politisch korrekt (14.03.2016)

難民がドイツに押し寄せてきたのをきっかけに、ドイツの社会は真っ二つに割れている。去年、財務大臣のショイブレ氏が「雪崩のように」とドイツに押し寄せる難民を描写したことがあった。日本にはオバマ大領を「奴隷の出身」と表現する政治家もいるので、「その表現の何処が悪い?」と思われるだろうが、戦争の災禍を逃れてくる戦争難民を「雪崩よばわり」するのは正しくないと非難された。ドイツでは、"politisch korrekt"(政治的に正しい)発言が重視される。日本では戦争中の気の狂ったスローガン「一億総玉砕」を現代版にして、政府のスローガンとして使用するが、ドイツでは"No go"(やってはならない常識。)だ。そしてドイツで実際にそのようなスローガンを用いると、処罰は時間の問題だ。警察が警備に動因された際、通信装置がうまく作動するか、「音声テスト」を行った。問題はその文面。かってゲッペルス宣伝相が戦争中、「国民よ、総力戦を欲するか。」とベルリンのスポーツ競技場で大演説をやったことがあった。この警察官は冗談で、「国民よ、総力戦を欲するか。」と音声テストを行った。不幸なことに音声はばっちり聞こえ、これが記者の耳にまで入ってしまった。"politisch korrekt"な表現が重視されるドイツでは、これは非常にマズイ。とりわけ政治家、警察官がやると。この警察官はこの冗談のお陰で、謹慎処分となった。

この例が示すように、「ドイツ人はやっぱりナチス。」と言われないように、難民について報道する際はとりわけ精神を尖らせている。難民がいかに身の危険を冒してドイツまで逃げてきているのか、"politisch korrekt"な報道にやっきになっている。パリでテロがあった際、テロリストの1名は難民を装って入国したことが明きからになった。これは非常にマズイ。100万人の難民中、99万9千9百99人が本当の難民でたったの一人がテロリストでも、「難民に紛れて入国したテロリストが、」と報道されると、「難民=テロリスト=入国させるべきではない。」という図式が出来上がってしまう。そこでテロリストの入国経路に関しての報道は、必要最低限に限定された。難民受け入れ制限派の旗手であるCSUの党首でさえ、「十派一絡げにしてはならない。」と慎重な態度を見せた。世論が反難民ムードに染まると、かってのナチスのように社会が危険な方向に怒涛のように動き出してしまうのを危惧しての発言だった。

ところが国民の少なくない部分は、そのような報道に我慢がならない。こうした人々は、「メデイアは政府と一緒になって事実を隠している。」と疑いはじめ、ネット上では難民が犯した犯罪報道で一杯になった。難民がスーパーに集団で盗みに来るのでスーパーが倒産したとか、羊を盗むと、これをイスラムの戒律に従って首を切り「活き締め」、肉はその場で食されたなど、ありとあらゆる伝説で一杯になっている。日本でも、「難民としてイスラム国のテロリストが大量に入国。イスラム国の旗を振って恣意行進している。」などと、根拠のない主張が溢れている。その「証拠」として挙げられる写真は、"Salafisten"(イスラム原理者)がドイツで宗教勧誘をしている光景だ。そして難民に反対する「ドイツ人」の証拠として上げれるのは、ネオナチの恣意行進だ。ドイツでも日本でも、自分の主張する説に信憑性を与えるために起きてもいない犯罪や事件を捏造、ネットで関係のない写真や映像を拾ってくると、これを証拠として勝手な意見を主張しているのでそんな話に騙されないように注意が必要だ。

日本の難民報道にそっくりなのが、ロシアの報道だ。ドイツには多くの「ドイツ移民」が住んでいる。ロシア国内、ヴォルガ河畔には数世紀に渡ってドイツ民族が住んでいた。ドイツ語を話す人はほとんどなく、話すのはロシア語のみ。生まれもロシアなので、ロシア人と何も変わらないように見えるが、名前が典型的なドイツ人の名前だ。このドイツ移民はソビエト崩壊後、大量にドイツにやってきた。ドイツ政府はナチスの伝統を受けついで「血統制」を採用しているので、ドイツ人の血が流れていると、ロシアで生まれて、ロシア語しか話せなくてもドイツ人と認知され、ドイツのパスポートが支給され、ドイツ語のレッスンは無料、住む場所も(収入が無い限り)地方自治体から貸与される。この為、未だにロシアからドイツに「戻ってくる」ドイツ移民が多いが、ブラジル生まれの日本人のように、慣習が違い、社会に溶け込むのに苦労している。ドイツに来たものの、ドイツ語を話さず、ロシア人社会に留まっているので、ドイツ社会に溶け込めない。

