Fotogen (06.10.2014)

"Fotogen"というドイツ語がある。日本語で、「写真写りがいい。」という意味だ。日本の有権者と違い、欧州の有権者は外見で政治家を選ぶことがないので、政治家に外見はそれほど重要ではない。ドイツの首相を観てみれば、納得するだろう。だからと言って政治家がカメラの前で好んでポーズを取りたがるのは、アジアでも西欧でも同じである。新聞、雑誌に載る回数が増えれば、それだけ知名度が増し、次の選挙で優位になるからだ。これが原因で稀に"Fotogen"を持つ政治家は、まるでポップスター並みのポーズで写真を撮らせる。そのような政治家は往々にして能力よりもエゴの方が発達しているので、遅かれ早かれ、失脚する。そのParadebeispiel"(典型的な例)が、グッテンベルク国防大臣だった。

新しく国防大臣に就任したフォン デア ライン大臣も"Fotogen"を持つ大臣で、好んでポーズを撮った。「前線で戦う将兵を奨励する。」という建前でアフガニスタンを訪問すると、兵士と記念撮影した。写真撮影が済み飛行場に向かったが、それだけでは不十分と感じたらしく、飛行場でもさまざまな角度でポーズを取り巻くった。お陰で雑誌に登場する度に女史の知名度と人気は上昇して、これに比例して"Fotogen"を持ち合わせてない同僚の政治家、それれも連立与党内での彼女に対する視線は冷ややかさを増した。しかし大臣は雑誌に載った自分の写真に悦に入ってしまい、こうした周囲の妬みには気がつかなかった。しかし彼女に対する不満は表面化こそしなかったが、与党内でもくすぶり続けた。

国防大臣の「ドイツで一番魅力的な雇用主」になるという就任時の所信表明に期待していた将兵は、まずは落胆させられることとなった。これまでの歴代の大臣と同じように、軍を自身の宣伝に使うことに熱心で、予告された改善は掛け声だけで終わるかのように見えた。その一方で、改善改革、すべき問題は山積している。そこで軍の上層部は、大臣にお灸を据えることにした。

何処の国の軍隊でも、ほぼ毎月、装備品の状況をチェックしている。軍の上層部はこうして軍の稼働状況を把握している。これを行うことで、出動命令が下れば、瞬時にどこの部隊がどの規模で出動可能かわかる。一般には、例えば戦車の装備が100台あれば、100台出動できると思われるが、そうは問屋が卸さない。平和時の軍隊では大型装備の1~2割程度が整備中か整備待ちで、動く事はできるが、機能を100%出せる状況にはない。「頑丈で壊れることがない。」と思われる戦車も、対応年数が40年にも達するので、しょっちゅう部品交換しなくてはならない。地上を走行する車両でこの様なので、飛行機やヘリなどはもっと頻繁に部品交換が必要になる。

ところが乗用車と違って兵器の部品の交換は、そう簡単には行かない。中央補給所に在庫があれば比較的早期に部品が届くが、高価な部品、例えば数千万もする戦車砲や、戦闘機、輸送機のエンジンなどは、在庫が少ない。戦争をしてない国の軍隊では、装備調達費が限られているので、高価な部品は最低限しか注文できない為だ。そして補給所の部品が使用されてしまうと、翌年の予算が出るまで部品を注文できない。そしてようやく予算が出て部品を製造元に注文しても、数千万もする部品は注文製造で、部品が届くまでさらに半年以上かかることも珍しくない。こうして装備品が古くなるに反比例して、装備品の稼働率が落ちていく。どのくらいの装備が実戦投入できるのか、その数字は毎月、国防大臣に届けられるが、これは国家機密である。「整備中で今月は戦闘機が飛べない。」と分かれば、ロシアが軍を進めてくるから、国の最高機密だ。

その国家機密がドイツの週刊誌、"Spiegel"に暴露された。そこには国防の要であるドイツ空軍が欠陥と部品の欠如で飛ぶことができず、空軍とは名ばかりで地上勤務を強いられていることが報道されていた。まずは欧州防衛を担う迎撃戦闘機、"Eurofighter"だが、機体後部に亀裂が見つかり109機の内、100%稼動可能なのはたったの42機というお粗末な有様だった。輸送ヘリコプターCH-53は67機装備されているが、7機のみ離着陸が可能。別の輸送ヘリ、NH-90も同じ33機中、5機が離陸可能。ドイツ軍の海外派兵に欠かせない輸送機C-160は56機中、21機が離陸可能であった。輸送機は主に交換部品の欠如により、修理されないままに整備待機中。Eurofighterに至っては製作上の欠陥で、製造元がこの欠陥を改善するまで飛ぶことができない。お陰でロシアのバルト三国への侵略を防ぐためにリトアニアに派遣される筈だったEurofighterは、派遣不可能となった。アフガニスタンで任務を終えたドイツ兵は、輸送機が飛ばないので、帰国できず、アフガニスタンで待機中だ。そこで軍が通常はメルケル首相の海外訪問に使用される首相専用機を、兵隊の帰還に使用できないか調整中である。

