hingeschmissen! (11.06.2015)

ドイツ銀行。ドイツに来ると、「なんだかよさそう。」と名前だけでここに口座を作る方も少ないないが、一体、どんな銀行なのだろう。この銀行はドイツで最大の規模/資本を誇る銀行で、かってはドイツが誇れる銀行だった。(前)シュミット首相は、「金融で助言が必要なときは、ドイツ銀行の頭取に助言を求めることができた。」と語ったほど、大事な局面では頭取が銀行の利益ではなく国益を最優先した助言をしてくれた。そのシュミット首相が今、銀行員、とりわけ"investmentbanker"(投資銀行員)について語ると、"Kleinkriminelle und Investmentbanker"(軽犯罪者、そして投資銀行員だ。)と社会の悪として語る。世界で営業する主要銀行の行いを見ると、他に適切な言葉が見つからない。勿論、日本の銀行も例外ではない。一般市民への融資を断る一方で暴力団に融資を行い、これがばれそうになると隠匿する銀行、テロ支援国との取引禁止令を無視して取引を行う銀行など、ちゃんと世界の主要銀行のスタンダードを保持している。

ドイツ銀行のスキャンダルの歴史は長い。すでにここで何度も紹介した通り、検察がドイツ銀行の本社に家宅捜索に押しかけて書類を押収していくなど、まさにスキャンダルなしでは語れない銀行だ。利率操作の廉では米国の司法当局から法外な25億ユーロの罰金を課された。罰金がこれほどまでに高額になったのは、理由がある。司法当局が公定歩合の操作で調査を開始すると、ドイツ銀行は操作を否認、証拠を抹消しようと最後まで抵抗した。そのあきらめの悪い態度にお灸をすえるべく、司法当局は高額の罰金刑を課した。罰金を払ってひとつ解決すると次の問題が出てくるのがこの銀行で、次は外貨操作疑惑。ドイツ銀行はスケープゴートとして3人の銀行員を首にしたが、司法当局がそれで見逃してくれるとは思えない。今度の罰金は、先に払った罰金よりもさらに、それも決定的に高くなりそうだ。リーマンショック以来、ドイツ銀行が稼いだ金は罰金に消え、株価は低迷を続けている。

さらにはここでも紹介したキルヒ裁判でドイツ銀行は敗訴した。裁判官はドイツ銀行の歴代頭取に対して、「真実を言います。」と宣誓したにもかかわらず、虚偽の証言をしたと判断。こうしてドイツ銀行歴代の3頭取が、ミュンヘンの地検に訴えられることになった。どこかの銀行の頭取がひとつでも訴えられえたら、大きな騒ぎになる。ところが今回訴えられたのは、ドイツで最大の銀行の頭取で、それも歴代3人の頭取なのだ。多少ともまともな銀行で起こりえる事態ではない。

現在のドイツ銀行の頭取はドイツ人とインド人の二人制で、2012年に有名なアカーマン頭取の後釜に納まった。それからいつ終わるともしれないスキャンダルの暴露が始まった。当初は、「アカーマン時代の違法行為だから。」と、まだこのコンビ頭取には理解があった。ところが上述の利率操作は、ジェイン頭取がロンドンで投資部門の長だった時代におこなわれたので、無責任ではない。さらにもう一人の頭取は、キルヒ裁判で虚偽の証言を行った頭取の嘘をカバーするために、虚偽の証言をした(と訴えられた)。スキャンダルが次々に明るみに出ると、ドイツ銀行は銀行内での"Kulturwandel"(社内慣習)の転換を宣言したが、これはリップサービスだけで終わった。ドイツ銀行の慣習/悪習は、頭取から頭取へと、そして上司から部下へと脈々と受け継がれている。

