対IS連合軍 (10.12.2015)

しばらく前の話になるが、第二次イラク戦争/侵攻について、どのくらい記憶に残っているだろうか。この戦争は米国がイラクが大量破壊兵器を所有していると国連で主張、国連からお墨付きをもらって2003年5月に米国が主導する多国籍軍がイラクに侵攻した。英国のブレアー首相は二つ返事でこの連合軍に加わることを承諾したが、ドイツのシュレーダー首相は、「ドイツなしてやってくれ。」と国連の採択の前に絶縁状を叩き付けた。ブッシュ大統領はこれを根に持って、シュレーダー首相の電話を盗聴するように指示した。戦争が終わって、米国の大統領、ドイツの首相が変わっても、この慣習はスノードン氏がNSAの盗聴行為を暴露するまで続けられた。当時、「何故、シュレーダー首相は連合軍に参加しなかったのか。」とその理由が推測された。もっともな理由は、戦争嫌いのドイツ国民の世論を考慮して、参加を辞退したというものだった。これも間違いではないだろうが、その後、もっとはっきりした理由が明らかになった。

当時、独裁者、サダムフセインの粛清を恐れて逃げ出すイラク人は多く、ドイツにも多くのイラク人が亡命を申請した。サダムが亡命者にまぎれてスパイを送り込む可能性もあったので、亡命を申請した者はドイツの諜報局の尋問を受けた。その中の一人にイラク人の化学者がいたが、彼はサダムのせいで故国を捨てて亡命せざるをえない状況に憤懣やるかたなかった。そこで一案を講じた。BNDに対して、サダム フセインが毒ガスを製造していたと大嘘をこいた。化学者だけあって、一見すると信憑性のある話だったので、BNDはこれをお仲間のNSAに通報、こうしてイラクは大量破壊兵器を開発、保有しているという話が生まれることになった。BNDはその後、何度かこの化学者への尋問を行ったが、製造方法、製造場所、責任者の氏名、保管場所ついて尋問すると、毎回のように答えが異なっていた。サダムに仕返しをしたいばかりに大嘘をこいているので、辻褄が合わないのは無理もない。BNDはこの時点でこの話の信憑性はゼロと判断して、首相に報告した。こうしてシュレーダー首相は、大義名分の大量破壊兵器は存在しないことを知っており、イラク侵攻に反対した。当然、BNDはNSAにもこの事実を報告したが、ブッシュ首相を始めとする戦争遂行派は、「そんな話は聞きたくない。」と事実から目をそらした。こうしてイラク戦争が国連で認可されて、数多くの犠牲者を出したが、大量破壊兵器は見つかることはなかった。

当時、賢く判断したシュレーダー首相のお陰で、ドイツは侵略戦争に加担する運命を逃れることができた。ブッシュ政権の嘘を信じたブレアー首相はその後、国内で非難にさらされることになったばかりか、戦後、10年以上もイラクに駐留、無駄な死傷者を出して、大金を消耗した。「同盟国がテロリストに攻撃されたのに、これを見捨てるわけにはいかない。」と興奮した状態で決断をすると、あとでろくでもないことになるといういい見本である。皆まで言えば、60年代にフランスがベトナムで大火傷を負ってベトナムからの撤退を余儀なくされた際、米国は共産主義がベトナム全土に広がるのを恐れて、南ベトナムに傀儡政権を樹立した。その後、軍事顧問を送り南ベトナム軍を支援、それだけでは十分ではないことがわかると、今度は特殊部隊を派遣した。それだけでは十分ではないことがわかると正規軍を1師団、1師団と順次に送り込み、泥沼にはまり込んだ。

フランスでのテロの後、フランスはEUに軍事支援を要請した。EUの議定書にはEU加盟国が攻撃された場合、その他の加盟国はすべての支援を行う義務を負うと明記されているからだ。こうしてEU加盟国では国会が召集されてフランスへの支援が検討された。一番乗り気だったのは英国で、ISへの空爆を国会で議決、数時間後にはキプロス島の空軍基地から最初の爆撃機が離陸した。ドイツは今回も「側面援護」に留まることにした。具体的にはアフリカのマリにドイツ軍を派遣、現地で平和監視を行っているフランス軍の負担を軽減する。さらに空爆に使用されるフランスの空母を攻撃から守るため、護衛艦を派遣する、そして戦闘機を派遣してシリア、イラク領空で偵察活動をするなどが主要な支援内容だ。もっと積極的な支援を要求する政治家もいたが、大きな支持は得られなかった。日本の政治家が自衛隊を軍隊と呼ぶと叩かれるのと同じように、ドイツでも政治家が戦争という言葉を使用するとこてんぱんに叩かれる。積極支援は戦争行為とみなされるため、ドイツでは国民の賛同を得られない。もっとも国民が賛同しても、「触れる袖がない。」という問題もあった。

ドイツがシリアに派遣する予定の戦闘機、"Tornado"はドイツ空軍に93機導入されているが、使うことが滅多にないので、使用可能な状態にあるのは29機という情けない台所事情がある。シリアに6機派遣してしまうと、本国防衛には23機しか残らない。それも故障しなければの話しだ。ちっぽけなスイス空軍の方がまだまともな空軍を擁している。しかし冷静になって考えてみれば、何故、わざわざパイロットの生命の危険を冒してシリア、イラク上空で戦闘機を飛ばすのか?無人偵察機を飛ばせば、危険はないし、長時間に渡って広大な地域を偵察できる。なのにドイツ軍には未だに使用できる無人偵察機がない。もう数年も前から無人偵察機を調達する話が持ち上がっているが、直接の戦争の危険がないので先送りになり、未だに一機も導入されていない。こうした背景もあったて、12月始めに「フランス支援策」が国会で議決されると、早速、最初の戦闘機はトルコの空軍基地に向けて出発した

不安なのは今回のドイツ軍の派遣に関して、具体的な戦略が立案されていないことだ。シリアでは数多くの反乱軍、IS、そしてシリア軍が互いに交戦をしている。ロシアとイランは政府軍を支援、米国が支援する反乱軍を爆撃している。ドイツはクルド人を支援しているが、トルコはこのクルド人陣地を爆撃している。そしてトルコは同じスンニ派のIS、それにトルコの少数民族を支援している。まるで戦国時代の様相で、複数の敵が混在しており、一致した支援も戦略もない。政治家はフランスを助けるという高貴な目的に興奮して、通常は控えめなSPDまでもまるで大政翼賛会のように、「回れ右」をした。左翼政党(いつでも軍隊の派遣には反対する。)のもっともな反論、「軍隊を送る前にISの資金源(トルコ、サウジ)、補給路(トルコ)を断つべきで、軍隊の派遣はそれからだ。」を、「同盟国を見捨てる行為」と非難して、このテーマを議論することを拒否した。

実際、ドイツの慎ましい軍事貢献よりも、左翼政党の主張する敵の補給を断つのほうが効果があっただろう。しかしトルコは数百万人の難民を抱えており、トルコをIS支援国と非難するとこの難民が一気に欧州に向かって流れ出す可能性もあり、そんな危険はおかせない。サウジはドイツの武器の大事な輸出先で、お得意さまの機嫌を損なうような行為はしたくいない。こうして安直に軍事支援が決定され、さらには戦略目標も何も決めず、「派遣してから様子を見る。」という見切り発信になった。いつになったら政治家は過去から学ぶのだろうか。先月亡くなったシュミット首相は、このような形の軍の派遣には反対したに違いない。


いつも整備中。
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