戦闘機の欠陥を認めた製造元であるエアバス社は、戦闘機の耐久年数を3000時間から半分の1500時間にする事で、「ちゃんと契約を守っています。」と言い訳したが、冗談を言う時期が悪かった。ロシアの脅威が鮮明になった今、情けない言い訳を聞かされた国、特にロシアの危機にさらされている国は、マジで怒った。オーストリアはこの戦闘機を導入するつもりはなかったが、エアバスから賄賂をもらった政治家が契約書にサインをしてしまい、高い買い物をしまった。以来、この契約を破棄する機会を待っていたので、「待ってました!」とばかりに、この機会に契約不履行を理由に契約の破棄を検討している。ドイツ軍も、「欠陥が改善されるまで今後、新しい戦闘機の納入を中止する。」とコメント、エアバス社に耐久時間の変更ではない、真面目な対応を求めている。

このような情報は、国の防衛能力を暴露するものなので、軍の上層部のみが把握している。そして軍のトップである参謀総長(あるいはその連絡将校)が、これを国防大臣に通達する。その後、国防大臣は国会の防衛委員会にて国の防衛体制を報告するものである。ところが写真撮影に熱中するあまり、国防大臣はこの報告を怠った。国防委員会のメンバーは国防大臣ではなく、週刊誌から由々しき国防体制を読むことになり、ご機嫌斜めである。委員会のメンバーがメデイアに「報道は本当なんですか。」と聞かれ、「国防体制はメデイアで公に議論するものではない。」とぶっきらぼうに回答した。こうして野党、防衛委員会のメンバーは言うに及ばず、与党の議員まで、フォン デア ライン大臣の判断能力に疑問を抱き始めた。

集中砲火に遭ったフォン デア ライン大臣は、1.欠陥装備品を届けた産業に責任がある。2.装備品の故障、部品の欠如は、今になって始まったものではない。何もしなかったのが前任者の責任である。3.装備品を修理するにも、部品を注文するにも金が要るので、非難する前にもっと予算を増やしてくれ。と反論した。1~2はもっともな話であるが、3は必ずしも当てはまらない。ドイツ軍は2013年に装備品の購入に割り当てられた予算の内、15億ユーロを使用しないまま残してしまった。今の予算であっても、ちゃんと部品を注文していえれば、今のような憐れな状況は多少なりとも改善できた筈である。去年、国防大臣に就任、その後、毎月報告を受けていたフォン デア ライン大臣は、報告書を真面目に読んでいればこれに対処する時間は十分にあった。たが大臣の関心は別の所にあった。
 
面白いエピソードがある。ドイツ空軍の惨状がほぼ毎日報道されている中、「エボラと戦う!」として西アフリカで活躍すべくC-160輸送機を派遣した。国防大臣は、これで「ドイツ軍はちゃんと機能している。」という姿をPRしたかったのだが、輸送機は故障の為、グランカナリア島に緊急着陸して、修理待機。結局、ドイツ本土から修理班と部品を運び込むことになった。この修理が長引きそうなので、数少ない稼働中のC-160の残りの1機を別途、西アフリカに派遣する羽目になり、恥の上塗りをした。

このドイツ空軍の惨状を国防委員会の前で釈明すべく、国防大臣は5人の将軍を証人喚問に出頭させた。ところが一番の責任者である大臣は、この委員会に欠席した。というのもドイツ軍はイスラム国対策でクルド人に対戦車ミサイルを提供するが、クルド人兵士との記念撮影のアポイントが入っていたのだ。そしてまさに大臣がクルド人兵士と記念撮影をしているまさにそのとき、クルド人に届ける武器を積んだドイツ軍の輸送機が故障でブルガリアに着陸、ここから動けなくなってしまった。クルド人兵士に幾ら教育を施しても、肝心の武器が届かないと、それも間に合って届かなければ、意味がない。これまで与党の議員は直接の非難は我慢していたが、このていたらくを見せられて、「写真撮影よりも任務を優先すべきだ。」と苦言を呈している。写真撮影で人気、知名度の上昇を期待した国防大臣だったが、今はまさに逆効果。女史がポーズを取るたびに、非難の声が高くなってる。手遅れになる前に国防大臣は事態を収拾できるだろうか?

皆まで言えば、製造開始から20年も経ってやっと導入された戦闘ヘリ、"Tiger"は、飛行中に対戦車とロケット弾を丸ごと失った。情けない事に、風の抵抗に耐えられなかったのだ。海軍で使用している多目的ヘリ、Sea Lynxには20cmもの亀裂が複数見つかり、すべてのヘリの離陸許可が取り消された。Sea Kingも似たような状態で、21機の内、3機のみ着陸可能である。3年前に納入される筈だった輸送機、A400Mは未だに故障と戦っている。製造元は、「9月に1機納入できるが、搭載能力は限定される。」と、完成してない欠陥機を納入するつもりである。国防大臣はこれに対して、相当の割引、そして欠陥箇所の改修費を製造元が払うことを条件に、喉から手が出るほど欲しい輸送機を受け取る以意向だ。自衛隊ならともかく、あのドイツ人、あのドイツ軍が何故ここまで問題を放置していたのだろう。軍の上層部が現状を憂い、国家機密をこっそり外部に漏らしたのも、無理もない。


"Bin ich fotogen?"
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