"PEGIDA." (13.01.2015)

イスラム教に批判的なインド人作家(イギリス国籍)の著書を日本語に翻訳した大学教授が刺殺された。もう20年以上も昔の事なので、覚えている方は少ないだろう。最近ではパリで起きた原理主義者によるテロ事件も記憶に新しいが、ドイツにもイスラム原理主義者は多い。彼らはイスラム国と同じスンニ派の集団で、「イスラム教の布教を拒む者、布教活動を妨げる者には死を!」と21世紀の今、平気で叫んでいる。ドイツでは"Salafisten"と呼ばれ、憎しみと憤慨を撒き散らしている。特にその数が多いのがNRW州。その中でもボン、ゾーリンゲン、デインスラーケン、そしてメンヒェンェングラッドバッハは汚染度が高い。法を尊重する気がない彼らは、活動を邪魔する警察官を襲い、刃物で29人もの警察官を負傷させた。ドイツに滞在中、お遍路さんのように真っ白な服を着て髭を生やしている連中に遭遇すると、関わりあわないのが一番だ。

日本人にはそれで済むが、ドイツ人にとってはかなり深刻な問題だ。というのも原理主義者はドイツ国籍者だったり、あるいは外国籍でもドイツで生まれているので永住権を持っており、「ドイツの法を守らないなら、帰ってください。」と外国に追放する事ができない。挙句の果てに人生を布教活動に捧げているので、仕事をする時間がない。結果、ドイツ人の払う税金から社会保障費の給付を受けて生活しており、ドイツ人は原理主義者の布教活動を間接的に助けている。日本のような国なら何かの理由を見つけて生活保護を拒否するだろうが、ドイツは法治国家なので、そういうわけには行かない。憲法に書かれている権利は、体制を擁護する人ばかりではなく、これを否定する者にも適用される。これが法治国家である。だから生活保護は引き続き支給されている。

「原理主義者は出て行け!」と真っ先に街頭活動を始めたのは、"Pro-NRW"という右翼集団だ。ドイツの右翼集団は失業中のサッカーファンが多く、暴力団(マフィア)の影響力はそれほどない。原理主義者と右翼は犬猿の仲なので、両者が街中で遭遇すると遭遇戦が始まり、大騒動になる。ちょうど1920年代にナチス勢力が躍進して、支配権を巡り街頭で共産党員と街頭闘争を繰り広げているかのようなシーンが展開されている。しかし暴力で問題を解決する思想、団体はドイツでは人気がないので、両者共に市民からの支援はない。ところが2014年に入って、新しい運動が起こり始めた。

今もネオナチの思想の信奉者が多い東ドイツ、それもドレスデンで、"Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes"と言うドイツ人でなければ考えれない長い名前の団体が結成された。意訳すると「欧州のイスラム化と戦う欧州愛国者団」という意味だ。頭文字を取って"PEGIDA"(ペギーダ)と呼ぶ。当初、誰も注意を払わなかったが、2014年にイスラム国の残忍な行為がテレビで毎日のように報道され、さらには欧州でイスラム原理主義者のテロが起きると、この運動も賛同者を集め始めた。年末の抗議集会にはなんと15000人が参加した。ドレスデンは人口50万人なので、人口の3%がこのデモに参加している計算になる。日本で反原発の機運が高まった時、東京でデモに参加したのはたったの17000人だった。これは人口の0.012%に相当する。この数字を見れば、どれだけこの思想、「欧州のイスラム化を防ぐ。」が民衆の支持を受けているのかよくわかるだろう。

「そんなにデモの参加者が多いのは、ドイツ中からデモの参加者が終結したからだ。」という指摘はあまり的を得ていない。例えばケルンでは""Kögida"が、デユッセルドルフでは"Dügida"が、そしてボンでは"Bogida"が活動しており、わざわざドレスデンまで出かける必要はないからだ。この運動の考案は巧にも、"Wir sind das Volk."と言うスローガンを採用した。これは現在のドイツの国旗になっている「三色旗」が始めて登場した「3月革命」で民衆が叫んだ政治的なスローガンで、20世紀には東ドイツの共産政権に対してデモが広がった際も、このスローガンが叫ばれた。皆まで言えば、哲学者のハイデガーもこの言葉を使ったので、「理想求める正当な叫び。」というニュアンスが含まれている。このスローガンを聞くと、心の底でイスラム教に不信感を抱いていたドイツ人には、まるで笛に導かれるネズミのように、街頭に繰り出した。

