、同議員の辞任発表を期待して、カメラマンを同行して会場に詰め掛けた。そして期待は裏切られなかった。「自己弁護に全力が必要とされるため。」という理由で幹事長から辞職すると発表した。ただし州議員の地位は、保有するという。ところが今度は税務署が家宅捜査に乗り出した。しまいにはミュンヘンの検察が、バイエルン議会に同議員の議員特権の取り消しを申請して、今後はハーダタウアー議員は議席も失い、最後には起訴される可能性が高くなって来た。これぞバイエルン版の、「ミイラ取りがミイラになる。」である。

編集後記
家宅捜査の結果、ハーダタウアー(元)幹事長は会社の売り上げを税務署に対しても正しく申告しておらず、14万ユーロを超える額を脱税している事が明らかになった。こうして会社の共同所有者への詐欺が明らかになっただけでなく、今度は脱税容疑で起訴される可能性まで出てきた。流石は百戦錬磨のゼーホーファー氏。ここでも彼の判断は今回も正しかった。
          

連続殺人犯の作る模型自動車で、
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夫婦でぼろ儲け
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するも、欲を出しすぎて辞任に追い込まれる。
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