景気後退 (15.10.2014)

夏が来るまでは、ドイツ経済は2014年に1.9%、2015年には2.0%成長すると予測されており、政治家は"die Aufschwung ist da!"(好景気はすぐそこに!)と声高に宣言していた。ところがこの秋に出た経済白書では、2014年の経済成長は1.3%に、2015年に至っては1.2%とかなり下方修正されていた。これに加え、8月のドイツの輸出高が7月と比較して5.8%も下落した。これだけ急激に輸出が減少したのは、2008年の秋に発生したリーマンショックが起した大不況で、2009年の初頭に輸出が急激に落ち込んで以来である。欧州経済の牽引車の役割を担っていたドイツ経済の失速が、欧州全域の景気に及ぼす悪影響の懸念から、世界中(少なくとも西欧)で株価が暴落した。ドイツに勝る世界第三の経済力を持つ日本の輸出高、工業生産高が減少しても、これほど世界の株式市場に影響を及ぼすことはない。

この輸出後退の主な原因は、ロシアへの経済制裁だ。ポーランドやギリシャが農産物をロシアに輸出している一方で、ドイツはロシアに工業製品を輸出していた。経済制裁の一環でドイツの目玉商品である工作機械(兵器の製作に欠かせない。)や軍需品の輸出ができなくなってしまった。フランスは半ば完成していた航空母艦の引き渡しをキャンセル、12億ユーロもの赤字を出すことになった。こうしてロシアへの輸出がEU諸国で次々にキャンセルされると、企業の業績が悪化、まだ業績が悪化していない企業でも、将来不安の為、投資を控えることにした。企業が投資を控えると、欧州内への輸出で最も稼いでた国、すなわちドイツへの反動となって、モロに輸出に影響を及ぼした。

ウクライナへのロシアの軍事干渉が発生する前に、欧州はデフレ傾向に悩んでいた。欧州の銀行は未だに不良債権を数大きく抱えており、銀行の経営立て直しを主眼に置いていた。金融危機の際、米国の中央銀行はすべての銀行に強制的に資金援助を受領させた。ドイツでは資金援助を受ける銀行に制裁を課すことにしたので、これを申請したのはわずか2-3の借金で首が回らない銀行に留まった。これが原因となって、米国の銀行業界は比較的早く業績を回復したが、欧州の銀行業界は未だに健康とは言えず、大病を患ったあとの療養中であった。また大病を患わないように、療養中の銀行は中央銀行から無利子で金を借りると、企業に融資する代わりに、中央銀行に預けて利子を確保した。企業は銀行から融資を得られず、商売拡大のチャンスがあっても、設備投資をして生産量を増やすなどできず、これを見逃すことになった。これで経済が活性化する筈もなく、中央銀行の度重なる、それも歴史上初めての(ほぼ)ゼロ金利政策にも関わらず、欧州内の物価上昇率は0.4%から0.3%に落ち込んでしまった

この段階でのロシアへの経済制裁は、わずかに回復基調にあった欧州の経済に悪影響を及ぼした。中東におけるイスラム国の台等、それに当初、過小評価したために手に負えなりつつあるエボラ熱なども、企業の投資熱を高めることにはならなかった。日本は欧州と似たような経済状況にあったが、首相はロシア大統領の訪日を実現させて、これを自身のPRに使用しようと計画していた。そこで日本だけは西欧によるロシアへの経済制裁には、リップサービスだけで参加した。ドイツの経済界も、「ロシアへの経済制裁はブーメランとなってドイツ、ひいては欧州経済に帰ってくるので、制裁を厳しくするべきではない。」と発言、日本のようにリップサービスだけで済ますように警告した。しかしメルケル首相は、「軍事力を背景に主権国家を侵略、その領土を国有化する行動は容認できるものではない。」と、三度に渡って強化された経済制裁を正当化した。

経済よりも正義を優先した欧州の政治家には、日本の政治家よりも節度やモラルがあったわけではない。欧州議会の大統領との会話で、「その気になれば、2週間でキエフを占領できる。」と平然と軍事力をふりかざすプーチン大統領に対して、小国の集まりである欧州は一致団結しなければならない。一国でも、「プーチン大統領の訪問を控えているので、この段階での経済制裁の強化には賛成できない。」という国があれば、足並みが乱れて、「EUは張子の虎。」と足元をみられてしまう。プーチン大統領が理解する言葉は、圧力だけである。ここで断固たる抵抗を示さなければ、ロシアは次はグルジア、モルドバ、そしてバルト三国に介入するだろう。賓客として国に招いて寿司を食わせて、柔道の組み手を実演させれば、北方領土が返却されると思っている日本人のナイーブな期待は、今回も実現しないだろう。西でその帝国の領土を広げているロシアが、東では領土の縮小を自発的に受け入れるわけがない。領土問題を抱えている日本は、隣国にその領土を武力で占領された場合に備えて、欧州と行動を合わせるべきだった。

ますます怪しくなる欧州の経済の雲行きを心配したIWF(英語ではIMF)は、「今はお金を節約する時期ではない。景気のともし火を消してしまわないように、インフラの整備などの景気対策プログラムを組むべきだ。」とドイツに要請した。しかしドイツの財務大臣は、「一回や二回、悪い経済指標が出たからといって、まるでドイツ経済がお先真っ暗であるように語るべきではない。」と反論、景気てこ入れを拒否した。この前の大不況でもメルケル首相は、「まずはどのような結果になるか見てから決めよう。」と、予防的な景気対策をことごとく拒否したので、今回もドイツの自主的な景気対策は期待はできそうにない。財務大臣の言う通り、「たかが1回や2回」の「修正」に過ぎず、経済がゆっくりと回復していくことを期待するしかなさそうだ。もし援護射撃があるとすれば、欧州中央銀行の量的緩和発表だが、アナリストの予測では今年中は「余程のことがない限り、年内は様子を見るだろう。」とのこと。果たして欧州はまたしても景気後退の波に飲まれるのか、それとも今が底辺で、ここから回復していくのだろうか。

憎っくき欧州にしてやったり!
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