kommt oder kommt nicht? (07.07.2015)

夏休み。首相を筆頭に、スキャンダルを起す政治家、これを報道する記者までも休暇を取っているのでこの時期に大きなニュースはない。(ドイツでは芸能人の醜態は、滅多にニュースになりません。)ドイツ人はこれを、"Sommerloch"と呼び、ひと時の休息の時間になる。ところがその間隙を利用して、これまで日の目をみない政治家が毎年、おかしなことを言う。本人は大真面目なのだが、所詮は日陰組みの政治家、そのセンスがどこかずれている。彼等が好んでテーマにするのが高速道路の有料化だ。ドイツでは、車は聖書と十字架の次に神聖なもの。これを高速料金で冒涜すると、その天罰は素早くやってくる。首相なり党首が休暇から帰って来ると、「高速料金の有料化はない。」と短い言葉ではっきり否定、留守番をしていた政治家は、「余計なことは二度と口にするな。」と叱られて、このテーマはそれで終わってしまうのが、ドイツの夏の風物詩である。

2013年に総選挙があった。その際、テレビで首相候補の論議が交わされた。その場でメルケル首相は有名な一言、"Mit mir wird es keine pkw maut geben."「私が首相である限りは自家用車の高速使用料の導入はない。」と発言、対立首相候補とは違う態度を取った。この一言が決め手になったわけではないが、メルケル首相が選挙で勝利したので、高速道路の使用料導入は有りえない筈だった。ところがドイツには、いつも他の州と意見を異とするバイエル州があった。この州の独裁政党CSUはロシアや北朝鮮のように、選挙民の注目を党内のスキャンダルから他のテーマに逸らすことにかけては、卓越した手腕を持っている。

閣僚の不祥事で野党に攻撃されやすい側面を露呈していたCSUは、野党がこの側面を突けないように、総選挙に向けて新しいスケープゴートを準備していた。今度、バイエルン人の敵として上げられたのは、外国人だ。それもとりわけオーストリア人。オーストリアでは数年前から高速道路が有料化され、高速に乗る前に"Vignette"と呼ばれる高速料金納入シールを購入、車のフロントガラスに張って置く必要がある。ところがバイエルン州の住人は、オーストリア国内をわずか数キロ走る程度なので、「わかりやしない。」と高速代を節約しようとする。しかし同じドイツ国民であるオーストリア人は、ドイツ人が倹約家で高速料金シール代を節約することなど、とっくにお見通しだ。そこでオーストリア領に入ってわずか数キロ先に検問を設け、ドイツナンバーの車ばかり誘導している。これがとってもいい商売。罰金は120ユーロで高速代金の数倍だ。

おまけに、「お前らオーストリア人はドイツの高速を無料で使っているのに、なんでドイツ人はオーストリアの高速代を払うんだ。」などとドイツ人が抵抗する事もちゃんと予測。その場合は、あとから罰金が手紙で郵送され、罰金額が300ユーロに倍増しているので、賢いオーストリア人は笑いが止まらない。倹約家のドイツ人はシールを買っても、車のフロントガラスにシールが張らず、「次回使おう。」なんて考える。しかしシールをフロントグラスに張っていなければ、それですでに違反。「そんな解釈には納得できない。」なんてドイツ人が抵抗すると、さらにオーストリアは儲かる巣晴らし仕組みを導入している。

そのオーストリアに一矢報いるべくCSUは、「ドイツ人は外国で高速料金を払っているのに、外国人(ここではオーストリア人を指す)がただでドイツの高速を使ってもいいのか!」と呼びかけた。CSUの計画では、ドイツの高速道路をすべての車、国内登録車、外国登録車にに対して有料化する。そしてドイツで登録されている自家用車に対しては、自動車税を同じ額だけ下げることで、さらなる負担がかからないようにする。こうして、「実質、ドイツ人はこれまで通り無料。払うのは外国人。」と選挙民に訴えた。バイエルン人はこれに大いに賛同、総選挙ではこのテーマが注目を浴びた。だから首相が上述のように高速の有料化について、私見を述べることになった。そして首相率いるCDUとバイエルン人民党CSUが勝利を収めたので、高速道路の有料化について矛盾する事となった。首相は「高速道路の自家用車の有料化はない。」と明言、公約、しかし一緒に選挙戦を戦ったCSUはこれの導入を連立政権の条件としたので、大いに揉めた。

日本に住んでいる方は、「そんな面倒なことはしないで、外国車だけ有料化すればいい。」と思われるかもしれない。しかし外国車だけに料金を課すのは、「不当な競争」として、EUの法律に抵触する。そこでまずはすべての車に高速料金を払ってもらい、国内登録車には優遇措置を導入するという方法をとらざるを得ないのだ。

「"Der Kluegere gibt nach."(賢いほうが譲歩する。)という通り、この件でも首相が譲歩、高速道路の自家用車への有料化が連立政権の同意書に明記された。しかしこのときから、「結局は外国人を差別する法律はEU協定に抵触するので、EUからイエローカードをもらって、この案はボツになる。」と言われており、あまり賛同者は多くなかった。そんな事になれば政治的ダメージを蒙るからだ。さらにはスイスやオーストリア国境の田舎町では、スイス人、オーストリア人が、「ドイツで買うと安い。」と国境を越えてお買い物に来ている。こうした地域にとってはスイス人、オーストリア人はいいお客さんだ。その上客が高速道路の有料化で、「スイスで買っても同じ。」と買い物に来なくなると、地方自治体へのダメージは大きい。それで野党が過半数を占める上院では、この法案がブロックされる可能性も高かった。

しかし結局は首相がSPDの州知事に、「有料化の導入は同意書に明記されている。」と圧力をかけて、上院を通過、あとは大統領がサインをするだけとなった。ところがここでEUが、「ドイツの高速有料化法案は、EUの規定に抵触する。」と声明を出し、EU委員会はドイツの大統領に対して、「白黒はっきりするまでは、法案にサインすべきではない。」とアドバイスをした。しかしどういうわけか大統領はこの助言を無視して法案にサイン、こうして高速道路の有料化は正式に法案となった。するとEU委員会は直ちに協定違反処置を発動、ドイツ政府に対して改善要求が届く見通しだ。なればドイツ政府はこれに対抗してEU裁判所に訴えて、ここで争われることになりそうだ。

賢い観察者は、「政府はすでにこの違反措置の発動を計算に入れて、この法案を採決している。」という。すなわちEU委員会、そしてEU裁判所で仮に違法の判決が出た場合、ドイツ政府が取れる措置はひとつだけ。すなわちドイツで登録されている車への自動車税の軽減を帳消しにして、外国人とドイツ人の差別をなくすことだ。ドイツ人は大いに怒るだろうが、有料化法案は国会で採決されて、大統領の署名で正式に法律になっているので、今更後戻りできない。こうしてドイツ政府は数十年前から企んでいた高速の有料化を、裏口を使って達成できるというのだ。もしそこまでドイツ政府が考えてこの法案を作ったなら、一枚上だった。そしてCSUの選挙プロパガンタに載せられた選挙民は、そのツケを払うことになる。外国人を攻撃して人気を得ようとする政治家を信用すると、こういうことになるいい見本である。

編集後記
2015年末の時点では、ドイツ政府は高速道路の自家用車に対する有料化をストップして、委員会が出す結論を待っている。ちなみに高速料金をすでに導入しているオーストリアでは、国内登録車に対する優遇措置が施行されており、「何故、ドイツで同じことをすると駄目だのだ。」と言うドイツ側のもっともな議論もあり、委員会がどう判断するか、予想がつかない。


高速有料化なるか?
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