罰金の支払いで配当金が低迷、株価も低迷を続ける中、頭取コンビは起死回生の新しいビジネスプランを発表すると告示した。スキャンダルにうんざりしていた株主は、スキャンダルの張本人である投資部門を縮小して、スイスのUSBのように世界の富豪の財産資産管理などの、危険が少ない部門を拡大することを望んだ。別の投資家は、日本の銀行のように投資部門と顧客部門を切り離すことを望んだ。ところがドイツ銀行が明きからにした新しいビジネスプランは民間部門であるPostbankを赤字売却、大きな儲けにならない海外の支店の幾つかを閉鎖、そして投資部門はわずかに規模を縮小するも、これまで通りの体制で営業を続けると発表した。というのも世界の主要銀行がスキャンダルに懲りて投資部門を縮小している今こそ、有能な人材を確保できる絶好の機会だ。今こそこの投資部門に投資をする時期で、「埃が収まったら」一人勝ちしようと考えた。

ところが市場の反応は、ドイツ銀行の頭取が期待したものと全く反対だった。新しい計画が発表されると株価は即日、7~8%も下落、そして1ヶ月で20%も株価を落した。頭取にとって間の悪いことに5月末は株主総会だ。スキャンダルに次ぐスキャンダルで地に落ちた名声と株価、そして偽証で訴えられている頭取、日本の総会屋はドイツには居ないが、それでも愉快な株主総会になるとジャーナリストは期待して議場に詰め掛けたが、その期待は裏切られなかった。株主総会では銀行の頭取への信任投票が行われる。通常、これは身内の株主が賛成票を組織票で投じるので、90~95%の信任結果が出る。そして頭取は株主からの信任に礼をいい、総会は閉会する。ところが蓋を開けてみると、今回は空前の61%という低い信任率だった。組織表がなければ、過半数させもやばかった。

頭取コンビはこの投票結果にショックを受けたに違いないが、それでも"business as usual"で日常の業務に戻ろうとした。しかし株主総会が終わると、信任投票の結果は頭取の首を真綿で絞め始めた。メデイアは頭取、銀行員、そして世間が忘れないように、数日に渡って朝から夕方までのこの信任投票の結果を報道すると、従業員は銀行の執行部に対して信任を失った。従業員の信頼なくして(早い話が抵抗を受けながら)、ドイツ銀行の新しいビジネスプラン計画を遂行するのは難しい。こうして頭取は計画を先に進めることができないばかりか、すでに発表してしまったので、後戻りもできないジレンマに陥った。そしてクライマックスは6月7日にやってきた。

ドイツの週刊誌が、「ドイツ銀行の頭取が(お揃いで)役職を"hingeschmissen(放り投げした)!」とすっぱ抜いた。翌日、銀行はこれを認め、ジェイン頭取は6月末日に、フィッチェン頭取は引継ぎの為、1年間取締役に在籍して翌年の株主総会で辞任すると発表した。哀れ、150年も続く伝統のあるこの銀行で、3年も続かなかった頭取はかっていない。この頭取辞任のニュースが伝わると、株主と市場は大いに喜んだ。ドイツ銀行の株価は一時、8%、株価にして30億ユーロも上昇した。この日は欧州で株価が大きく下落したので、もし株価が上昇する日にこのニュースが伝わっていれば、10%を越える急上昇だったに違いない。ちなみに後釜の頭取には、USBからドイツ銀行に移籍してきたイギリス人の John Cryan氏が就任する事になった。またしても"investmentbanker"出身の頭取だ。これでスキャンダルのない銀行に変わることができるのだろうか。

編集後記
10月になるとドイツ銀行は今度は金(キン)の価格を操作したとして米国の司法省が捜査を初め、そして訴えられることになった。利率操作、為替操作、金価格操作、ドイツ銀行が操作してない物があるのだろうか。この知らせを受けてドイツ銀行は、2015年第三期の決算に600億ユーロ、日本円で8兆円を越える赤字を出すと発表した。ここまで赤字が膨らんだのは、罰金が支払えるように、資金を準備する為だ。言う間でもなく、この銀行が過去出した最高の赤字額で、リーマンショックのときよりもひどい。新頭取は、「前任者の任期中のことなので。」とまだ責任逃れをできるが、このいい訳は前任者が使って、そして失敗する事になった。リップサービスはもういいから、銀行の内部を刷新しない限り、同じ運命に終わることだろう。果たして刷新を行うだけの実行力と勇気があるか、蚊帳の外から観察させてもらおう。


辞任したフィッチェン氏とジェイン氏の頭取コンビ。
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