難民神話 (28.08.2015)

日本でもドイツ(欧州)に押し寄せてくる難民について報道されているが、的を大きく外したものが多い。その原因は「聞いた話」を信用して、データの裏づけ調査もしないで報道する日本のメデイアにある。そんな報道を見せられた市民はこれに感化され、「イスラム国のテロリストがドイツに入国、街頭でその旗を掲げて恣意行進している。」とか、「ドイツでは20万円も、しかも無期限に生活費が支給されるので、誰でもドイツに行きたくなる。」などと事実とはかけ離れている話をまことしなやかに語りだす。どんなに真っ赤嘘でも必用に繰り返せば、「真実かもしれない。」と思い出す人がいる。こうして日本では現実とは異なる難民神話が出来上がってしまっている。そこで今回は、現実の難民事情を紹介してみたい。

まずは難民の数から。内務省は今年だけでドイツにやってくる難民の数を80万人と予想している。日本の都市で言えば、大阪の堺市の人口に相当する数の難民が、今年だけでやってくることになる。これがドイツの社会に与える影響が大きいのは、言うまでもない。しかしネットで語られているような環境とは大きく異なる。難民は登録作業が終わるまで、簡易施設、早い話がテントに収容されて順次、登録されていく。ところがドイツ政府は長い間難民問題を、「イタリアとギリシャの問題」とみなして、対策を一切とっていなかった。EU協定で、「難民は最初に足を踏み入れたEU加盟国で難民の申請をする。」と唄っているので、欧州の内部にあるドイツまで難民が登録されないで来るとは思ってもいなかったのだ。この結果、難民はシリア内戦が始まって4年間増え続けてるのに、全く難民対策を行っていなかった。そしていざ、難民が大量に押し寄せてくると、難民を登録しようにも人員が少なく、さらには言葉が通じないので、登録作業は全く先に進まず、登録を待たされている難民の数が増える一方だ。結果、難民はテントにも入れず、先進国のドイツまでやってきて、野外で寝起きする事を余儀なくされている。まだ夏のうちはまだ我慢できるが、9月になると夜間は気温が10度を割り始める。いつまでの野外での生活を強いることはできない。

そこで自治体は体育館や工場跡、さらには撤収された軍の駐屯地内に難民の受け入れ施設を急遽設けているが、とても数が足りないし、間に合わない。日々、送られてくる難民を受け入れるには、強硬手段に出るしかない。そこであらかじめ市民の意見を聞かず、いきなり郊外の空き地が柵で仕切られて、ここに広大なテント群が張り巡らされる。その後、「郊外に難民受け入れキャンプを開設しました。」と事後承認を取る形にした。北で発電された電気を南に送電する為、送電線を張り巡らす計画が持ち上がると、猛反対するのがドイツ人だ。日々の生活に必要な送電線でさえ我慢できないドイツ人が、日々の生活に必要ない難民への理解度は低く、市の勝手な決定に猛反対している。

日本ではムード作りの為、こうした難民受け入れ施設に反対するドイツ人の姿、言動ばかりが報道されている。難民の受け入れに反対する人が多いのは事実だが、同時に"Ehrenamtliche"といって無償で朝から晩まで難民を助けるために働いている数多くのドイツ人の姿を無視している。このようにして、「現地からの報道」といいながら、事実の一面しか日本では報道されない。「日本が難民を受け入れると、同じ目に遭うぞ。」という意識を市民に植え付けたいために、このように故意に一方的な報道をしているとしか思えない。

こうしていつか登録作業されることを夢見て、難民は数ヶ月もテントで生活をするか、20平米の小さな部屋に二階建てベットを4つも押し込んだ寿司部屋での寝起きを強制されている。登録されていないので、食事と寄付で寄せられた服以外は何も支給されないし、無料ドイツ語コースなんて夢物語だ。日本で語られているような夢物語を信じ、命の危険を犯してやってきて難民は、「毎日、待つだけ。おまけにどこに行っても難民だらけだ。」と苦情を言っている。ドイツに行けばアパートが準備されており、家電製品も国費で支給され、ドイツ語コースも無料で受けられるというドイツユートピア報道とはかけ離れている。