ある日、ドイツ移民の13歳の少女が2日間、行方不明になった。少女はドイツ語が苦手で学校に行くのが嫌になり、友達のアパートに、「家出」しただけなのだが、彼女の周囲の(ロシア移民)ドイツ人は、「難民にさらわれて、2日間、性的暴行を受けた。」と主張した。警察も「行く不明の届け出」が出ていたので調査したが、単に友達のアパートに家出、親には「さらわれた。」と嘘を語ったことが判明した。彼女が携帯していた携帯電話の記録から、この事実が実証された。しかしロシアの外務省は、「ドイツ政府は"politisch korrekt"な報道をするため、ロシア人少女の強姦を隠している。」と非難した。ドイツ移民はドイツ政府よりもロシア政府の発表を信じて、ドイツ政府の「秘匿」に抗議行進を行った。日本でもしこの事件が報道されていれば、「難民による13歳の少女の集団暴行事件」というロシア政府顔負けの報道になっていただろう。

その一方、ドイツには難民受け入れ派も居る。それも政治家のように口先だけではなく、仕事が終わってから難民の世話に出かけて無償で働く人。2015年にはこのように善意で難民のために働く人を"Gutmensch"(お人好し)と呼ぶ言葉まで出来た。数的には劣勢にある難民受け入れ派は、難民受け入れに反対するドイツ人の頭の固さに苦汁を飲まされていた。27年前、かってはドイツ人が東ドイツから逃亡、難民として欧州各国でお世話になった。当時、ダマスカスにあったドイツ領事館に、シリア市民からの募金が届いた。そこには、「ドイツ人難民のために使ってください。」と書かれており、彼の一か月分のお給料が現金で同封されていた。あれから27年経って立場が逆になると、「シリア難民を受け入れると、俺たちの貯金が減る。」と自分の将来ばかりを考えて、恩を返そうともしないドイツ人。そんな風潮に我慢ならない難民受け入れ派の一人が、「真冬にも関わらず、戸外で寝泊りをさせれた難民が病院に収容される途上で死亡した。」とネットに流した。するとネット上では、「戦禍を生き延びて、危険なエーゲ海航路を生き延びて、ベルリンの官庁前で死亡した。」とまるで自分の目で見てきたかのように語られた。これに次々に「尾ひれ」が付いてこのニュースはあっという間に大腸菌のように増殖した。わずか数時間後には、この御伽噺を信じた市民が「死亡現場」を訪問、弔いのろうそくを点す事態にまで発展した。ところが翌日、死亡した難民は存在しておらず、一人のドイツ人のいたずらだったことが判明した。

難民受け入れ派、反対派、どちらも真実の報道よりも、「説得力」、「インパクト」に重点を置いているので、どちらの主張でも真に受けないほうがいい。ドイツに住んで、ドイツの難民事情を追っていて、この有様だ。日本に居て、難民事情の本当の有様を理解することは、まず不可能。あやしげな証拠写真で飾れたニュースを読んで、「難民のせいで犯罪率が上がっている。」などと、すぐに感化されない慎重な態度が必要だ。ドイツに留学経験のある方なら、言葉もわからず、一人で途方にくれたことも何度かあった筈だ。シリアからの難民はもっと深刻で、家、家族、財産をなくして、命からがら逃げてきており、帰る場所さえない。世界中にはそんな難民が溢れているので、難民を無制限に受け入れることはできない。なら素直にスウーデンのように難民の上限を決めて、受け入れた難民の面倒をちゃんと見るべきだ。ドイツのように、「上限は設定しない。」と建前の政策を導入、無制限に難民を受け入れて、数ヶ月も劣悪な環境で放置するとすると、国内が二分される。さらには難民が国民に受け入れられず、国内でゲットーが生じることになる。


死去した難民を弔う?
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