じゃ、デモの発起者は崇高な理念にかられていたかと言えば、そうではない。執行部には筋金入りのネオナチで前科者が顔を連ねている。10年前まではネオナチ政党は地方議会で議席を獲得して、常にセンセーショナルに書きたがる日本のメデイアの言葉では、「ネオナチの躍進」と騒がれていたが、今や議席をすべて失い、記憶からも消え去ろうとしていた。ここまで来ると、これまでのスローガン、「外国人は出て行け!」では人が集まらないことが、血の巡りが悪い頭でもやっとわかった。そこでドイツ人の深層心理に隠れているイスラム教への不信感を煽ることにした。かって国会議事堂の放火がナチス政権を助けたように、イスラム国の台等、原理主義者によりテロは、"PEGIDA"をメインストリームに乗せることに貢献した。これが右翼思想の政治家が多い国だったら、「右向け右!」と一気に右翼一色になっていただろう。

ドイツの政治家がこの運動を真面目に取るまで時間はかかったが、「ドレスデンの大行進」を見ると、まずは首相が先頭に立って笛の音に踊らされないように警告を発した。その後、ペギーダのデモが予告されると、これに対抗するデモが告知されて、ペギーダのデモは行進できず、その場で解散させられるほどになった。もし日本で特定の外国人を排斥する運動が起きたとして、一体、市民はその外国人を守るために反対デモに参加するだろうか。それも大挙して。日本に住んでいると、「私はイスラム教徒ではないから、関係ない。」と思う方も多いだろう。しかしこれを許してしまうと、次はジプシーやユダヤ人が標的になる。「私は関係ないから。」という無関心がかってのドイツでナチスの台等を招いた。過去の失敗から教訓を学んだドイツでは、このような排斥運動には市民の関心が高い。もっとも反ペギーダのデモが大規模に起きているのは、旧西ドイツ地域に限られている。かっての東ドイツ地域ではネオナチの温床になっており、外国人の数は一番少ないのに、外国人排斥運動は根強い人気がある。

普段は利権を巡って争うことしか脳のない政党、政治家が、珍しく一致してペギーダに抗議している光景を見るのは、一外国人として心地よい。ただし、中にはこの機会に右翼からの票を確保しようとしている党もある。それは、新右翼政党のAfDだ。唯一、議員がペギーダのデモに参加している。靖国神社訪問で右翼の票を取り込もうとしている日本の政党、政治家と同じ発想だ。この党はこれまでEUに反対することで人気を伸ばしたが、ここに来て政党の本当の顔をさらした。
          
日本の政治家は外国人労働者受け入れにより労働力不足問題が解消ができるとして、規制を緩和、将来的には外国人労働者を受け入れる方向だ。すでに日本に住んでいる数少ない外国人だけで差別問題を抱えているのに、さらに外国人労働者を受け入れると、ますます問題を抱え込むことになる。しかるに日本政府は、「日本の規則を守るようにしっかり指導する事で、外国で起きている移民問題を未然に防ぐ。」と、まるで高校野球の選手宣誓のようなことを言っている。移民問題を抱えるドイツ、フランス政府が、何も指導していないと思っているのだろうか。一度指導をする事で、本人は言うに及ばず、この移民の子までもが生涯この指導に従うと考えている所が、島国らしくかなりナイーブだ。ドイツのようなリベラルな考えをする国で、この様なのだ。「外国に住んでいた。」というだけで日本国籍の日本人を差別する超保守的な日本では、外国人労働者を受け入れることで、大きな社会問題を抱え込む。取り返しのつかない決定をする前に、是非、ドイツに来て実情を視察するべきだ。
          

こちらは反イスラム派の行進。
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