どのくらい日本では間違った印象が伝わっているか、これを証明するいい例がある。ある人は、「何故ドイツは難民を受け入れるのか。」と問い、「景気のいいドイツは単純労働者が不足しているので、シリア難民を安い労働力として利用するつもりだ。」とか、「この機会に人材を確保して、将来の競争力を確保しようとしている。」などと主張している。現実を知らないで推測だけで物を言う典型的な例だ。まずドイツには、ドイツ語を話し、ドイツの慣習に通じている単純労働者が掃いて捨てるほど居る。今でも280万人の失業者がいるのだ。ドイツ語を解せず、ドイツの文化を理解しない単純労働者など要らない。そして難民のわずか15%が高等教育を受けているに過ぎず、35%は高校まで、残りは学校に通っていないか、小学校まで。そして高等教育を受けている人でも、幼子を抱えて仕事に就けるわけがない。さらに多くの難民は戦争の災禍で精神的なダメージを負っている。一体、どれだけの人材が、ドイツの国際競争力を高めることになるだろう。無理して難民を確保して将来の競争に備えるよりも、ドイツ人に高等教育を施したほうがよほど効率がいい。

では何故、ドイツは難民を受け入れるのか。それは憲法に、"Politisch Verfolgte genießen Asylrecht"「政治的に虐げられている人間は、亡命申請をする権利がある。」と書いているからだ。「亡命を申請できます。」という裏口を残した表現ではなく、"Asylrecht"(亡命できる権利)と唄っているので、難民を受け入れなければならない。そんな簡単な理由さえも、無視されているのが日本の報道だ。日本の様に蚊帳の外に居て、ドイツ、あるいはその他の国の難民生活を非難するのは簡単すぎる。世界第三の経済力を誇る日本は今年、13人難民を受けいれたそうだ。13人で定員なら、ドイツではすでに1分で定員だ。スケールが違いすぎる。日本にはドイツの難民政策を非難する権利はない。

編集後記
2015年にドイツにやってくる難民の数は80万人では済まず、100万人を越える。大量の難民はバルカン諸国を縦断、オーストリアに入国すると、オーストリア政府はバスでドイツ国境/バイエルン州まで、難民をバスで移送している。それも予告なしで数千人もドイツ国境に放り出してる。怒ったバイエルン州の州知事は、オーストリア政府を攻撃するなど、近隣諸国との関係まで難民問題で悪化している。この原因はメルケル首相にある。

この夏にハンガリー政府が急遽こしらえた柵で数千人の難民が立ち往生することになった。後に戻ろうにも、全財産を"Schleuser"(移民マフィア)に払って、何処にもいけないからだ。ここでメルケル首相は、難民は"Herzlich willkommen!"(大歓迎)と声明を出し、難民を受け入れた。この声明後、アフリカ、トルコ、イラク、アフガニスタンで生活していた難民が黒波のようにドイツを目指して動きだした。この失言に気づいた政府は、「国を出ないようにしよう。」とアフガニスタンなどでキャンペーンを開始したが後の祭りだった。ただでも難民対策に悩まされていたハンガリー政府は、「難民問題はドイツの問題である。」とドイツを非難。あのスウエーデンまでも国境を閉じる事態となり、メルケル首相はドイツ国内は言うに及ばす、欧州でも孤立した。しかし失言を認めたくない政府は、よりによって難民の元凶であるイスラム国を支援しているトルコに30億ユーロの身代金を支払い、難民がトルコを出ないように取り締まってもらうことにした。お陰でトルコ政府はイスラム国から安価に石油を手に入れることができるばかりか、EUからも補助金をかしめる事に成功して笑いが止まらない。あの一言、決断はメルケル首相の長いキャリアでも最大の失敗だった。今やこの首相の判断が、政治生命を終わらせかねない事態に発展中だ。

ドイツに到着した難民の
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受け入れ施設はすでに限界。
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