食うか、食われるか。 (12.02.2016)

ドイツは今、かってない不動産ブームに沸いている。かっては、「緑の多い郊外に住みたい。」がドイツ人の理想だったのに、「便利な市内に住みたい。」とドイツ人の理想が180度転換、これまで郊外に住んでいた人が一気に都市に流れ込み始めたのが原因だ。しかし都市部の住宅の数は限られており、需要が供給を明らかに追い越した。結果としてベルリンなどの都市部の家賃は、数年で50%以上も上昇している。「今、住宅を作れば儲かる。」と市内の空き地、軍が撤収した駐屯地の跡などに、見るも立派な新築住宅が建っているが、到底、需要をカバーするだけの物件数ではない。さらに新しい住宅は中流階級の上層~上層階級向けのため、どこも家賃が高く、家賃の上昇を止めるどころか、かえって高い家賃を煽っている。

これに加え、都市部では、市内の便利な場所はあらかた埋まっているので、新築アパートを立てようにも土地が無い。そこで不動産業者は古いアパートを買い取ると改装、断熱処理を施し、バルコニーとエレベーターを付けて快適に住めるようにすると、ほぼ倍の家賃で貸し出している。こうした改装されたアパートは、立派な外見の割りに、地下駐車場がないのが特徴だ。こうしてこれまでは、「ガラが悪い。」と避けられていた地域は突然、「今、とってもトレンデイな地区。」として賃貸人を募集しているが、それでも「あっ!」という間に借り手が決まってしまう。独自の不動産物件を持つ不動産会社は、ゴールドラッシュのような好景気に沸いている。業界最大手の"Deutsche Annington"はGagfahという同業者と合併、36万戸を超える不動産を抱え、業績はうなぎのぼり。不動産会社としてはドイツ史上初めて、ドイツのトップ30企業だけが上場できる、"DAX"に昇格、フォルクスワーゲンやジーメンス、BMWやダイムラーベンツと肩を並べている。この機会に会社の名前はVonoviaに変更された。

株式市場に上場している企業は、株主の期待に答えるため、売り上げや利益を上昇させる必要がある。しかしサービス、生産業と違って、毎月、定額の家賃が収入となる不動産業界ではこれが難しい。業績を改善するには、戸数を増やす必要があるが、自らアパートを建てるより、同業者を買収するほうが手っ取り早い。そこでドイツの不動産業界では、買収されなくなければ、他社を買収して会社の規模を広げて買収を防ぐ生き残り競争が始まった。先を越された業界第二の"Deutsche Wohnen"は14万戸の物件を有しており、Vonoviaにかなり水をあけられてしまった。そこで同業者の"LEG"を買収して、Vonoviaに追いつこうとした。するとVonoviaはライバルの誕生を危惧、VonoviaはDeutsche Wohnenの株主に株式買取のオファーを出し、業界第一の会社が、業界第二の会社を敵対買収するという買収劇の幕が切って落とされた。

通常、業界と独占する大きな企業の誕生は価格の上昇を招くので、"Katelamt"(市場監視局)からレッドカードを提示される。しかし今回は何故か、「問題なし。」の判断がなされて、買収に"Go"のサインが出た。Deutsche Wohnenは敵対買収を防ぐため、LEGの買収を棚上げすると、買収用に用意していた金で他社が抱えていた不動産物件を買い取った。それも市場価格よりも高く。VonoviaがDeutsche Wohnenを敵対買収するなら、この高い買い物も一緒に買収しなくてはならないからだ。こうしてVonoviaが買収に用意していた資金では足らなくなった。まるで「敵対買収を防ぐ方法」の教科書のような見事な一手に、市場の注目はVonoviaの次の手に注目された。

Vonoviaは当初、60%を越える株価の買収を目指していたが、資金難によりこの目標を50%+1株まで下げた。そしてDeutsche Wohnenの"Wandelanleihe"(特定の期間だけ所有する社債で、満期になる前なら株式への変換が可能。)を保有している投資家に、「契約期間の満期を待たずに、契約時の利率を支払います。」と社債買取のオファーを出した。するとDeutsche Wohnenは、「"Wandelanleihe"の持ち主には、満期前でも利率も含めて現金でお支払いします。」とやりVonoviaのオファーに対抗した。同じオファー内容なら、オファーに飛びつかず、買収の行方を見極めてから、株式に変換するか、現金で支払ってもらうか、ゆっくり決めることができるからだ。こうして当初は攻撃側に優勢と思われていた買収劇が、五分五分の戦いになってきた。

2月10日、Vonoviaは同社が獲得した株式を発表したが、その数は過半数の50%+1株にはほど遠く、わずか30%程度に留まり、敵対買収は失敗した。この買収劇が成功していれば、NRW州の不動産市場を独占する大きな不動産会社が誕生していた。そうなれば同社は立場を利用して家賃を自由に決めることが可能になり、消費者にとってはありがたくない効果が出ていただろうから一安心だ。もっとも今後も不動産市場は活況が続くだろうから、大手の不動産は小さな不動産会社を引き続き買収していくだろう。そして買収に使った金は家賃の上昇で回収されるので、今後も家賃は(都市部では)上昇は続く。勿論、パリやロンドンなどの不動産状況と比べると、「まだまだ」だが、かってドイツでこれほど不動産価格が上昇したことはない。日本、スペイン、そして米国ではこうした不動産市場の加熱はバブルへと発展、バブルが崩壊するまで終わらなかった。ドイツでは、違った結果になるのだろうか。

一度は住んでみたい高級住宅街。
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