Kant (13.01.2016)

自衛隊に装備されている「最新型」の主力戦車は、2010年に導入されたので、日本軍の伝統を守って10式戦車と呼ばれている。当初は次期の主力戦車と唄われたが、10億円という製造費もあって注文されたのはたったの76両。もっとも注文する数が少ないので、1台10億円という値段になったのだろう。一方、ドイツ陸軍に配備されている主力戦車は、ご存知の通り"Leo Zwo"の愛称で呼ばれる"Leopard 2"だが、最初に導入されたのは1977年なので、日本の74式戦車同様に「古い」。30年以上に渡って改善が加えられ、現在のタイプは64トン(ドイツ陸軍のホームページに載っている数字。)、かってのタイガー戦車を髣髴とさせる大型戦車となっている。価格はモデルにより値段が著しく異なるが、最新モデルで値段は1台1000万ユーロと言われている。法貨で14億円/台。日本の戦車よりも4割も高価だ。

もっとも日本の10式戦車はコンパクト化されており、総重量44トン、レオに比べて20トン近く軽い。日本軍の伝統として、装甲を薄くして車重を軽減、燃費をよくする傾向があり、今回も例外ではなさそうだ。仕様が違うので同じ範疇で比較するのは間違いかもしれないが、たった76両では三菱重工の儲けはほとんどなさそうだ。その一方、レオはドイツの隣国、スイス、オランダ、オーストリア、ポーランドは言うに及ばず、トルコ、ギリシャ、さらにはシンガポールからインドネシアまで、18国もの陸軍で採用されており、製造台数は3000台。10式戦車の30倍近い製造台数なので、いい商売をしている。ところが流石に導入から40年近くなると、幾ら改善してもレオ2に変わる新型戦車の導入は避けられなくなってきた。

しかしレオを製造している"Krauss-Maffei Wegmann社"(以後、KMWと略)は、次期の戦車が同じようにベストセラーになるとは思えなかった。第二次大戦型の戦闘は姿を消しつつあり、アフガニスタンのようなゲリラ戦が戦闘の主体になっている今、大型戦車の需要は低い。実際、ウクライナ内戦の前までドイツ陸軍にはたったの225両の戦車しかなかった。ウクライナ内戦によりロシアの脅威が一時的にテーマになったので、国防省は"ausgemustert"(退役)処分した100両程度のレオを買い戻し、再び装備したので配備されている戦車の数が328両にまで増加しているが、将来はドイツ陸軍からせいぜい二百台の注文が取れれば御の字だろう。この注文台数で金儲けをするのは難しい。外国から大量注文が来れば話は別だが、そんな希望的観測で値段を決められない。「注文数が少ないので、一台2000万ユーロです。」とできれば話は別だが、そんな値段をドイツ陸軍が受け入れてくれるとは思えない。一体、どうしたらよいものか。

製造費用を節約する一番の方法は、同業他社と合併する事だ。ドイツにはKMW社の他に、"Rheinmetall"という著名な軍需産業がある。装甲車や火砲を得意するする同社は、とりわけ戦車砲では世界一の技術を誇り、イスラエル陸軍、米国陸軍、さらには日本の90式戦車まで、同社の戦車砲が採用されている。この両者が合併すれば巨大な軍事産業が誕生して、米国やイギリスの軍需産業に対抗できる。しかし"Rheinmetall"社は、"KMW社"を買収するという方法を好んだ。意思がデユッセルドルフとミュンヘンで割れ、会議に告ぐ会議だけで懸案が先に進まないことを危惧してのことだ。"KMW社"にしてみれば、"Rheinmetall"社と合併すれば商品の品数は増えるが、同社のメイン商品である主力戦車の販売が伸びるわけではなく、売上額の多い"Rheinmetall"社に実質上、吸収されてしまうことを恐れた。そこで代案として浮かんだのが、フランス陸軍に主力戦車を提供しているフランスの軍所産業、"Nexter"社との合併だ。

Nexter社はKMW社と同じ悩みを抱えていた。同社はフランス軍の他に、かってのフランスの植民地、すなわちアフリカ、および中東に戦車、装甲車を輸出している。早い話がKMW社が納入できていない国には、Nexter社が納入している。この二社が合併して共同で戦車を開発、製造すればフランス陸軍とドイツ陸軍への受注は間違いなく、製造台数が増えて一車両あたりの製造コストを抑えられる。さらにベストセラーである"KMW社"のレオの評判を考えれば、輸出のチャンスも広がる。まさにウイン ウインの状況のように思えたが、そのような案は三菱重工が韓国の軍需産業斗山インフラコアと共同で戦車を開発するようなもの。そう簡単には行かない。ドイツ側では合併後、これまでの独仏企業合併でよくあったように、フランス側が次第に会社を手中におさめてフランスの会社になることを恐れた。フランス側では、かってフランスを占領したドイツの前で「ズボンを下ろす」には、潜在的な不安(不審)感があった。

こうして合併の話は揉めに揉めた。何度も座礁に乗り上げたばかりか、欧州で第二の規模を誇る"Rheinmetall"社は、二社の合併により、大きな競争相手が出現することを恐れて妨害行為を繰り返した。しかし最後には金銭勘定が勝利した。毎年削られる軍事予算を前に、各国が独自の戦車を設計、製造する時代はいずれ終わりを告げる。ならば先手を打ってフランスとドイツが共同で戦車を開発すれば、未だに自国で戦車を開発している英国、日本、韓国などの軍需産業に差をつけることができる。ドイツ、フランスの両政府の後押しもあり2015年9月に両社の合併が調印された。新しい会社の名前は、"Kant"になるという。あまりパッとしない名前だ。それはそもかく、この合併により欧州で第二の規模を誇る軍需産業が誕生する。これにより、欧州一の規模を誇る英国のBAEにとって強大なライバルが出現することになった。将来、"Rheinmetall"社は言うに及ばず、三菱重工や韓国の斗山インフラコア、その他の軍需産業はコスト面から合併の圧力が高まっていくに違いない。


ベストセラー。
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