勝ち組の末路 (22.11.2014)

満面に笑みを浮かべているこの人物、ご存知だろうか。そう、かってはドイツ最大のメデイア帝国、Bertelsmannの社長に就任してキャリアを最上階まで上り詰めた後、その腕を買われて経営危機に陥ったドイツの大手デパート、Karstadtの社長に就任したドイツを代表するトップマネージャー(日本語では社長という)のMiddelhoff氏だ。氏はその手腕を遺憾なく発揮、5年でデパートを倒産させることに成功した。倒産から5年経った今、氏の態度が豹変している。一体、何があったのだろう。

お相撲さんは引退後、食事の量を減らすのに苦労する。これまで10数年、大量の食事を取っていたのに、「明日から3000カロリーに減らせ。」と言っても、簡単にできるものではない。ミドルホフ氏も同じ悩みを抱えていた。もっともそれは食事でなく、その生活様式にあった。社長時代、国内の移動にはヘリコプターを、国外への移動には旅客機のファーストクラスではなく、プリバートジェットを借りて飛んだ。そして搾り取るだけ搾り取った会社が倒産すると、これまで搾り取った金でフランスの Saint-Tropez(映画祭で有名なカンヌから100Km。)に別荘を買った。ところが、「俺は勝ち組」とエゴが究極まで発達した氏には別荘だけでは不十分で、30Km離れたコートダジュールで超高級ヨットをレンタルした。氏はどうやって引退後もそんな豪華絢爛な生活を送ることができたのだろう。

氏はこれまで人生で、愚にもつかない話を「儲かる話」に変える話術を、匠の域にまで磨き上げていた。これにアルカンドーア(氏が棺桶に釘を売ったデパート)は見事に騙された。お金とは不思議なもので、すでに十分に持っている者は、もっと持ちたくなる。だから氏が大金をもっている鴨を見つけて、儲け話に説得する事はさほど難しくはなかった。こうして架空のビジネスをでっち上げ、お金儲けに目の眩んだお金持ちから数百万ユーロも騙し取ることに成功した。お金持ちが、「いつになったら、お金が儲かるのか。」と聞けば、「今、失敗するか成功するかの瀬戸際だ。すぐに追加の資金が居る。これがないと、今まで使った投資は無駄になる。」と錬金術氏も関心する話術で、さらに数百万ユーロせしめることに成功した。そしてこの金鶴が、アルカンドーアのようにこれ以上投資する金がないと見れば、「ビジネスは失敗した。」と告げ、次の甘い蜜をもとめて次のお金持ちを探しにかかった。

ところがである。あるお金持ちが恥をかくのを恐れず、「そうは問屋がおろさない。」とミドルホフ氏に払った680万ユーロの返却を求めて、エッセンの裁判所に取り立て請求を持ち込んだ。ミドルホフ氏はこれに反論する機会があったが、公判に現れなかったので、この要求は裁判所の強制取立人の手に移った。ところが氏はフランスの別荘に逃げていたので、ドイツの取立人には手が届かなかった。間の悪いことに、ミドルホフ氏が訴えられていたのは、これだけではない。コートダジュールの超高級ヨットのレンタル代金、250万ユーロの支払いがなされておらず、この件でも訴えられた。そしてアルカンドーア時代に利用したヘリコプターとプリバートジェットは、仕事ではなく、私用での使用だった。にもかかわらず、氏は会社に50万ユーロもの代金を払わせていた。さらに氏は会社が倒産寸前なのに、社長、すなわち自分に340万ユーロ(法貨でおよそ5億円)のボーナスを決済した。これが会社にとって、"Genickbruch"(首の骨の骨折という意味で、致命傷という意味で使われる。)となった。これらの支払いは会社資金の不当な流用として、債務者がミドルホフ氏に払い戻しを求めて訴えていたのだ。この公判に出頭した氏は、「葱をしょった鴨」のごとく、裁判所で取立人に捕ってしまった!

氏は、「そんな大金はもっていない。」と主張したが、ドイツではこれを証明しなければならない。そこで氏は裁判所でお財布を開けて、所有している現金を提示する必要に迫られた。かっては「飛ぶ鳥を追い落とす勢い」で、豪華絢爛な生活をしていたドイツのトップマネージャーのお財布には、現金が56ユーロしか入っていなった!ドイツの法律ではいくら借金があっても「最低限生活できる家具、現金は保有してよい。」とされており、この額面はこの限度額を下回るものであった。ドイツを代表する企業の社長を歴任、フランスに別荘を持ち、コートダジュールに超高級ヨットを浮かべていた「勝ち組」のミドルホフ氏の所持金は、生活保護以下なのだ。なんという凋落だろう。ところがこれはまだ底ではなかった。

この日、エッセンの地裁では氏が会社の経費で利用したヘリコプターやプリバートジェットの費用、50万ユーロの流用(及び脱税)件で公判が開かれていた。氏は、「ヘリコプターやプリバートジェットを利用する事でストレスなく移動できた。これはひいては会社の利益になった。」とお得意の論理で裁判官も丸め込めようとしたが、これまで老練な詐欺師を数え切れなく見てきた裁判官には、「その手」はお見通しだった。反省のそぶりさえも見せない氏に対して裁判官は、ドイツのトップマネージャーへの今後の見せしめとして、執行猶予なしの3年間の懲役刑を言い渡した

ドイツでは被告が判決を受け入れない場合、最高裁で判決が出るまで被告は原則として無罪とみなされる。当然、氏(の弁護士)は上告するから、氏は保釈条件を満たせば自由の身になる事ができる。ただしそれには逃亡の恐れがない場合に限られる。逃亡の危険(意志)がない事を証明するために、被告は保釈金を預けたり、パスポートを裁判所に預ける。そこでミドルホフ氏は裁判所にパスポートを提出したのだが、よっく見ると提出されたパスポートの期限が切れていた。なんと氏は、使い古された手で裁判所を騙して、所有している有効なパスポートで国外逃亡するつもりだったのだ。これを知らされた裁判官は、「逃亡の危険がある。」として、その場で氏を逮捕させ、氏はそのまま監獄に収容されることになった。憐れ。

フランスに別荘をもっていようが、豪華なヨットをもっていようが、所持金56ユーロで監獄に入っては、一体、何の役に立つだろう。氏に対してはまだ訴えが山積しており、今後、さらに有罪判決が出るだろうから、幾ら弁護士が抗議しても、遅かれ早かれ、氏の監獄生活は避けられない。これが出世の階段を上り詰めた「勝ち組み」の末路だ。そもそも金で人間を区別して「勝ち組」、「負け組み」と称する、その風潮が間違っている。人間の価値は所有している富や地位、その他の根拠のない杓子で測られるものではなく、社会に寄与、貢献したその度合いで計られるべきものだ。そのおかしな価値観の所有者が経済破綻して監獄に収容されるのを見るのは、不謹慎とはわかていても、なんと気分の良いことだろう。果たして彼は監獄で自分の誤りに気づくことができるだろうか。


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