Bankgeheimnis ade!  (25.11.2015)

かって"Bankgeheimnis"(銀行口座の秘匿)はドイツでも通用していた。税務署が、「この人物が税金を払っていない可能性がある。」と疑っても、銀行に口座の詳細を問い合わせることはできなかった。勿論、問い合わせてもいいが、「当銀行は顧客の口座の秘匿義務があり、お答えできません。」と言われて、相手にしてもらえなかった。そこで金の動きを把握するには強制執行状を裁判所から取り付けて、疑っている人物の口座の詳細を銀行に要求する必要があった。しかし裁判所はかなり確かな状況証拠がない限り強制執行状を発行しないので、脱税がばれる可能性はとっても低かった。これに終止符を打つ為、ほぼ15年前に法律改正が行われ、税務署はいつでも誰も自由に市民の銀行口座の明細を銀行に照会することができ、銀行もこれを断ることができなくなった。

銀行口座がガラスのように素通りで見れるようになると、お金持ちのドイツ人は税率の低い外国に移住した。ドイツの隣国はドイツよりも財産にかかる税率が低いので、有名人はスイスやモナコに移住した。海外に移住できない金持ちは、隣国に銀行口座を設けてそこに資金を隠した。と言うのも有名なスイスの銀行のように、外国の銀行は外国政府、とりわけ税務署からの問い合わせに対して、"Bankgeheimnis"を守り、「当銀行は顧客の口座の秘匿義務があり、お答えできません。」と返答していたからだ。これに業を煮やした政府、とりわけ米国政府は米国に支店を置いている銀行に対して、「米国国籍の顧客の名前をあかせ。さもなければ米国での営業許可を取り下げる。」と圧力をかけた。これに負けてスイスの銀行は、顧客のデータを米国政府に明かした。こうして"Bankgeheimnis"の一角が崩れた。「ドイツ政府も同じように圧力をかけるべきだ。」と野党から要求された政府与党は、大事な政治献金を贈ってくれるお金持ちを守るため、「具体的な疑いがある場合は、問い合わせをすることができる。」という煮詰まらない妥協策で逃げた。

税務局が本当に自由な采配を振るうことが許されていえば、この妥協策でも、かなりの数の脱税者を挙げることができたろう。ところが政府与党は税務署に自由采配を取ることを許さず、あらかじめ証拠が挙がっている場合のみ、そのような照会を許可した。その結果、年間わずか10数件の問い合わせが行われる程度に留まった。業を煮やしていたNRW州の税務署は、スイスの銀行員から顧客のデータが入ったCD(盗難)を提供されると、数百万ユーロ払ってこのCDを入手した。その効果は絶大で、「見つかる前に告白すれば、罰金だけで済む!」と"Selbstanzeige"(自分自身の脱税を申告すること。)が相次いだ。結果としてNRW州の税収入は18億ユーロも上昇したので、十分に元が取れた。顧客のデータを盗難して銀行を首になった銀行員も、定年まで銀行で働くよりもはるかに高額の「退職金」をNRW州の税務署からもらい、ほくほく顔。このサクセスストーリーを見た銀行員は、「今でしょ!」とこぞって銀行のデータを違法にコピーして、ドイツの税務署に売り込み始めた。

スイスの銀行は、ドイツの税務署を犯罪幇助で警察に届け出を出し抵抗をしたが、金の魅力の方が強かった。スイスばかりか、リヒテンシュタイン、ルクセンブルクなどの銀行員も、「今でしょ!」とこぞって銀行のデータを違法にコピーして、ドイツの税務署に売り込み始めた。こうして"Bankgeheimnis"は存在しているものの、事実上、スイスチーズのように穴だらけで、金持ちはいつ隠し財産が暴露されるかわからず、不眠症に悩まされることになった。この犠牲者になったドイツの有名人も少なくない。とりわけ有名なのは、ドイツ郵便局の社長や、ドイツのサッカークラブ、バイエルンミュンヘンの社長で、両者とも脱税がばれて社長を辞任、前者は執行猶予で済んだが、後者は監獄行きとなった。

