EE-Gas (15.12.2015)

今、パリで世界気候会議が開かれている。熱帯のような夏を毎年経験している日本はもっと関心を持ってもよさそうなものだが、この無関心はどうしたものだろう。日本で環境がテーマになると、日本の対策の是非を問わず、まずは中国を指差して、「中国は環境対策にをもっと力をいれろ。」と言うが、中国人の一人頭の二酸化炭素排出量は6.18トン、日本人は9.84トンで日本人は中国人の1.5倍も二酸化炭素を排出している。ちなみにドイツ人は9.4トン。中国は人口が多いので国別で見れば世界一の二酸化炭素の排出量を「誇って」いる。だから環境汚染となると中国を非難すれば、自身の怠慢を隠すことができて都合がいい。しかし中国が行っている再生エネルギーへの投資額は世界一で、2030年までに60~65%減少させるとしている。数字だけみれば立派だが、過去最高の二酸化炭素排出量だった2005年と比較しての数字なので、別の言い方をすれば今後も2030年まで二酸化炭素の排出量は増え続けることになる。

中国批判家は、「それみろ!」と言わんばかりだが、日本もこれまで二酸化炭素の排出量が最悪だった2013年に比較して、2030年までに26%排出量を削減するという「中国式」を採用している。共通点はそれだけではない。日本の二酸化炭素排出量は、中国と同じように毎年増加している。周囲を海に囲まれている日本は、ドイツのように隣国と協議しないで海上に風力発電を大量に設置できる上、波や地熱を使ったエネルギー確保など、ありとあらゆる可能性がある。しかるに政府は、「まずは核エネルギーを推進する」としている。政治と電力業界の癒着のせいで、電力会社が儲かるように原子力発電をフル稼働させようとすることを最優先、ゆっくりとしか環境政策が進まないのも中国と一緒だ。

ドイツでは二酸化炭素の排出量を削減するため、まずは居住区間を断熱して冷暖房を節約する政策を導入した。お陰でドイツのアパートは快適で、日本よりも寒いのに、冬は日本よりも快適に過ごせるばかりか、暖房費用が節約でき、二酸化炭素の排出量も削減できてしまう。次にドイツは車の排出する二酸化炭素を削減しようとしたが、これは全くうまくいかなかった。高級志向のドイツ車は、車体が大きく、重い。当然、燃費が悪く、二酸化炭素の排出量が多い。EUは排ガス規制を厳しくしたが、車ロビーの圧力(すなわちドイツ政府の圧力)で、この法律はスイスチーズのように抜け穴だらけ。車ごとに排ガスを規制するのではなく、メーカーの生産する車を総合して排ガスを規制するというわかりにくいシステムが導入された。すなわちメルセデスのSクラスのように、大量に二酸化炭素を排出しても、スマートを販売することで、会社全体の排ガス平均値が下がって「合法」となる仕組みだ。ところが米国では車種ごとに排ガス規制がある。欧州のゆるい規制になれていたVW社は、米国の厳しい排ガス規制に対応する努力をしないで、テストを操作することで排ガス規制をクリアした。

ドイツの車メーカーは日本車のようにハイブリッド&電気自動車に力をいれるべきだったが、ドイツメーカーはデイーゼルエンジンを使用する方法を好んだ。競争に出遅れたので、日本車に太刀打ちできないからだ。お陰で僅かに生産されているドイツのハイブリット車には、日本、あるいは韓国のメーカーの技術が使用されており、技術力を誇るドイツ企業にしては寂しい限りだ。しかし今回の排ガススキャンダルでデイーゼルエンジンの未来が一気に暗くなった。「デイーゼルエンジンの方が熱交換率が優れている。」というドイツ人の言い訳は、環境問題を前にもう使用できなくなった。とりわけデイーゼルエンジン重視のBMW、販売される車の8割がデイーゼルエンジン、は、「今後は電気自動車に力を入れる。」と発表、会社の方向転換を図っている。

皮肉なことに将来のクリーンな自動車技術で最新の技術を誇るのは、アウデイ、すなわちフォルクスワーゲン社だ。蓄電池技術でアジア勢に遅れを取ったアウデイは、これまで通りの燃焼エンジンで環境を汚染しない技術を、テストの操作ではなく、本当に実現しようとした。それが"E-Gas"という新しい技術だ。ハイブリット車、もっと極端な例では電気自動車は排ガスを出さないので環境にやさしいが、日本や中国で電気自動車を販売しても環境を救うことにはならない。前出のように日本や中国では化石燃料を燃焼して、電気を得ているからだ。そこでアウデイは発想を転換、車を駆動させるエネルギーを環境にやさしい方法で生産する事にした。この方法なら車を駆動させる際に排ガスが発生するが、燃料を生産する際に二酸化炭素を出さないので、事実上、電気自動車と変わらない。

再生エネルギーの問題はその蓄積にある。風のない日、雨の日でも再生エネルギーが十分な量使用できるように、発電して得た電気を蓄積する必要がある。そこでアウデイは風力発電で得た電力を利用して、水を分解して水素を得る。これまではこの水素を家庭用のガスに混入していたが、この水素を何としかして車に使えないかと考えた。日本のように水素駆動のエンジンを開発することも可能だが、金と時間がかかり、出来上がった製品は高価でとても大衆が使用できるエネルギー源ではない。そこでアウデイでは水素に二酸化炭素を加えて、人工のメタンガスを生産することにした。メタンガスならすでに現存の技術で車への応用が可能で、安価に燃料を提供できるかだら。もっとも「人工メタンガス」では響きが悪いので、ドイツではこのガスを"EE-Gas"と呼び、アウデイは誇らしげに"Audi e-gas"と読んでいる。

正確を期すとこの技術/パテントを有しているのは、"Deutsche Energie-Agentur"、通称、"DNA"で国が資金を出している研究機関だ。ここで化石エネルギーや核エネルギーに変わるエネルギーを開発、パテントを取って世界中に製造のノウハウ、さらには生産工場を売り込む戦略だ。この技術を最初に取り入れたのがアウデイであったのは、果たして偶然だったのか。それとも排ガステストの操作はいつまでも続くものではないと考えて、デイーゼルに変わる新しいエネルギー源を探していたのか。本当の理由は何処にあるにせよ、このアウデイの"E-Gas"製造施設は2013年末に完成、アウデイはこの"EE-Gas"で走行する新しいモデル、"g-tron"を販売している。新車の値段は22450ユーロ(消費税19%込み)からなので、Miraiのような大金を払わなくても、環境にやさしい車に乗れる。おまけにMiraiよりも全然、カッコいい。走行距離は300kmあり、ドイツに900以上ある天然ガスのスタンドで給ガスできる。天然ガスは減税されているので、満タンにしてもたったの15ユーロ。自動車税はたったの68ユーロ。国の補助金がないので車の値段は少々高いが、安い維持費で十分に元が取れる。

不思議なことに"EE-Gas"製造施設を作ったのは、アウデイだけ。ドイツの大手電力会社はこのトレンドを見事に見逃している。この施設の運営が順調に進めば、"EE-Gas"を使用して発電することも可能になる。その暁には、アウデイは自社で生産した"EE-Gas"ガスを電力会社、ガス会社に販売できる。これまで車メーカーは車の製造販売で収入を得ていたが、将来は別の収入源が誕生する。車と違ってエネルギー源には景気の波がなく、順調に収益を上げられるおいしい商売だ。今回のスキャンダルで一番得をするのは、案外、フォルクスワーゲン社になるかもしれない。


Audi Q7 e-tron。Miraiよりも全然安くて、全然カッコいい。
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