ドイツ銀行再生なるや? (03.02.2016)

2007年、米国の不動産不良債権に端を発し、2008年に頂点に達した金融危機でドイツ銀行は、不思議と大きな損失を出さなかった。ドイツ銀行は、米国の投資銀行に混じって不良債権を売りまくっていた銀行なので、「結果がどうなるか知っていたので、爆弾が炸裂する前に手放した。」という説もあれば、「大きな損失を隠している。」という説もあり、本当の所は銀行の取締役を除き、誰にもわからなかった。おそらく真実はその両方、すなわち不良債権の危険を熟知していたので、紙くずになる前に手放し、残った不良債権が引き起こした損失の大部分は、オリンパスのような会計トリックで隠したのではないのだろうか。世界を又に駆けて「活躍」するドイツ銀行のこと、損失を注目されない資産価値に隠すことは、容易だったろう。

このドイツ銀行の努力は、ドイツ人が、「水瓶は井戸に落ちても、底に達するまでは壊れない。」と言う通り、しばらくうまくいった。銀行の株価も早めに回復、「アカーマン頭取のお陰で、他の銀行のように大きな被害に遭わなくて済んだ。」と同頭取の最後の株主総会で、株主は長く続く拍手で頭取に感謝した。ところが新頭取が就任してから、水瓶が底に達し、次々にボロが出始めた。ドイツ銀行は利率操作の件だけで25億ドル(邦貨で2.5兆円)もの罰金を貸せれたが、これまはまだほんの序の口だった。世界中で6000件を越える訴えを抱えるドイツ銀行は、罰金の支払いのため55億ユーロもの資金を確保する羽目になった。結果、ドイツ銀行は2015年度の決算で、68億ユーロ(邦貨で9兆5千億円)もの赤字を計上した。2010年に経営破綻して、歴史に残った日本振興銀行の負債額は6000億円少々。ドイツ銀行なら、"Euer Problem möchte ich gern haben."(そんな程度の問題だったら、喜んで。)と両手を広げて歓迎しただろう。

アナリストは赤字を予測していたが、この数字はあまりに大き過ぎた。ドイツ銀行の株価はまっさかさまに急降下、一時は10%を越える下げ幅を記録して、株価は2008年のリーマンショック時の株価、16ユーロまで下落した。今年(まだ始まったばかり)だけで、ドイツ銀行の株価は25%も下落、リーマンショック前には120ユーロ直前まで迫った株価は、当時に比較して90%以上も下落した。こうして井戸の底に達した水瓶は、木っ端微塵になった。ギリシャやイタリアの倒産の危機に脅されている銀行なら話はわかるが、ドイツ最大の銀行なのだ。どれだけ間違った経営をすれば、6000件を越える訴えを抱え、2016年だけで55億ユーロもの罰金支払いに備える事態になるのだろうか。

損失の大部分を占めるのは、将来の罰金の備えての「貯蓄」だが、これまでドイツ銀行の稼ぎ頭だった投資部門が、黒字の代わりに、大きな赤字を出したのも効いた。さらには個人客部門では客が減り、法人部門でも長年の法廷闘争で顧客の信頼を失い、客を失っており、いい所がまったくない。まさに四面楚歌の状況だが、さらに銀行にとって"Paypal"を始めとする新たな金融形態の出現も、銀行業に影を落とし始めている。これまでは何か商品を買う際、送金、あるいはクレジットカードを使用する方法が一般的だったが、どちらの場合でも取引には銀行が必要となる。しかし"Paypal"を初めとするオンライン金融機関は、直接の銀行の仲介を必要としない。欧州内では送金は無料なので、銀行にとって顧客がオンライン金融を利用すると、全く利益がでなくなった。さらにはオンライン金融は支店がなく、支店維持費を節約できる。さらにシステムが自動化されているので、銀行員まで節約できる。旧態依然の支店銀行には、とても勝ち目が無い。

そして銀行は、このオンライン金融の出現を軽視する間違いを犯した。数年前なら同じようなサービスを提供するオンライン金融を作るなり、存在しているオンライン金融を買収することもできたが、すでに大手のオンライン金融機関が定着しており、今更、新参者が参入するのは非常に難しい。米国では大手のアマゾン、アップル、グーグルが共同のオンライン金融の開設に向けて動いており、これまでの銀行の経営形態は、"Auslaufmodel"(時代遅れのモデル)になりそうな按配だ。結果として、これまでのような支店経営はペイしなくなった。ドイツ銀行は今後、なんと900もの支店を閉鎖、15000もの職場を整理するという。この費用を2015年の何時決算に組み込んだので、赤字があそこまで膨らんだ。それでは2016年には黒字になるというものではなく、2016年、2017年は壊れた水瓶の後始末に大金が必要になるので、2年間、配当金はゼロ。唯一のいいニュースは、「配当金をなくす代わりに、株式の増配もしない。」というものだったので、株主は大いに不満だ。5月の株主総会で株主はひと揉めありそうだ。。

ただし去年、頭取に就任したCryan氏は、前任者と同じくイギリス人だが、少し経営のスタイルが違うようだ。前任者は銀行が支払うことになった膨大な罰金について聞かれると、「私は知らないので、取り締まり役員会に聞いてくれ。」と英語で回答、「私には責任が無い。」という態度を取った。あまり感心できる態度ではなない。これに比してクレイン氏は、ドイツ銀行史上最大の損失について聞かれると、「責任を感じる。」としっかりドイツ語で回答、責任のがれの発言をしなかった。勿論、「ドイツ語が話せれば、頭取としても合格。」という単純なものではないが、銀行内の問題を、某日本企業のように会計操作で隠さず、白日の下に晒したことは評価できる。問題を解決するには、何処に問題があるのか、これを認識することから始まるが、ドイツ銀行は2008年にこれをしなかった。あれから8年近く経って、ようやく問題を直視して、はっきりと指摘する頭取が就任した。果たしてクレイン氏は「悪徳銀行」のラッテルを貼られているドイツ銀行を救うことができるのだろうか。
 

頭取に就任したCryan氏
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