"Hintertuer"(裏出口) (05.12.2014)

地球の温暖化が環境保護団体を除き、大きなテーマになっていなかった1990年、ドイツは10億3千万tの二酸化炭素を排出していた(統計はこちら)。その後、次第に地球温暖化が問題になり始めると、元々、化石燃料を輸入に頼っていたドイツでは、環境汚染を減らし、化石エネルギーへの依存度を減らす一石二鳥の手段である再生エネルギーの本格的な導入が始まった。その結果、ドイツは福島原発事故の前、2010年の排出量は8億3400万tで、12%も減少している。福島原発事故の後、多くの原発が稼動中止に追い込まれ、その代わりに"Klima-Killer"(環境殺し)として悪名高い石炭発電、それも特に有害な褐色石炭発電がフル稼働して発電量の不足分を補ったのに、2013年には排出量がさらに減少して7億5千900万tになっている。これは厳しい規制により、車の排出するガスに含まれる二酸化炭素の量が減少したり、家屋を改築して熱の遮断性を向上させて、暖房の消費量を下げたりと、国が主導して行ってきた環境対策の成果の賜物である。

日本は1990年、11億6千400万tの二酸化炭素を排出していた。ドイツよりも多い日本の人口を考えると、一人頭の排出量はドイツよりも少なかった。ドイツと同じように化石エネルギーを輸入に頼っている日本は、再生可能エネルギーには注目しないで、原発を増やすことで二酸化炭素の排出を減らせると考えた。ところがまだ原発がフル稼働している2010年には排出量は12%増加して、13億400万tに達した。「原発を再稼動させれば、二酸化炭素の排出量が減り、環境保護になる。」という政府の主張が真っ赤な嘘である何よりの証拠である。原発事故後、ようやく再生可能エネルギーの導入が始まったが、2013年には過去最高の13億9千500万tの二酸化炭素を排出している。両国共に、原発の休止で欠けた分を火力発電で補っているのに、日本だけ排出量が多くなっている。日本政府が再生エネルギーの構築を制限しないで、欧州の家屋と比較して驚くほど貧弱な日本の建物の熱の遮断性、気密性を改善する政策を推し進めていれば、ドイツと同じように排出量は削減できた。「原発が稼動していないので、一時的に二酸化炭素の排出量が増えている。」というのは、大本営発表同じ国民の目を事実から逸らすための言い訳だ。

日本と比べれば優等生に見えるドイツであるが、決してすんなりいったわけではない。欧州議会は2010年、「2020年までに1990年の排出量と比較して、20%減少させる。」と決議した。その翌年に福島原発事故が発生して、相変わらず原子力発電に頼るフランスと違ってドイツでは石炭発電に頼ることになった為、この目標到達が難しくなった。だからと言って、「特殊な事情なので、この取り決めは延長。」と日本のように期限を勝手に延長できるものではない。このままではこの目標値に達しない事は明らかなのに、産業大臣は、「石炭発電は欠かせないエネルギー源である。」と発言、引退後の就職先への売り込みに熱心な姿勢を見せた。「では大臣はどうやって、EU議会の取り決めを遵守するつもりですか。」と聞かれて困った大臣は、官僚にさまざまな状況を試算させてみた。ところがどんな想定の上に、何度計算しても、EUの決議を守ることができなかった。そこでわずか数日、同じ大臣が、「電力会社は2020年(あと5年しかない!)までに2千2百万tの二酸化炭素の排出を減らすべし。」とする政府の法案を準備している事を明らかにした。