米国の財務署はとりわけ残酷で、「米国市民が、スイスに隠している資金の税金を払った証拠を提示せよ。」とスイスの銀行に要求、これができない場合(できないに決まっている)、脱税で目の飛び出るような高額の罰金を課してきた。ここに来てスイスの銀行は降参した。外国の顧客に対して、「税務署に資産を申告して税金を払ってください。さもないと口座を解約します。」と連絡を行った。これまで外国に資金を隠していた金持ちは、目の前が真っ青になったに違いない。これまで両手を広げて迎えてくれていたのに、「お引取り願います。」というのだ。ドイツの税務署に告白すると、膨大な額の追徴金が課される上に、脱税額が100万ユーロを超えると監獄行きだ。これまで豪華絢爛な生活を送って、名声もあっただけに、これは辛い。しかし他に選択肢がない。こうしてドイツ国内では、脱税の自己申告が相次いだ。最近ではお金持ちの顧客の資産を外国に隠す手伝いをしていた銀行(ドイツの有名な銀行)の証拠が詰まっているCDを、NRW州の税務署が5百万ユーロ(法貨で7億円)も払って購入した。このCDにより収入は700億ユーロと見積もられているので、いい商売だ。

ここまで来ると、"Bankgeheimnis"は紙の上でしか存在しなくなった。結果、先進51ヶ国の間で"Automatischer Informationsaustausch"、通称、"AIA"が締結されることになった。日本語で言えば、銀行口座情報の自動交換。例えばスイスに銀行口座を持っている人がドイツに住んでいると、その人の名前、誕生日、住所、税金番号などがドイツの税務署に自動的に通知される仕組みだ。日本もこの協定に参加しているので、スイスに秘密口座を持っていると、自動的に日本の税務署に通知されることになる。ドイツに住んでいるなら、日本人でも、ドイツの税務署に通知が行く。この協定は欧州内ではすでに2017年から、世界規模では2018年からスタートするので、外国に資金を隠している人は早めに対策を取る必要がある。日本ではそれほど大きく報道されていないので、2017~2018年は多くの有名人が脱税で捕まる年になりそうだ。

これまでは、「それは大変。早く資金をシンガポールに移さなきゃ。」と、まだ資金隠しが可能だったが、スイス、リヒテンシュタイン、シンガポールは言うに及ばず、世界の脱税天国として名高いケイマン諸島まで、この協定を結んだので逃げ先はかなり絞られてくる。それは大変だ!と言われる方は、こちらに協定に参加している国の一覧があるのでご参考に。以前、欧州内の脱税天国であるマルタにドイツのテレビ局が取材に行った。ここに会社の登録をすれば、極端に低い税率が採用されるので、世界中の金持ちが資産をプールしている。この登録を助ける弁護士事務所で、テレビ局のスタッフはお金持ちのフリをして、そのリストを見せてもらった。英語、ドイツ語で書かれている住所は「ぼやし」がかかっていたが、日本語の住所はそのまま放映された。ドイツのテレビだから、誰にもわからないと思ったのだろう。そこには東京の西麻布のマンション名が記入されていた。日本人のお金持ちも、マルタでちゃかり脱税している様子だ。

尚、この協定はドイツの税制にも影響を及ぼしている。これまでは財産を投資して稼いだ金には、"Abgeltungssteuer"の25%、それに東ドイツ復興税(キリスト教徒の場合は教会税も)が加算されて28%程度の税金を納めるだけでよかった。しかし収入には最低でも42%も課税されるので、"Abgeltungssteuer"は金持ちを優遇する法律として非難があった。そこで財務省はこの機会に"Abgeltungssteuer"を廃止して、所得税の高い税率高い税金を課したくて仕方が無い。もっともこれをやると、投資家はドイツに投資するのを嫌がる。さらにお金持ちが何処かの外国に資金を隠すきっかけにもなりかねないので、まだ慎重な態度を取っており、まだしばらくは(日本と比べたら遥かに高い)"Abgeltungssteuer"が存続しそうだ。しかしAIAの協定が世界中で導入される2018年以降、"Abgeltungssteuer"は廃止されるかもしれない。



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