Sozialwohnung (04.04.2015)

民主主義が根付いているドイツのような国でも、同じ政権が長期政権にあると、次第に長期政権に付き物の弊害が増えてくる。すでに10年以上政権にあるCDU/CSUの経済優先政策により、企業、お金持ちの富は増し、中間層が減少、社会的不安が生じるなど、あちこちでひずみが生じてきている。そのひとつがドイツにおける住宅事情だ。

かってドイツでは国が主導して、社会的弱者のために"Sozialwohnung"、日本で言うところの市営住宅を建設してきた。家賃が低いこのアパートは、外国人でも収入を証明すれば役所から書類が発行され、入居する事ができた。ところが景気が良かった1988年(コール首相政権下)、国による住宅補助を廃止して、その代わりに各州が社会的弱者の住宅確保の責任を持つとした。そんな課題を押し付けられても各州は、「嫌です。」というので、すでに国が建設していた国営住宅を、各地方自治体の財産とする事で、苦い薬を甘くして飲み込めるようにした。

国から国営住宅を譲り受けた地方自治体は、慢性的な資金難に悩んでいた。市の水道網を投資家に売って市がこれを投資家からレンタル、一時的に費用を安く抑えることで、市の財政をやりくりする自治体まであった。そんな時に国の所有物だった住宅が地方自治体にプレゼントされた。すると市は、「民間の十分に安いアパートがあるので、自治体が面倒を見る必要ない。」と考え、これを投資家に売ることで利益の確保に走った。こうして4百万戸あった国営(市営)住宅の数は、わずか3年後の2001年にはかっての180万戸に激減した。

さらには市営住宅の建築方法も変更された。これまでは国や市が住宅を建てていたが、これは金がかかる。そこで自治体が個人投資家に補助金を出し、投資方が市営住宅を建設する形にした。例えば総工事費の20%を補助金でまかなう場合は、20年間は家賃の上限が決められる。こうして収入の少ない人でも、家賃の安い市営住宅に入居する事ができた。かっての国営住宅は売りに出され数こそ減ったが、20年もの長期契約をしている市営住宅は残存しているので、ちょっと探せば市営住宅が見つかった。

事情が急変してきたのは、21世紀にはいってから。これまでは、郊外に一軒家を買って住むのがドイツ人の理想であった為、郊外の住宅地の家賃は、特に環境がいい場合は、市内よりも家賃が高かった。ところが次第にドイツ人の好みが変わってきた。ドイツ人も通勤時間が短くて済み、医者も簡単に見つかる市内に住むことを優先し始めた。こうしてドイツ人の大移動がゆっくりと、しかし着実に始まった。しかし市内の戸数は限られているので、次第に需要が供給を追い越した。2010年頃からこの傾向はさらに顕著になった。ベルリンではかっての東ドイツ地域が都市開発されて、首都らしい立派な景観を持つようになると、これまでは荒地だった場所や、ベルリンの壁の跡地にまでアパートの建築が始まった。市内に古いアパートを持っていた大家は、生涯に一度の大儲けのチャンスを見出した。政府の補助金(断熱効果を上げる改装工事にをすると補助金がもらえる。)をかしめると、築20年を越える古アパートを改装、高級アパートとして貸し出すことにした。

かっては首都なのに家賃が安い世界で稀な国だったベルリンは2015年まで毎年、8,2%も家賃が上昇している。昔から金持ちの町だったハンブルクでは毎年、10,5%、日本人の大好きなミュンヘンでは9,5%、お金持ちの銀行の町であるフランクフルトは9,3%も家賃が上昇、中間層、貧困層は少ないお給料から、毎年上昇する家賃を払う必要に迫られた。この傾向を見た地方自治体は、「市営住宅をもっと増やそう。」と考えず、「今、市営住宅を売ればもっといい金になる。」と市営住宅を個人投資家に売っぱらい始めた。可哀想なのは、こうした市営住宅に入っていた住人だ。「管理会社からの大切なお知らせ。」が届くと、そこにはアパートの所有者が替わると告げられていた。同時に、高級住宅へ変身するのに必要な改装工事が告げられた。そして工事後の家賃は、これまでの家賃の2倍以上になっていた。

「そんな家賃上昇は受け入れません。」と住人が家賃上昇を拒否すると、血も涙もない大家はアパートを工事中の「防音壁」で覆い、アパートの廊下に資材を運び込み、壁に大穴を開けたあとで、工事を辞めた。住人が嫌気をさして、出て行くのを待つ作戦だ。もし市営住宅があれば、他の市営住宅に移れたろうが、市が貧困層の面倒を見ることを放棄したので、行き場がない。この傾向にさらに拍車をかけたのが、数年前から続く低金利だ。

これまで投資家は足りない建築資金を補助金として自治体から得ることで、市営住宅を嫌々ながら建設してきた。ところが金利が低いので、何も自治体に融資を頼まなくても、銀行に融資を頼んでも夢のような低金利で金を借りることができる。そうすれば最初から高級住宅として売り出せるので、資金の回収は早い。資金が回収できれば、次のプロジェクトに取り掛かることができる。又、ゼロ金利で投資方法に悩む銀行は、確実な投資である住宅建設に喜んで投資した。結果、ドイツの不動産会社はルネッサンスを迎え、株価はわずか数年で数倍になった。その反作用として、市営住宅の数は減り続けている

そろそろ次の選挙が心配になってきた政府は、"Mietbremse"(家賃ブレーキ)を国会で可決、賃貸人が交代して新しく契約を結ぶ際、家賃はその町の"Mietspiegel"(平均家賃)より、10%以上高い家賃を請求してはならないとした。そこまではいいのだが、この法案には抜け穴があり、新築のアパートには適用されない。投資家は最初から法外な家賃を設定する事で、この法律の効果を相殺する事ができる。さらにハンブルク、ミュンヘンなどの家賃がすでに高い町の家賃は、この法律で安くなることはなく、これからも高値安定するだけだ。

個人投資家のような行動を取っている地方自治体だが、中には幾つか例外がある。ケルンとミュンスターは、「新しく建設されるアパートの1/3は市営住宅にすべし。」と条例を設定、微力ながら不動産業界の攻勢に抵抗している。今年からはデユッセルドルフとドルトムントもこの同盟に加わる予定である。今後もこの同盟に参加する都市が増えれば、家賃の上昇は自然と抑えられることになるだろう。ちなみにオーストリアは、ドイツよりも賢い市営住宅政策を実施している。国が所有している土地を安く譲渡、あるいは賃貸してそこに6階建てのアパートを建設させている。条件は安い土地代の引き換えに、家賃も安く設定する事。こうした物件が、市内の平均家賃の上昇を抑えるブレーキとなり、ヴィーン家賃はドイツの地方都市並みに安い。

日本を見てみると、地方自治体が市営住宅、県営住宅を保有、経営しており、ドイツより社会的な制度を持っている。もっとも日本の市営住宅は、改装工事を全くしないのだろうか。岡山の県営住宅は廃墟にしか見えない。でもよっく見ると人が住んでいる。40年間、ペンキさえも塗っていない。さらには、「あそこは県営(市営)住宅があるので。」と差別の言葉を聞くのは、大いに驚いた。ドイツでも高い収入を自慢する人は居るが、低い収入だけで差別の理由になることはない。
          

廃墟じゃないです。岡山の県営住宅です。
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ご存知フッガー屋敷。家賃は1ユーロ、それも1年間。
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