地方空港 (13.11.2014)

ドイツでも地方に空港を建設するのが大いに流行った。ここで紹介したエアフルト空港は創業以来大赤字が続いており、2013年は州から460万ユーロの補助金をもらったのに、380万ユーロの赤字を出した。いい加減、現実を見てもよさそうな頃だが、空港の所有者であるテューリンゲン州は、「赤字を減少させることに成功した。」と未だに空港事業は成功すると信じている。「愚公山を移す。」というくらいだから、いずれは黒字になるのだろうか。まず無理だろう。というのもEU委員会が、「利用者が3百万に満たない小空港への助成金は、2024年までに終わらせよ。」と決議したからだ。今、4百万ユーロを超える補助金をもらって、3百万ユーロもの赤字を出している会社が、州からの補助金なしで存続できるわけがない。今すぐに空港を潰してしまえば、それだけ州の赤字は少なくて住む。しかしテューリンゲン州はそんな気はなさそうだ。幸い、政権にあった政党/CDUが政権を失いそうな雲行きなので、ひょっとすると何か異変が起こるかもしれない。

他の州/空港の失敗を見れば、「わが州では同じ失敗はしないぞ。」と、空港建設計画などは、"zum Teufel scheren!"(悪魔にくれてやれ!)と思うだろう。ところが政治家は、「同じ失敗はしないぞ!」と、やはり地方空港を建設してしまった。今度はカッセル空港だ。2013年4月にめでたくオープンした。総工事費用2億7千万ユーロ。当初の計画の2倍強である。あまりに費用がかさんだので、カッセル市は市内の図書館などの公共設備を閉館する事で、この巨額の費用を捻出した。空港事業団の空想、「毎年50万人の利用客が見込まれる。」とは予想外に、2013年にこの空港を利用したのは、たったの3万2千人だった。丸1年の操業ではなかったとしても、どんなに贔屓目に見ても、年間50万人という数は空想の産物である。大体、カッセル市の人口は20万人にも足りない上、周囲にはハノファー空港、ドルトムント空港、デユッセルドルフ空港、ケルンボン空港、ライプチッヒ空港、そしてフランクフルト空港がある。日本で言えばちょど人口が20万程度の三重県の鈴鹿市が、周辺に名古屋空港、関西空港があるのに、独自の空港を作るようなもの。50万の利用客なんて夢の夢。一体、どういう試算をしたら、50万人の利用客という数字になるのだろう。

この数字は空港利用訳の見積もりをしている、"Gutachter"(監査人)が出した数字である。この監査人は、かってエアフルト空港などの地方空港の開設に際して見積もりを出した実績がある。すなわちこの監査人に監査を依頼すれば、空港事業団の希望する監査結果が出てくるわけだ。その代償としてこの監査人は、空港事業のおいしい役職を頂戴するので、空港が倒産するまでおいしいお給料が毎月入ってくる。関係者にとっては、まさにウイン ウインの状況だ。だから「毎年50万人の利用客が見込まれる。」ということになった。その根拠は最大のライバルであるハノーファー空港。この空港はそれでも年間利用者が50万人に達する。しかしドルトムント空港に至っては、利用客は年間20万人にも達しない。ドルトムントよりさらに人口の少ないカッセルに空港を作り、周囲の空港と競争しながら、50万人の利用者が出るわけがない。

それでも100歩譲って目標の50万人の利用者に達したとしよう。その鑑定書には、「空港が建設されることにより、空港内に雇用が創設され、被雇用者の払う税金で市の財政は改善される。さらにその被雇用者の購買力で、地方の経済活動は活性化する。」と、まるで空港建設は"Allheilmittel"(万能に効く特効薬)であるかのような内容である。しかし実際に50万人の利用客があるハノーファー空港は赤字経営なのだ。そもそもドイツで黒字の空港は、デユッセルドルフ、フランクフルト、ミュンヘン空港の3つだけ。その他の空港はすべて赤字操業だ。利用客が100万人に満たない空港は、どんなに知恵を絞っても黒字になることはない。この事実を見ないで、田舎の空き地に空港を作れば利用客が増え、地方は活性化、経済が潤うなんてのは夢物語でしかない。

もうひとつその例を紹介しておこう。ドイツの一番西にあるRheinland-Pfalz州も、同じ病気にかかった。国の一番西の端(人口が少ない)という地理上の不利から、この州には(民間の)空港がなかった。ただし戦略上には重要な場所であった為、フランス軍の空軍基地があった。この州が沖縄のようにドイツに返還されてから、空軍の飛行場は米軍の支配下に移った。しかし維持費がかさみ1993年に閉鎖になった。その際に州は、「これを民間の空港として使用しよう!」と思いついた。「すでに空港は存在しているので、あとはこれを民間の空港に変換させるだけなので金もかからない。」という理由だった。一見もっともな経済理論で、存在している空港をみすみす閉鎖するのは「もったいない。」ように思えた。そこでプレハブの小屋を建てると、民間の空港として使用されることになった。ただし、地名を取って「ハーン空港」では、誰も場所を想像できないので、125kmも離れているフランクフルトの名前を拝借して、「フランクフルト-ハーン空港」と命名された。

