Maghreb (24.01.2016)

2015年にドイツにやってきた難民の数は110万人に達した。難民の受け入れを命じられた地方自治体は、あまりの重圧に叫び声を上げている。しかし難民問題を決定する"Bund"(国)、すなわちメルケル首相は問題を軽視しているのか、それとも意地になっているのか、難民の数を制限することを拒否している。難民の到着ルートになっているバイエルン州は、メルケル首相の難民政策を当初から非難しており、「難民受け入れの上限を決めよ。」と2015年から要求しているが、首相はこれを頑として拒否している。そのような要求を受け入れることは去年の首相の発言、「ドイツは難民を歓迎する。」から180度の方向転換を意味するからだ。そこで首相は面子を保つために、「上限は設定しない。」と明言しているが、支援基盤からの圧力を受けて、「"Kontigent"(受け入れ人数)の導入は考えられる。」と微妙な態度を取り始めた。しかしバイエルン州は、"Kontigent"ではなく、あくまでも「上限の導入」に固執しており、中央政府との対立姿勢を明確している。

この微妙な時期に、日本でも(過剰に)報道されたケルンの集団盗難事件が起きた。ケルンの警察署長は、「大晦日名は静かな夜だった。」と発表、大晦日の警察の大失態を秘匿する試みをしたが、この試みは成功しなかった。メデイアがこれを聞きつけて、記事を書き始めたからだ。ケルンの新しい市長は火の粉が自身の見にふりかからないように記者会見を招集、ここで警察署長は大晦日に集団で女性が襲われたことを認め、被害にあった女性は警察に届け出をするように要請した。この場でケルンの(女性)市長は、「男性とは腕の長さだけの距離を保つように。」と女性に助言を与えたが、「自分の国で安全を心配することなく、自由に動けないことがおかしい。」と逆に非難をくらってしまった。その後、ケルンの警察に届いた被害届は800件を超えた。被害の大きさがわかってくるに比例して、州の内務相への圧力も高まった。「内務相がこの事件を大きく報道しないように、警察署長に指示を出していたのではないのか?」と疑われ始めたからだ。火の粉がふりかかってきた内務相は、ケルンの警察署長を解任、「悪いのはケルンの警察」とすることで、州政府のダメージをかわすことにした。

日本ではまるでシリアからやってきた難民が女性を襲っているように書かれていたが、犯人は当初から北アフリカ人と報道されてきた。ここで言う北アフリカ人とは、俗に、"Maghreb"と呼ばれる国(チュニジア、モロッコ、アルジェリア、それにリビア)から来た人間を指す。事情を知らないので、日本ではシリアから来た難民と、このマグレブ諸国からの移民を区別せず、「難民」と同じ扱いをしていたが、事情は大きく異なる。マグレブ諸国からやってくるのは、元々、本国で犯罪を犯し、居心地が悪くなったので、欧州に逃げてきた犯罪者が多い。例えばモロッコ人。難民としてやってきたシリア人が犯罪を犯した確立は0.5%と、まるで日本人並みの優等生だが、モロッコ人の犯罪率は40%を超える。注1)ケルンの集団犯罪でも主犯はモロッコ人とされており、とりわけ犯罪率が高い。ドイツの移民局もモロッコからの移民は厳しく制限しており、ドイツで難民のステータスを受けることはほとんど不可能だ。そこでモロッコ人はトルコで偽のシリアのパスポートを購入、ドイツにシリア人としてやってきている。

「何故、犯罪を犯す外国人を強制送還しないのか。」と言いたくなるが、そう簡単には行かない。というのもシリア人のパスポートを持っていると、戦争中のシリアに送り返すわけにはいかない。仮にモロッコ人と国籍がわかっていても、モロッコは犯罪を犯したモロッコ人の受け入れを拒否しているので強制送還できず、ドイツに「難民」として滞在している。正式な滞在許可はなく"Duldung"(他に方法がないので我慢するという意味)なので、労働許可がなく、生活保護で生活している。する事がないので日々、盗難を繰り返している。ドイツに来ると目の前で踊りだす奇妙な人間に遭うかもしれない。これが今、人気のダンス盗難で、馬鹿げたダンスで注目をひくと、もう一人が後ろから近づいて、財布や携帯電話を掏る手口だ。モロッコ人の第二の故郷になっているのがデユッセルドルフの、"Ellerstr."界隈の"Oberbilk"地区だ。デユッセルドルフ中央駅裏の外人局周辺、あるいはその先にある日本人にも人気のモロッコ人経営の魚屋、あるいはデユッセルドルフの「飾り窓」がある地域だ。

ケルンの事件は、メルケル首相の難民に対する忍耐を損なった。犯人が誰であるにせよ、首相の寛大な難民受け入れの政策を利用、ドイツにまんまと入国するとドイツ人を襲って犯罪を犯しているのだから無理もない。これまで、「捕まえても、司法がすぐに釈放してしまう。」と犯罪を犯した難民を放置してきたNRW州では、デユッセルドルフの「モロッコ地区」をはじめとして、警察が相次いで一斉取り締まりを行い、滞在許可のない外国人を捕獲した。外国人としてドイツに滞在している日本人には、現在の難民事情は「蚊帳の外」の出来事ではない。というのも犯罪を犯した外国人を簡単に強制送還できるように、政府が外国人法令の改正を始めたからだ。改正の趣旨は、執行猶予のない実刑判決を受けた外国人、執行猶予でも性犯罪に関する犯罪を犯した外国人は直ちに強制送還、実刑はドイツではなく、その出身国で服するというものだ。今、ドイツで日本人が滞在ビザを取得するには、すでに厳しい条件を課されている。今後、一部の犯罪を犯す外国人のお陰で、真面目に生活している外国人まで一緒に潜在的な危険として扱われ、さらにビザの審査が厳しくなる恐れがあり、好ましい状況ではない。

そしてドイツ人にわずかに残っていた難民への同情も、ケルンの一夜の事件で消散した。勿論、今でも無償で難民の面倒を見ているボランテイアは多いが、大衆の難民への同情は大きく損なわれた。市民は政府が難民の受け入れを制限するのを望んでいるが、メルケル首相は「欧州の問題なので、欧州で解決する。」と難民の受け入れを制限することを、ケルンの事件後も拒否している。去年、"Wir schaffen das."(難民問題は解決できる。)と発言したので、後戻りが難しいのはわかるが、国民の不安をよそに独自の政策をあくまで追求する姿勢で、首相/与党は支持率を確実に失っている。そしてこの春先には、大事な地方選挙があるが、このままいけば難民の受け入れを拒否している右翼の大勝利となりかねない状況だ。首相はトルコとの取り決めで難民の数が減ることに期待、「春先までには難民の数は大きく減る。」と言っているが、この真冬に毎日3000人を越える難民がドイツに来ており、その数は減る傾向にない。春先の選挙で政府与党は大きく敗北すれば、メルケル首相の政治生命も左右されかねない状況が生じている。

注1)
「難民が犯罪を犯している。」と簡単に難民を断罪する傾向があるが、難民と違法滞在中の移民をしっかり区別するべきだ。さらにモロッコ人の犯罪率が40%に達すると言っても、過半数は犯罪を犯さない真面目な市民であることを忘れてはならない。
 

デユッセルドルフ、マグレブ地区での取り締まり。
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