電力会社にとっての不幸は、それだけでは収まらなかった。ドイツ政府は、「1990年の排出量と比較して、2020年までに二酸化炭素の排出量を40%減少させる。」と大風呂敷を広げた。なんとEUの取り決めの2倍量である。ドイツ政府は、「環境保護で(誰もお願いしていないのに)先駆者の役を演じる。」と言っている。果たしてそんな事が可能なのだろうか。環境汚染の悪玉である石炭発電では、1tの石炭を燃焼させると1tの二酸化炭素を出す。排出量を効果的に減らすには、石炭発電をさらに削ることが避けられない。この前までは「石炭発電は必要不可欠。」と言っておきながら、数週間後には、まるで「もう必要がなくなった。」といわんばかりだ。勿論、電力会社は抗議をしたが、日本の電力会社ほどの影響力はすでになく、陳情をまともに聞いてもらえなかった。「金のなる木」だった原発が運行中止、あるいは遅くても7年後にはすべて廃炉になる。唯一の金を稼ぐ手段として残っていた石炭発電も、一気に先が見えてきた。今後、20年に渡って原子炉の解体でとんでもない費用がこれから発生するのに、一体どうやって費用を払えばいいのだ!?

ドイツで最大の電力会社、Eonは奥の手を出してきた。12月1日、Eonは原子力、及び石炭、ガスを使っての火力発電事業から撤退、将来は再生可能エネルギーの発電のみ行うと発表した。すなわち子会社を設立して、この会社がこれまで通り原子力、ガス、石炭発電を行う。本社は再生エネルギーによる発電と、楽して儲かる送電線事業に集中するという、ある意味で画期的な事業案である。福島原発事後後も福島原発の廃炉に抵抗していた東京電力が、原子力、ガス、石炭発電から撤退するというようなものだ。東京電力がこれをやった日には負債しか残らないが、Eonにはこれまで養ってきた再生エネルギーのノウハウがある。ドイツの4大発電会社の中でこの分野に真っ先に事業を集中させることで、市場の確保を狙う目的だ。

日本と違ってドイツでは、風力、あるいは太陽発電などの再生可能エネルギーで発電された電気は優先的に送電線に送られる。結果として天気がいい日、風が強い日には、再生可能エネルギーが主役となり、火力発電はいつでも発電できるように待機していなくてはならない。しかし発電所は稼動して発電しない限り、儲けがなく、維持費ばかりかかるので、電力会社は軒並み、大赤字を出している。一方、日本では原子力、これが休止している限りは火力発電が最優先されるので、再生可能エネルギーで発電された電気は、「もう要りません。」と送電線につないでもらえない。だから、補助金目当てに、政府の奨励にのって太陽発電パネルに投資したのに、電気を買ってくれないというおかしなことになっている。すなわち今後、Eonが大規模に再生可能エネルギーで発電、その電気は優先的に送電線に送られている間、その他の電力会社は発電量が減るまで発電する事ができず、指を加えて眺めているしかない。

もっと素晴らしいのは、今後、天文学的な資金が要求される原発の解体だ。電力会社がこれまで貯めてきた金では到底足りない。電力会社は、「財団案」でこの問題を国に押し付けようとしたが、政府は興味を見せなった。これに変わるのが今回の子会社計画だ。原子炉の解体を始めて10数年もすれば用意していた資金は底をつく。金がないので会社は支払い不能に陥り倒産する。本来ならEonが最後まで責任を持って最後まで解体する事になるのだが、子会社は法律上、別の会社なので親会社は子会社が経営破たんしても、その債務を引き受ける義務はない。こうして解体半ばで止まってしまった場合は、国が税金を使って最後まで解体する事になる。こうしてEonはまんまと原発というお荷物を厄介払いすることに成功する。まさに裏出口("Hintertuer")からの見事な解決策といわざるを得ない。他の電力会社がこれに続くのは時間の問題だろう。
       
編集後記
9月10日、Eonは原子力発電所を子会社に移さず、親会社にて保持すると発表した。というのもドイツ政府が、原子力発電の解体から放射能汚染された廃棄物の管理までの責任を、例え子会社に業務を移管しても、親会社が負うとする法案を準備しているからだ。Eonはこの法案が成立するまえに、原子力発電を子会社に移転する案を廃案にする事で、「政府の決定ではなく、会社内の戦術上の決定です。」と面子を救うことくらいしかできなかった。もっともこのニュースが発表されと同社の株価は8%も下落。今年だけですでに同社の株は35%も下落している。会社は電気の値段の低下で空前の大赤字、原子力発電所という重荷を抱え、お先は真っ暗だ。


かってのお金のなる木は、いまや会社の重荷。  
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