最初は誰の興味もひかなかった地方空港だったが、「お安くしますよ。」と空港使用料を割引して、幾つかの航空会社を誘惑する事に成功した。1998年になると、ちょうど今の日本のようにドイツではLCC(格安航空会社が)乱立、戦国時代に突入した。空港使用料が安ければ、安いチケット代金でも儲けが出るので、格安航空会社は好んでこの空港を使用するようになった。行け行けどんどんになると、ハーン空港は滑走路を延長、大きな飛行機、とりわけ金になる貨物機が夜間にも離着陸できるようにした。2008年には空港利用者数は地方空港としては立派すぎる395万人にも達し、まさに飛ぶ鳥を追い落とす勢いだった。これを見ていた本家のフランクフルト空港が、ハーン空港の事業に参加するほど、「第二のフランクフルト空港」としてその存在を確立したかのようにみえた。しかしここで自転車操業の弱点が露呈した

空港使用料を割り引いていたので、395万人もの利用客数にもかかわらず、儲けがほとんどなかった。「これでは投資をした意味がない。」と本家フランクフルト空港は、空港使用料の引き上げを要求した。するとこの空港をドイツ国内のメイン空港として利用していたアイルランドのライアンエアーは、「それでは儲けが減る。」と空港使用料の値上げに反対した。ライアンエアーはいまやこの空港の最大の顧客となっており、その要求に負けて、ハーン空港は利用料金の値上げを見送った。すると今度はフランクフルト空港が、「将来性がない。」と、投資していた資本を引き上げてしまった。こうしてハーン空港の資本にぽっかり穴が開くことになった。やむなく州政府がこの穴を塞ぎ、空港事業の82.5%は州政府の所有となった。悪いことは重なるもので、ここで原油価格が高騰、さらには2008年のリーマンショック後の経済不況で、乗客の数が減少を始めた。それでも2010年にはまだ340万人の利用者があったが、1100万ユーロ近い大赤字を出した。この数字を見えれば、空港がどれだけ空港使用料を割引していたのかよくわかる。実際の所、ハーン空港は飛行機が離着陸する度に、お金を払っている始末だった。

しかし最大の不運はこれからやってきた。ドイツ政府が、"Ticketsteuer、"正式にはLuftverkehrabgabeを導入した。これはドイツ国内の空港から離着陸する便にかかる税金で、短距離で7,5ユーロ/片道、中距離で23,43ユーロ/片道、長距離で42,18ユーロ/片道、チケット代金に上乗せされることになった。この頃になると、かっては乱立していた格安航空会社のほとんどは吸収されるか、倒産直前で、欧州内で健全なまま生き残ったLCCはライアンエアーとEasy Jetだけだった。そのライアンエアーは、「チケット税が導入されると、ハブ空港をハーン空港から国外に移す。」とドイツ政府を脅すほどの影響力をもっていた。このチケット税が(脅しにも関わらず)2012年から実際に導入されると、ライアン航空は便数を減らした。まだハーン空港を使っていた他の航空会社も、この路線を廃止した。結果、2013年にハーン空港を利用した乗客は266万人まで落ち込んだ。空港は従業員を減らすなどの措置を取ったが、毎年、1100万ユーロの大赤字を出し続けた。2013年にはいよいよ空港の資金が底をつき、「援助金を出してくれないと倒産します。」と空港の所有者を脅し始めた。

「今、政権にある時に倒産してもらってはマズイ。」と州政府は8000万ユーロも融資したが、ドブに捨てたもの同然だった。「これ以上の財政援助をすると、次の選挙で負ける。」と悟った州政府は、「チケット税をなくしてしまえば、また航空会社が戻ってきてきてくれる。」とわらをも掴む気持ちで、ベルリンの中央政府の決定に反して、「地方空港は隣国の空港と競争しなければならないのに、チケット税により不利な立場に追いやられた。これは基本的な権利を侵害するもので、違法である。」と裁判所に訴えた。11月5日、最高裁でこの件の判決が出た。最高裁は、「この税はドイツ国内を離発着するすべての乗客機に対して課せられているので公平であり、合法だ。」と判決、州政府の最後の望みを打ち砕いた。空港利用客と利用してくれる航空会社が減り続ける中、今後、ハーン空港はどれだけ操業を続けられだろう。そもそも問題の根源である空港利用料金を値上げすれば収益は改善するが、そんな事をするとライアンエアーの逆鱗に触れて、さらに便数を減らされる。まさに八方塞の状況である。

地方空港をとりまく環境は、日本も同じ。地元の岡山空港、地方空港なのに利用者数が100万人もいるのが、1億円を超える赤字を出している。しかるに二つ目のさらに小さい空港を維持しており、この二つ目の空港はもっと大きな1,85億円もの赤字を出している。しかし県政は何も処置を取らない。メデイアも、「岡山市内に2つの赤字空港を維持する意味は何処にあるのか。」と問うことはない。その代わりに政府に助成金を請い、いつまでも赤字経営を続行、毎年、税金が無駄使いされている。そんな金があれば、40年前から改善されていない市のインフラを整備して魅力的な街作りを目指せばいいのだが、「どうせ使われるのは税金だから。」とこの状態を20数年間放置、政府から助成金を取ることに苦心している。これでは財政破綻したギリシャと何も変わらない。
          

かってはルフトハンザを追い越す勢いだったエア ベルリン、
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今やドイツのスカイマークになりそうだ。

          
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